【小倉正男の経済コラム】2021年・「覇権」を巡る米中激突が本格化

小倉正男の経済コラム

■4月8日・武漢市の「都市封鎖」解除

 2020年の世界は、新型コロナウイルス感染症に襲われた1年となった。1月後半に奇妙な話を聞いたのが始まりだった。

 取材先によると、中国・上海の旧工場から建設済みの新工場に移転するのだが、経済が止まっていて引っ越しの予定が立てられないというのである。生産計画が立てられず、売り上げや収益の見込みがつかない。

 そんな事態は、これまで聞いたことがないものだった。その時は、まだ「新型肺炎」という病名だった。新型コロナは、2月~4月にはあっという間に日本にも波及してきた。

 ちょうどその時、中国は湖北省・武漢市の「都市封鎖」を実行していた。武漢市の「都市封鎖」は、1月23日から4月7日までという長期に及んだものだった。武漢市は、新型コロナが世界で最初に発生した都市であり、住民には強権的なほど徹底した検査が行われた。

 4月8日午前0時に武漢市の「都市封鎖」解除が行われた。武漢市は、中国における自動車・同部品、半導体関連のサプライチェーンの拠点都市である。中国は、なり振り構わず新型コロナを抑え込みに踏み出して、そのうえでサプライチェーンの再開を強行した。

■4月10日・習近平国家主席は「依存関係」強化を指示

 武漢市の「都市封鎖」解除から2日が過ぎた4月10日、習近平国家主席は共産党中央財政委員会で、中国のサプライチェーンへの「依存関係を強化せよ」と指示している。

 習主席のこの指示は、共産党理論誌「求是」に掲載され、7カ月後の11月になってから明らかにされた。習主席は、「国際的な産業チェーンのわが国との依存関係を強め、外国が供給を止めようとすることに対する強力な反撃・抑止能力を作らなければならない」と発言。

 サプライチェーンの拠点都市である武漢市の稼働再開は、中国のサプライチェーンの健在を示し、中国のサプライチェーンへの「依存関係」に問題がなく、さらに「依存関係」を強化することを誇示する意味合いがあったわけである。

■新年は米中の世界経済の「覇権」争いが激化

 「米中貿易戦争」、トランプ大統領の高関税政策、ファーウェイ(華為技術)排除などのデカップリング(切り離し)といった中国を封じ込める動きが進行。日本を含め各国とも、新型コロナ禍で浮き彫りになった中国に過剰に集中するサプライチェーンの見直しを行う機運も高まっていた。

 中国としてはピンチに追い込まれていたわけである。習主席は、そうした危機感があったから、武漢市などの新型コロナ抑え込みになり振りを捨て必死に取り組んだとみられる。

 中国は11月にRCEP(東アジア地域包括的経済連携)に参加したが、これも中国への「依存関係」強化を意識したものだ。日本、韓国も同時に参加したが、どこからみてもその恩恵を最大に浴するのは中国である。習主席は、あろうことか「TPP(環太平洋パートナーシップ協定)にも積極的に参加を検討する」とまでぶち上げている。

 2021年には米国はバイデン大統領に代わる。トランプ大統領が行った「米中貿易戦争」は一段さらにステージを上げて、世界経済の「覇権」をめぐる闘いが本格化する。

 共産党独裁でウイグル、香港などの民主主義や人権を認めない覇権主義国家・中国がこのまま膨張するのは確かに問題がある。2021年は、中国の反転攻勢に対して、米国がどう巻き返すかという「激突の1年」になるとみられる。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

関連記事


手軽に読めるアナリストレポート
手軽に読めるアナリストレポート

最新記事

カテゴリー別記事情報

ピックアップ記事

  1. ■全従業員にAI活用徹底、業務改革を本格化  LINEヤフー<4689>(東証プライム)は7月14…
  2. ■50年以上親しまれたかぜ薬が国内市場から姿を消す?  大正製薬は7月14日、塗るかぜ薬「ヴイック…
  3. ■鈴鹿8耐で新型CBコンセプト登場  ホンダ<7267>(東証プライム)は7月11日、大型ロードス…
2025年9月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

ピックアップ記事

  1. ■01銘柄:往年の主力株が再評価、低PER・PBRで買い候補に  今週の当コラムでは、買い遅れカバ…
  2. ■日米同時最高値への買い遅れは「TOPIXコア30」と「01銘柄」の出遅れ株でカバー  日米同時最…
  3. ■東京株、NYダウ反落と首相辞任で先行き不透明  東京株式市場は米国雇用統計の弱含みでNYダウが反…
  4. ■株式分割銘柄:62社に拡大、投資単位引き下げで流動性向上  選り取り見取りで目移りがしそうだ。今…
  5. ■金先物相場を背景に産金株が収益拡大の余地を示す  東京市場では金価格の上昇を背景に産金株が年初来…
  6. ■大統領の交渉術が金融市場を左右し投資家心理に波及  米国のトランプ大統領は、ギリシャ神話に登場す…

アーカイブ

「日本インタビュ新聞社」が提供する株式投資情報は投資の勧誘を目的としたものではなく、投資の参考となる情報の提供を目的としたものです。投資に関する最終的な決定はご自身の判断でなさいますようお願いいたします。
また、当社が提供する情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、予告なく削除・変更する場合があります。これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、一切責任を負いかねます。
ページ上部へ戻る