【小倉正男の経済コラム】「コロナ敗戦」「ワクチン難民」発生という混迷

■「ワクチン難民」発生の混迷

 新型コロナワクチン接種券というものが届いたが、現状はそれだけのことであり配られただけである。

 予約センターには電話、メールともつながらず、接種の予約はまったくできていない。地域の掛かり付けの病院に連絡したら、受け付けているのだが「反響が大きすぎて、順番は10月頃になる」という話である。

 気長に待つしかないというわけだ。国、自治体はいかにもワクチン接種が大規模に進んでいるような発言をしている。接種が進んでいる一部自治体もあるのだろうが、「ワクチン難民」も相当出ているのではないか。

 コロナも怖いが、国、自治体の手際の悪さもかなりのものだ。「ワクチン難民」問題もおそらく3カ月程度はかかるだろうから、落ち着くのはかなり先の話になる。

 しかも、今回のワクチン接種は1回目であり、2回目の接種が必要である。となるとワクチン接種の完了は、下手をすると年内一杯程度はかかるとみられる。もちろん、予想外に接種が進む可能性もあるが、「自助」で頑張るとしても限界がありそうだ。

■米中は景気回復、対照的に日本は底ばい

 こんなことでは国内景気は低迷するばかりである。“巣ごもり需要”はあるが、ショッピング、外食、飲食、レジャー、旅行など個人消費に関するものは盛り上がる要素はほとんど何もない。設備投資にしても内需に関係するものは慎重にならざるをえないから低調が続くことなる。

 中国、そして米国は対照的に回復軌道に入っている。中国の1月~3月のGDP(国内総生産)は前年同期比18・3%増。輸出、設備投資とも好調であり、1992年以来で最高の成長を達成している。米国も1月~3月は年換算6・4%増、個人消費が押し上げている。米国は巨額の景気刺激政策で一時的にインフレ懸念が出ているほどである。

 日本のほうはといえば、1月~3月は前期比1・3%減(年換算5・1%減)のマイナス成長だ。個人消費、設備投資とも低迷している。4月、5月もおそらくよいとはいえない。ワクチン接種の遅れ、混乱・混迷といった現状からすると国内景気の底ばいは長期化する。2021年後半まで底ばいが続くとすれば、大変な事態になりかねない。

■内需低迷、中国の需要に依存を高める

 結局のところ、中国の旺盛な需要に依存せざるをえないというのが日本の経済界の実情だ。特に機械関連、電子部品など部品関連の製造業では、それが顕著である。

 中国以外のアジアに工場を移転させる動きは出ているが、それでも現状は中国にサプライチェーンが圧倒的に集中している。

 ある機械関連メーカーは、「中国からの受注は1月~3月は加熱傾向だった。需要は加熱気味となっており、このままの状態は続かないとみている。今年後半は少し一服するのではないか」。先行きについてはあくまで慎重だが、足下は「過熱気味」といった凄まじい需要(外需)が発現していることを認めている。

 一般の機械関連企業も「反中国」「デカップリング」といった状況は理解しているが、需要があれば売りたいのが経済界である。しかも、国内需要が極度に冷えており、外需に頼らざるをえない。売らなければ業績低迷~赤字が続くということになる。それだけにどこの需要でも有り難いというのが実情だ。

 世界経済がコロナ後を睨んで動き出している。「コロナ敗戦」、日本は混迷を抜け出せないでいる。せめてワクチン接種だけでも見せ場をつくってほしいと思っていたが、それも望めないといった事態だ。ワクチン接種のみならずだが、いまだ混迷が連続している真因をたどる作業などはまた“曖昧”にされるのだろうか。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

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