【小倉正男の経済コラム】米国経済:雇用者数は85万人増に回復加速

アメリカ 米国

■雇用は順調に回復

 米国の非農業部門雇用者数は、6月は前月比85万人増と事前予想(70万人増)を上廻るものだった。5月の非農業部門雇用者数は55万9000人増だったが、雇用回復はさらに着実に加速されている。米国の雇用は、順調に回復している。

 ただし、失業率は5・9%(事前予想5・7%)と前月の5・8%から悪化をみせている。僅かとはいえ失業は増加していることになる。人種間、すなわちマイノリティ、あるいは女性の失業問題などは、ほとんど解決していないという見方もなされている。

 現状は新型コロナ感染の発生以前に比べて、670万人分の雇用がまだ埋められていない。接客、レジャー産業が雇用回復を引っ張っているが、依然としてまだ人手不足の状態となっている。新型コロナ感染の懸念が残存しており、飲食など接客業は回避される傾向が解消できていない。

 週300ドル(3万3000円)の失業給付上乗せ措置が、失業者には心地よすぎて“就労意欲”を後退させているということも争点となっている。共和党知事の州では、9月上旬の期限前に失業給付上乗せ措置を打ち切る動きが表面化している。

 失業給付上乗せは、もともとトランプ前大統領が採った政策だが、いまやバイデン大統領の政策に成り代わっている。バイデンVSトランプというか、民主党と共和党のバトルはここでも続いている。

■前月の大きな動揺を経て

 今回は85万人増の非農業部門雇用者数が発表されると、NYダウ、ナスダックがともに上昇した。NYダウは、史上最高値を更新した。株式市場は、労働市場の人手不足などが一時的にあっても経済再開、景気が順調に動き出している側面を織り込んでいる。

 株式市場については、前月とは少し違いをみせていることになる。前月は雇用統計に続いて、消費者物価指数(CPI)が前年同月比5・0%上昇となり、“インフレ懸念”が相当に意識された。連邦準備理事会(FRB)は連邦公開市場委員会(FOMC)で、利上げ時期を2024年から2023年に前倒しする姿勢をみせた。それにより市場は激しく動揺をみせた。

 その後、FRBのパウエル議長は、「インフレを巡る懸念を理由に性急な利上げを行わない」と、“火消し”に走った。「利上げはインフレの確証を得てから判断する」と、市場の動揺にストップをかけた。結果的にいうと、いわば“マッチポンプ”ともいえる経過となった。

 米国の景気は回復に向かっているにしても、紆余曲折というか一筋縄にはいかない。まだ先ははっきりとは決めきれない。前月にはそうした大きな動揺を織り込んでおり、今回は市場としては景気回復を素直に反映したのかもしれない。

■米中に比べ日本経済の回復は“周回遅れ”

 米国は、金融の正常化を含めて経済を回復軌道に乗せるという方向に舵を切っている。それに対して、日本はどうしょうとしているのかほとんど見えない。

 新型コロナ感染に対するワクチン接種は、経済にとって最後の“切り札”に近い。しかし、これも掛け声が大きいばかりで、ここにきてワクチンの量的確保に問題が出ている。

 菅義偉首相は、東京オリンピック・パラリンピックを間近に控え、コロナ感染とワクチン接種の「2正面作戦」を行うという決意を語っている。だが、ワクチン接種の進捗スケジュールは遅れ込む可能性が否定できない。(コロナ感染とワクチン接種は、同一の敵と闘うわけで本来的に「2正面作戦」の定義には当てはまらない。)

 日本経済は製造業には回復傾向がみられる。世界的な半導体不足で半導体周辺部材、同製造装置関連などに需要が戻っている。工作機械など機械関連も中国など旺盛な外需に救われている。だが、内需は冷えており、全体が回復軌道に戻るのは早くて2022年になる。新型コロナ対策、経済政策の「失政」が大きく響いている。米国、中国の経済再開スピードに比べると、“周回遅れ”の事態となっている。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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