【小倉正男の経済コラム】中国、市場経済への介入で変調という変数

■中国経済に変調の兆し

 先日、駆動系の機械機器メーカーを取材した。その会社の経営者から、「中国からの受注に変調が出ている」という話があった。

 今年前半には、「中国からの受注の回復が凄まじい。対応できないほどの勢いだ。需要が旺盛で、下期についても腰折れなどないとみている」と楽観的な見通しを語っていたものだ。
新型コロナ禍一巡で、中国経済はきわめて順調な再開ぶりをみせていたわけである。

 しかし、「いまは不安材料がいくつか出てきている」としている。「中国の受注は低下している。工作機械、成形機向けなど需要が軟化している。ただ、豊富な受注残があり、これを消化するので現状は問題ない。ただ、来期については懸念材料になる」、と。中国経済にこれまでにない変化が現れている模様だ。

 中国については他にも問題が出ている模様だ。「電力の供給制限が行われており、中国の工場では生産に遅れが生じている」「石炭など燃料不足、環境問題などで当局から突然の電力供給制限命令、あるいは制限要請で10~15%減産となっている」。

■「政治」が経済に介入すれば経済はおかしくなる

 恒大集団など不動産開発企業のデフォルト危機が続いている。中国当局が金融機関に対して不動産関連企業への融資厳格化を命じたことが発端だ。

 2020年8月に「三道紅線」=「3つのレッドライン」が示された。「資産に対する負債比率70%以下、資本に対する負債比率100%以下、手元資金が短期負債を上回る」。この3つの条件をクリアすることが融資基準とされたわけである。

 不動産関連企業にとって相当に厳しい融資制限である。不動産関連企業は、巨額の借金をテコに建物建設に先行投資を行うわけだから、たちまち首が廻らない事態に軒並み陥っている。日本の不動産バブル潰しでは「総量規制」(1990~1991年・融資総額の伸び率以下に不動産融資伸び率を抑える)が行われた。それと同等以上といえる融資規制が実施されている。

 習近平国家主席が「共同富裕」を掲げて、「住宅は住むためのものである」と再三強調している。不動産は投資やおカネ儲けのものではない。政治権力が、経済、とりわけ市場経済にある種の介入というか、“説教”をしている。権力が経済に思い込みで介入すれば、(例え道義・理屈は正しい、あるいは正しいようにみえても)経済はおかしくなるものだ。

■中国はピークアウトの分岐点

 中国は共産党独裁国家だが、市場経済を認めて現在の大成功を収めてきたわけである。しかし、独裁国家だから本質的には市場経済は嫌いであり認めていない面がある。何事も独裁で統制したいわけで、市場経済も例外ではない。「社会主義市場経済」は方便というかレバレッジであり、大成功したいまは部分的にむしろ邪魔になっているのか。

 2020年10月のことだがアリババグループの創業者であるジャック・マー氏が、「時代錯誤的な政府規制が中国のイノベーションを窒息死させる。中国の金融当局は老人クラブだ」と金融政策を批判したことがある。

 ジャック・マー氏はその後一時的に行方不明が伝えられることになった。アリババ関連企業で、Eコマース決済のアントグループはIPO(株式公開)中止に追い込まれた。そのうえアリババには独禁法違反で捜査が行われ罰金を課せられた。アリババ株は大きな暴落に見舞われた。アリババは“市場経済の雄”といえる会社だが、国家に虐められているわけである。

 こうなると経済は、時間はかかるにしても徐々におかしくなっていくものである。中国はいま近現代でピークにあるわけだが、もしかしたらピークアウトの分岐点に差し掛かっているのかもしれない。たかだか中国の経済変調の兆しからピークアウトまで話を持って行くのは恐れ多いことだが歴史とはそうしたことの繰り返しである。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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