【小倉正男の経済コラム】米国経済復活の兆しとその背景=1.9兆ドルの新型コロナ対策法、家計・個人に現金給付

小倉正男の経済コラム

■2月の雇用者数は37万9000人の急増

 米国経済の復活がみえてきた。発表された米国雇用統計で2月の非農業部門雇用者数は37万9000人増(1月=4万9000人増)。事前予想は18万2000人増というものだった。雇用は予想を超える大幅な好転となっている。

 失業率は6.2%、前月比0.1ポイントの改善にとどまった。最悪時は20年4月の14.7%だったが、失業率はまだ高止まりしている段階にみえる。

 ただし、雇用者急増の現象をみると、米国経済はようやく立ち直りの機運を掴んだようにみえる。米国は新型コロナ感染に苦しんだが、ようやく収束のトレンドに入ってきている。ワクチン接種もスタートしている。新型コロナ感染の抑え込みが経済復活の背景にみえる。

 雇用統計を受けてNYダウ、ナスダックはともに大きく上昇した。雇用者急増となったが、長期金利の指標となる10年物国債利回りは1.56近辺にとどまった。

 事前には、雇用者増は米国経済にはプラスだが、長期金利が上昇して株式市場には必ずしもプラスではないと懸念されていた。蓋を開けると10年物国債利回りは極端な上昇を示さなかった。ともあれ米国は景気回復に踏み出している。

■バイデン大統領の1.9兆ドル新型コロナ対策

 バイデン大統領の1.9兆ドル(205兆円)の新型コロナ対策法案だが、下院を通過し上院に送付されている。米国の新型コロナ禍に対する経済対策では、一貫して「家計支援」というか、「個人支援」を基本としている。

 バイデン大統領の新型コロナ対策法案では、4000億ドル相当が家計支援、あるいは個人支援に当られている。家計への支援の中身だが、1人当たり1400ドル(15万1200円)の現金給付が行われることになる。

 失業給付では、失業保険に上乗せして週400ドルを21年8月末まで追加支給する。従来は失業者に失業保険にプラスして週300ドルの支給だったが、100ドル増の週400ドルを支援するとしている。

■家計、あるいは個人にフェアな給付

 家計支援でいえば、バイデン大統領の1400ドル支給は3回目になる。トランプ前大統領は、20年3月に1人当たり1200ドル、さらに12月に600ドルの給付を行っている。バイデン、トランプの両大統領ともお互いに負けてはいられないと大盤振る舞いをしているわけである。

 3回の家計支援を合計すると、米国民は1人当たり3200ドル(34万5600円)の給付を得ることになる。しかもトランプ前大統領の場合は、失業者に対して週600ドルの失業保険への追加給付を行っている(失業者急増期間の20年3月~7月)。

 米国が、家計給付、あるいは個人給付という支援を行っているのは、それがフェアに最も近いということからとみられる。米国でも、中小企業の従業員雇用に対する助成や運輸、医療業界への支援などが行われている。だが、これらはきわめてレアケースで限定されたものである。

■フェアな給付に関する議論がない日本

 日本では、飲食業界、旅行業界など特定業種に協力金などの支援が行われている。これには飲食店などお店の規模・従業員数などの違いで不公平感が出ている。一律の協力金では、小さなお店にはタナボタだが、大きなお店は恩恵が少ない。

 あるいは、他の業種などからは、「コロナで困窮しているのはどこも同じなのに、何故、飲食業界ばかりにおカネがバラまかれているのか」という指摘や不満が出ている。フェアということでは問題が少なくない。

 米国はやはりデモクラシーの国であり、家計、あるいは個人に給付することでフェアな支援に努力している。日本では家計、個人支援は1人当り10万円給付にとどまっている。このあたりはもう少し議論されるべきではないかと思われる。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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