川崎近海汽船は戻り試す、22年3月期2Q累計大幅増益で通期2回目の上方修正

 川崎近海汽船<9179>(東2)は近海輸送と内航輸送を主力としている。さらに再生可能エネルギー産業を重要な事業分野の一つに位置付けて、バイオマス関連輸送への取り組みも強化している。22年3月期は市況上昇などで第2四半期累計が従来予想を上回る大幅増収増益となり、通期予想を上方修正(7月30日に続いて2回目)した。市況動向などを勘案すれば通期予想はさらに3回目の上振れの可能性がありそうだ。収益拡大を期待したい。株価は9月の年初来高値圏から反落してモミ合う形だが、利益確定売り一巡して戻りを試す展開を期待したい。

■近海輸送と内航輸送が主力

 石炭・木材・鋼材輸送などの近海部門、石炭・石灰石・紙製品・農産品輸送やフェリー輸送などの内航部門、日本近海における海洋資源開発・洋上再生可能エネルギー設備に関わるオフショア支援船事業(OSV部門)を展開している。

 21年3月期売上高構成比は近海部門が26%、内航部門が71%、OSV部門が4%、その他が0%、営業利益構成比は近海部門が▲72%、内航部門が283%、OSV部門が▲111%、その他が0%だった。

 収益面では輸送量、運賃市況、為替、燃料油価格、および燃料油価格変動に伴う燃料調整金などが影響する特性がある。また季節要因として第1四半期は入渠費用が増える傾向がある。

 なお20年12月には全社的なDX推進に向けてDX委員会を設置、21年1月には環境への対応に向けて次世代環境対応ワーキンググループを設置、21年4月には安全運航推進員会を環境・安全運航推進委員会に改称した。

■モーダルシフトも背景として収益力向上目指す

 2020年度中期経営計画では、目標値に23年3月期売上高388億円(近海部門101億円、その他含む内航部門268億円、OSV部門19億円)、営業利益6億円(近海部門2億円の赤字、その他含む内航部門6億円、OSV部門2億円)、経常利益4億50百万円、親会社株主帰属当期純利益3億円を掲げている。

 海上輸送を通じて社会への貢献に努めるとともに、収益力の向上とコスト削減を進めつつ、安定配当の継続を目指す。

 近海部門(21年3月期末18隻、23年3月期末計画15隻)は、中期的に厳しい状況が予想されるため、効率配船や高コスト傭船の早期返却返船などによって船隊規模の適正化を図り、市況にあった船隊整備の継続、商圏の維持、コスト削減などで終始安定を目指す。バイオマス発電所用燃料の輸送は長期契約の獲得を目指す。

 内航部門(21年3月期末20隻、23年3月期末計画21隻)では、陸上輸送から海上輸送への転換を図るモーダルシフトの拡大を念頭に置いて、顧客ニーズに沿った輸送サービスの提供で収益力向上を目指す。定期船輸送では新規貨物の獲得とコスト削減、不定期船輸送では石灰石および石炭の各専用船の安全運航、商圏の維持、新規案件の獲得を推進する。フェリー輸送では、大型新造船の積載能力を活かした貨物の開拓や効率的運営を推進する。

 OSV部門(21年3月期末5隻、23年3月期末計画5隻)は、海洋資源開発への期待が高まる中、オフショア支援船事業の充実、洋上風力関連事業への参入で収益拡大を図るとともに、CCS(二酸化炭素回収・海底貯蔵)調査や資源探査などにも取り組む。

 20年1月適用開始のSOx規制(船舶用燃料油の低硫黄化環境規制)については適切な対応に取り組んでいる。日本初のLNG燃料フェリー就航に向けては川崎汽船<9107>と共同で技術的検証を本格化している。21年6月には川崎汽船と共同で設立した洋上風力発電向け作業船事業会社ケイライン・ウインド・サービスが営業開始した。

 さらに再生可能エネルギー産業を重要な事業分野の一つに位置付けて、バイオマス関連輸送などへの取り組みも強化している。21年9月には山口県下関市における長府バイオマス発電所プロジェクトに参画(石油資源開発、MOT総合研究所、東京エネシス、長府製作所、および同社の5社)すると発表した。本発電所向け燃料輸送を受託する。22年6月着工、25年1月運転開始予定である。

■22年3月期2Q累計大幅増収増益で通期2回目の上方修正

 22年3月期の連結業績予想(7月30日に上方修正、10月29日に2回目の上方修正)は、売上高が21年3月期比13.3%増の420億円、営業利益が3.5倍の14億円、経常利益が7.2倍の13億50百万円、親会社株主帰属当期純利益が9億50百万円の黒字(21年3月期は1億12百万円の赤字)としている。配当予想は21年3月期と同額の100円(第2四半期末50円、期末50円)としている。

 第2四半期累計は売上高が前年同期比10.9%増の201億30百万円、営業利益が3.1倍の7億28百万円、経常利益が5.5倍の7億27百万円、親会社株主帰属四半期純利益が16.6%増の5億39百万円だった。なお特別利益で前年計上の固定資産売却益3億69百万円が剥落した。

 近海部門の市況上昇などで従来予想を上回る大幅増収増益だった。従来予想(7月30日の上方修正値)に対して、売上高は3億30百万円、営業利益は5億78百万円、経常利益は5億77百万円、親会社株主帰属四半期純利益は3億99百万円、それぞれ上回った。

 近海部門は売上高が33.7%増の57億75百万円で、営業利益が5億81百万円(前年同期は89百万円の赤字)だった。市況上昇で運賃収入や貸船料が想定以上に増加したことに加えて、ロシア炭輸送の積地のロシアにおける滞船影響で船隊稼働率が低下して燃料消費量が減少したことも寄与した。

 内航部門は売上高が5.8%増の138億35百万円で、営業利益が9.5%減の5億01百万円だった。入渠費が減少したが燃料油価格高騰の影響で減益だった。ただし売上面は、コロナ禍でも定期船輸送・不定期船輸送とも荷動きが堅調に推移し、フェリー輸送の旅客数や乗用車数も増加した。

 OSV部門は売上高が31.5%減の5億17百万円で、営業利益が3億54百万円の赤字(同2億29百万円の赤字)だった。海洋調査業務が大幅に減少した。

 なお四半期別に見ると、第1四半期は売上高が95億15百万円で営業利益が1億24百万円の赤字、第2四半期は売上高が106億15百万円で営業利益が8億52百万円だった。季節要因として第1四半期は入渠費用が増える傾向がある。

 通期予想は従来予想(7月30日の上方修正値)に対して、売上高を15億50百万円、営業利益を5億50百万円、経常利益を5億円、親会社株主帰属当期純利益を3億40百万円、それぞれ上方修正した。

 OSV部門は海洋調査業務の遅れで稼働率が低下するため従来予想を下回るが、近海部門の市況上昇が第3四半期以降も継続し、内航部門も荷動きが堅調に推移して収支が従来予想を上回る見込みとしている。

 修正後の通期予想に対する第2四半期累計の進捗率は売上高が47.9%、営業利益が52.0%、経常利益が53.9%、純利益が56.7%となる。単純計算すると各利益の通期の上方修正幅は上期の超過分を上乗せした形であり、市況動向などを勘案すれば通期予想はさらに3回目の上振れの可能性がありそうだ。収益拡大を期待したい。

■株価は戻り試す

 株価は9月の年初来高値圏から反落してモミ合う形だが、利益確定売り一巡して戻りを試す展開を期待したい。11月9日の終値は2951円、今期予想連結PER(会社予想連結EPS323円63銭で算出)は約9倍、今期予想配当利回り(会社予想100円で算出)は約3.4%、前期実績連結PBR(前期実績連結BPS8987円27銭で算出)は約0.3倍、時価総額は約87億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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