アイリッジは調整一巡、21年3月期営業・経常減益予想だが売上総利益率改善基調

アイリッジ<3917>(東マ)は、O2O・OMOソリューションをベースとして、デジタル地域通貨やライフデザインにも事業領域を拡大している。21年3月期は新型コロナウイルスも影響して営業・経常減益予想だが、売上総利益率が改善基調であり、下期の挽回と22年3月期の収益拡大を期待したい。株価は12月の昨年来高値圏から反落したが調整一巡感を強めている。出直りを期待したい。なお2月12日に21年3月期第3四半期決算発表を予定している。

■O2O・OMOソリューションをベースに事業領域拡大

 企業のO2O(Online to Offline)およびOMO(Online Merges with Offline)を支援するデジタル・フィジカルマーケティング領域(スマホをプラットフォームとするO2Oソリューションの提供、O2Oアプリの企画・開発、O2Oマーケティング支援)をベースとして、フィンテック(デジタル地域通貨)領域や、ライフデザイン領域にも事業領域を拡大して中期成長を目指している。

 18年5月デジタルガレージ<4819>と資本業務提携、18年8月デジタルガレージからセールスプロモーションのDGマーケティングデザインの株式80%取得して連結子会社化、19年10月システム受託開発のキースミスワールドを吸収合併した。

 20年3月期のサービス別売上高構成比は、月額報酬(FANSHIPのサービス利用料、アプリのシステム保守料等)が15%、アプリ開発・コンサル・プロモーション等(アプリ企画・開発に伴う収入、アプリマーケティングに伴う収入、広告・販売プロモーションに伴う収入)が85%だった。

 なおテクノロジー・メディア・テレコミュニケーション(TMT)業界の収益(売上高)に基づく成長率ランキングである「デロイト トウシュ トーマツ リミテッド 2020年日本テクノロジー Fast50」を受賞(50位中の8位)した。2年連続6回目の受賞となる。

■withコロナ対応の勤務体制を構築

 中期経営計画(ローリングプラン)の目標値としては、23年3月期売上高70億円、営業利益5億円、EBITDA7億50百万円を掲げている。重点取り組みとして粗利率の改善、ソリューション強化、事業提携、人員体制強化などを推進する。

 withコロナ対応として21年2月を目処にオフィスを約5割削減・再編し、出社勤務と在宅勤務を併用するハイブリッド型働き方に最適な環境と勤務体制「iRidge Hybrid Working Style」を構築する。

■デジタル・フィジカルマーケティング領域はFANSHIPが主力

 デジタル・フィジカルマーケティング領域は、ファン育成プラットフォーム(顧客データ分析プラットフォーム)FANSHIPが主力である。スマホ向け位置情報連動型O2Oソリューションpopinfoを19年7月ブランドリニューアルした、

 20年9月末時点のFANSHIP利用ユーザー数(ID発行数)は2億1593万(19年9月末比5088万増加、20年3月末比2466万増加)となった。利用ユーザー数に応じた従量課金型月額報酬の積み上げによるストック収益となる。

 20年12月にはゆうちょ銀行の「ゆうちょ通帳アプリ」に採用された。ゆうちょ銀行への導入は「ゆうちょPay」に続いて2例目となる。また京王電鉄バスの「ハイウェイバスドットコム」アプリの開発支援(FANSHIP導入)を行った。

 今後はFANSHIPの機能強化によるストック収益拡大や、One to Oneマーケティングプラットフォームとしての導入拡大を図る。さらに子会社DGマーケティングデザインとの連携を強化し、オンライン・オフライン双方において、広告~購買~決済~CRMまで消費者の行動プロセス全てをカバーするトータルソリューションを推進する。

 20年12月にはFANSHIPのポイント機能を活用した「LINEミニアプリ構築プラットフォーム」の提供を開始した。LINEミニアプリの短期間かつ安価な開発を可能にする。また21年1月には子会社DGマーケティングデザインが、購買データを活用したダイレクトサンプリング「スナイパーパッケージ」の提供を開始した。競合商品の購入者を狙い撃ちする高コストパフォーマンスのマーケティングが可能になる。

■デジタル地域通貨プラットフォームの展開を加速

 フィンテック領域(デジタル地域通貨)は子会社フィノバレーが、決済システムを中心としたデジタル地域通貨プラットフォーム「MoneyEasy」を展開している。ファン育成プラットフォームFANSHIPと組み合わせることで、マーケティング機能を融合した決済基盤構築も可能となる。

 システムの提供実績としては、岐阜県飛騨・高山地域「さるぼぼコイン」、千葉県木更津市「アクアコイン」、大分銀行「デジタル商品券発行スキーム」などがある。また認定特定非営利活動法人夢職人の子どもの「食」応援クーポン事業「Table for Kids」(20年12月中~21年5月末日の6ヶ月間)に提供する。

 withコロナ対応の地域経済活性化施策として、自治体におけるデジタル地域通貨需要が高まっていることも背景に、事業展開を加速している。21年2月には長崎県南島原市の「MINAコイン」、東京都世田谷区の「せたがやPay」に提供開始予定である。また岡山県真庭市の「公金キャッシュレス・市民ポイント調査研究業務」の優先交渉権を獲得している。

■ライフデザインなど新規事業も育成

 ライフデザイン領域では18年8月に、デジタルガレージの子会社で不動産マーケティング大手のDGコミュニケーションズの株式14%を取得した。従来は流通・小売・鉄道・金融分野が主力だったO2Oソリューションを、DGコミュニケーションズと連携して不動産・住まい・街づくりなどライフデザイン領域にも展開する。

 その他の新規分野として、18年9月にAIスピーカーAlexaスキル開発運用クラウドNOIDを提供開始している。プログラミング不要で簡単にスマートスピーカーアプリが作れるクラウドサービスである。20年6月にはNOIDを活用して、大塚製薬の公式Alexaスキル「サプリメントチェック」を開発支援した。

 20年5月にはメディカルネットと歯科向けオンライン診療サービスの共同開発で業務提携した。20年11月にはソフトバンクとトヨタ自動車の共同出資会社MONETが設立したMONETコンソーシアムに参画した。MaaS事業への取り組みを強化する。また欧州系最大の戦略コンサルティングファームの日本法人ローランド・ベルガーの価値共創ネットワーク(VCN)に参画した。

■21年3月期営業・経常減益予想だが売上総利益率改善基調

 21年3月期の連結業績予想(期初時点では未定、8月14日公表)は、売上高が20年3月期比6.3%減の50億円、営業利益が12.3%減の1億円、経常利益が12.3%減の1億円、純利益が40百万円の黒字(20年3月期は81百万円の赤字)としている。

 第2四半期累計は、売上高が前年同期比14.0%減の20億85百万円、営業利益が15百万円の赤字(前年同期は76百万円の赤字)、経常利益が13百万円の赤字(同75百万円の赤字)、純利益が11百万円の赤字(同79百万円の赤字)だった。

 前期の大型開発案件の反動や、新型コロナウイルス影響によるオフラインプロモーション減少で2桁減収、赤字だった。ただし売上総利益率改善や販管費抑制で赤字縮小した。サービス別売上は月額報酬が42.3%増収、アプリ開発・コンサル・プロモーション等が23.1%減収だった。売上総利益率は32.1%で6.3ポイント改善した。開発体制の強化・内製化が進展した。

 なお四半期別に見ると、第1四半期は売上高9億81百万円で営業利益28百万円の赤字、第2四半期は売上高11億04百万円で営業利益13百万円黒字だった。第2四半期は営業黒字に転換した。

 通期は新型コロナウイルスの影響長期化を考慮して減収、営業・経常減益(純利益は減損処理一巡して黒字)予想としている。デジタルマーケティング領域やフィンテック領域は堅調だが、オフラインプロモーションが影響を受ける見込みだ。

 重点施策として、アプリ開発案件の粗利率改善と高付加価値化、ストック型ソリューション強化による安定収益比率の向上、リモートワークなど事業環境変化への対応などを推進する。21年3月期は営業・経常減益予想だが、売上総利益率が改善基調であり、下期の挽回と22年3月期の収益拡大を期待したい。

■株価は調整一巡

 株価は12月の昨年来高値圏から反落したが、週足チャートで見ると26週移動平均線近辺で下げ止まる形となって調整一巡感を強めている。出直りを期待したい。1月19日の終値は1122円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS5円95銭で算出)は約189倍、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS374円02銭で算出)は約3.0倍、時価総額は約76億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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