【小倉正男の経済コラム】米国ゲームストップ株事件:個人投資家VSフ

小倉正男の経済コラム

■個人投資家がファンド打倒を呼びかける

 米国株式市場で「ゲームストップ株事件」が勃発、この事件はNY株価を乱高下させた。個人投資家とファンドの対立が表面化した事件ということである。

 個人投資家たちがマイクを握って抗議の集会を行っている映像が日本のニュースでも報道された。

 個人投資家は、「空売りしているファンドを倒そう」とSNSで呼びかけて株価を上昇させた。ファンドなど空売り勢は損失を出した。それが「株価操作」に当るとして問題になっている模様だ。

 個人投資家サイドの言い分は、「ファンドは日常的に市場を制圧してきている。それに対して規制当局は何もしてこなかった。しかし、個人投資家に対しては共謀、株価操作としている」。これではアンフェアだと怒っている。

 ファンドは、機関投資家ではないが準ずる存在であり、巨大な資金力で市場制圧力は強力である。確かに、ファンドなどはやりたい放題であり、規制当局は目をつぶっている面がある。個人投資家の怒りは理解できないことではない。

■プア層VSリッチ層の貧富格差

 ファンドに資金を預けているのは大金持ちというか超リッチ層であり、個人投資家などはそれに比べるプア層である。米国社会の貧富格差や「分断」といった問題も背景にあるということである。

 日本市場でも同様な問題は内在している。ファンドなどは傍若無人に市場を制圧している。しかし、厳しく規制されたことはほとんどないのではないか。市場筋によると、ファンドはプロだから、規制などに認定されないようにやっている。いわば、ファンドは尻尾を掴ませないということである。

 ファンドは膨大なおカネを動かして百戦百勝している。プロだから情報力もまったく違うわけであり、個人投資家は翻弄されるばかりだ。

 米国の個人投資家が、SNSで「ファンドを打ち負かそう」と呼びかけたのは、そうした事情があったとみられる。

■「右か左か」ではなく「上か下か」
 
 日本では、「右か左か」、といったことばかりを基準にして議論がなされている。米国では、右か左か、という観念論ではなく、「上か下か」という貧富の格差問題で議論がなされている。

 日本ももう少し大人の議論というか、イデオロギーではない次元で議論すべきだと思うのだが。その点、米国はさすがに何歩か日本の先を行っているというべきである。

 ゲームストップ株事件がどうなるのか、いまは判断がつかない。個人投資家が株価操作などで規制される可能性があるようだ。もう少し待たないとみえないが、個人投資家とファンドの闘いというかケンカなら、それは弱い側の個人投資家を応援したくなるのが人情というものである。

 ともあれ、おそらく米国で起きたことは、日本でも先々起こるのは間違いない。日本の貧富格差は、米国のようにキツいものではないが、それでも明らかに存在している。「分断」「格差」という問題は日本にもある。個人投資家の抗議や反乱は必ず起こるに違いない。その時に東証など規制当局はどう判断するのだろうか。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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