【小倉正男の経済コラム】『見えない化』――「企業内失業238万人」を含む失業問題の実体

■企業内失業者238万人という凄さ

 『日本経済2020~2021』(内閣府―感染症の危機から立ち上がる日本経済-)、ミニ経済白書といわれる文書だが、そこに「企業内失業者」の推移が分析・表示されている。

 企業内失業者とは、企業が社員の雇用を継続しているのだが、仕事を与えられていない状態を指している。同白書では、企業の「雇用保蔵」という言葉が使われている。これは雇用しているが、社員に仕事を与えられず、保蔵している状態のことである。

 同白書によると2020年の企業内失業者は、4~6月646万人、7~9月379万人、10~12月238万人になっている。新型コロナ禍の直撃がそのまま現れているわけだが、何とも半端ない数字だ。製造業もそうだが、今回はサービス産業で企業内失業者が増加している。

 企業による雇用維持の背景には、雇用調整助成金、持続化給付金、家賃支援給付金などに加えて、無利子・無担保融資などの企業支援策の取り組みがあると書かれている。とりわけ、雇用調整助成金の上限を1日当たり1万5000円に引き上げたことが奏功しているとしている。

■眉に唾をつけて見ても理解するのが困難

 厚生労働省では、新型コロナ禍での失業者は10万425人に達したと発表している。コロナの影響で解雇・雇い止めとなった人たちの集計だ。

 製造業での解雇が多いと分析している。その後、再就職した人も含まれている。だが、その一方で新型コロナに起因するのかどうか把握できたのは一部にとどまっているとしている。

 企業内失業者、あるいは失業者でも同様だが、凄い数字である。

 ところでこの2月の失業率は2・9%である。普通にこの2・9%という失業率を見れば、日本には企業内失業者、または失業者などの問題など全くないといえる数字である。

 これだけでも日本は不思議な国である。中国の統計はゴマカシがあるということで、いつもやや眉唾で見られている。日本の統計はゴマカシがあるのかないのか分からないが、眉に唾をつけて凝視してもなかなか理解するのが難しい。要するに、実体が見えない。

■「見えない化」は社会主義が原因

 日本の「労働統計」が、ワケが分からないというか、「見えない化」になっているのは多分に社会主義になっているからだと思われる。

 株式市場では、日本銀行が上場投資信託(ETF)買いで、軒並みに有力企業の大株主になっている。アドバンテスト、ファーストリテイリング、TDK、太陽誘電――。保有時価総額は何と51兆円を超えている(ニッセイ基礎研究所試算)。

 労働市場では、雇用調整助成金で多くの企業の雇用コストを肩代わりしている。いってみれば、株式市場、労働市場に国が当たり前に介入している。マーケットメカニズムが機能しているとはいえない。

 昔のスターリンの取り巻き社会主義経済学者たちがこれを仄聞したら、「日本というのは“隠れ社会主義”。いやそうではない。れっきとした社会主義経済国である」と断定したかもしれない。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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