【IRインタビュー】テンポイノベーションの原康雄社長に「コロナとの闘いと中長期的な展開」を聞く

飲食店の店舗転貸借事業、コロナ禍を乗り越え、7年後に3倍の取扱い物件数を目指す

 テンポイノベーション<3484>(東1)は、飲食店向けの店舗物件に特化して賃借し転貸する、店舗転貸借事業を行う。新型コロナの影響で飲食業界は大打撃を受けた。同社にも事業や業績について心配する声が届いたというが、この第2四半期決算(2021年4~9月)は売上高が前年同期比9.6%増加し、営業利益は52%増加するなど急回復。アナリストからは「ポストコロナ銘柄」として注目が高まっている。同社・原康雄社長に「コロナとの闘いと中長期的な展開」について話を聞いた。

ピンチはチャンス、コロナ禍でも出店意欲の旺盛さを実感

──新型コロナの影響が本格化した頃は、どんな心境でしたか。

 【原】 昨年4月に緊急事態宣言が出されたときは、不透明感が強く、この先どうなるかわからないというのが率直なイメージだった。この頃は転貸借物件の総数が1700件ほどで、これを家主から借りてそれを飲食店に転貸しているのだが、このうち半数以上に解約が出て、なおかつ新たに飲食店を開業する人がゼロとなるシナリオも頭をよぎった。また、コロナの影響が長期化する可能性についても考えていた。

 一方で、当初は、国や自治体が、飲食店向けに給付金や協力金を支給することは想定できなかった。最初に伝えられたコロナ関連の給付の話は、全国民に1~2万円を支給するという報道だった。想定以上にコロナの影響が大きくなったことや、飲食業界からの強い要望もあったこととはいえ、政府による飲食店向けの手厚い給付金や協力金といった支援は予想外のことだった。

小規模店舗には給付金や協力金の効果大

 当社の取引先は、チェーン店等の大企業は少なく、9割以上は2、3店舗を経営するような小規模企業や1店舗を運営する個人事業主となる。給付金や協力金は、大規模店にとっては焼け石に水の場合も多かったようだが、小規模店はタイムリーに恩恵を受けることができたと思う。去年の秋ぐらいからは、それまで家賃を滞納しがちだった店舗の中に「正常化」(注:家賃が期日通りに支払われている状態に戻ること)するケースが出始めた。こうしたこともあり、当社の事業も当初想定した悲観的なシナリオとはならず、より好ましい環境で推移することができた。

 この間、テンポイノベーションも厳しいのではないかという声も聞こえてきたが、実際には、解約の増加は限定的で、コロナの真っただ中でも開店希望者は一定以上存在する状況であった。

一時はテナント1700店強から相談殺到、総がかりで対応

──成約数(転貸借契約を飲食店経営者等と締結した数)はすぐに持ち直しました。

 【原】 新規に飲食店等を開業する方は、皆さん事業家・起業家なので、ピンチはチャンスではないが、コロナ禍の中でも一定以上存在することがわかった。当社の成約数は多い月で45件ぐらいで、年間アベレージでいくと月35件前後、年間400件前後だ。仮に開業が1割減る場合、月350件を受注する企業だったら月に35件の減少になるが、当社のように月35件の受注であれば3~4件の減少にすぎない。当社の扱う物件数(母数)がまだ小さい分コロナの影響が小さく済んだ面もあるだろう。

 確かに、去年の4、5月は成約数がほとんどないのだが(注:4月3件、5月7件)、この理由は、一時的に営業を停止したことによる。停止して何をしていたかというと、1700件のテナントからの相談や問い合わせ対応だ。家賃の減額依頼や閉店に関する相談などが殺到したため、物件管理のメンバーだけでは十分な対応が難しいと判断し、営業担当も動員して総がかりで対応する体制を敷いた。

 店舗転貸借事業で一番やってはいけないことの一つは「放置」だ。「対応できません」とか、連絡できるのに3日遅れたといったこともしてはならない。その点、当社の営業担当(約30名)は元々こうした対応に長けているので、物件管理のメンバーと合同で総勢50名体制で対応した。成約数は6月以降急回復し、6月は33件、7月は31件とアベレージに近い水準となった。

ストッックビジネスの「威力」を再認識

──コロナで痛感、実感したことはありましたか。

 【原】 このコロナ禍の中で強く感じたのは、我々の事業の特色であるストックビジネスの威力だ。当社の収入は、8~9割が転貸借物件からの家賃収入「ランニング収入」で、あとは礼金などの手数料収入が中心の「イニシャル収入」だが、ランニング収入は転貸借している物件数に比例する。転貸借物件数はこの第2四半期末で1812件(前年同期比9.2%増)で、これが安定している限りランニング収入も安定する。会社としては、すでにランニング収入が販管費などを大きく超えているので、極端な話、成約数がゼロでも利益が出る状態にある。このように収益が確実にもたらされるという点で、ストックビジネスの威力を改めて感じた。

「都心部」「駅近」などに特化する物件の効果も

 さらに、コロナ禍においても出店される方が少なくないことも改めて実感した。当社が仕入れる店舗物件は、東京の「都心」「駅近」「小型」「居抜き」などの条件を備えた市場性の高い物件に特化している。当社が扱う東京都心の店舗物件には、それだけ魅力があることになる。デリバリーとかテイクアウト中心とか流行の業態はあるが、コロナがなくても新しい流行や商売は常に出てくる。このコロナの中で、出店意欲の強さ、起業家精神というものを改めて実感した。コロナ禍という特殊な状況だからこそ、通常は出回らない店舗に入居できるということもある。オープン当初はコロナの影響であまり利益は見込めないにしても、1年経てばいけるだろうとか、飲食店経営者は先を見通して動いている。

 また、我々が特化して扱う東京23区内の店舗物件という点でいえば、たとえどのような大災害が来てもいずれは必ず復興・再生するだろう。ただ、復興・再生には相応の時間がかかるから、それに耐えられる体力が必要となる。会社における体力は、最終的にはキャッシュとなるので、その確保の重要性というのもコロナ禍から得た一つの教訓といえるかもしれない。

コロナ前は年率20%成長、この上期から戻りつつある感触

──上期は営業利益が52%増加し経常利益は40%増加しました。

 【原】 予想は上回ったかもしれないが、コロナ前の成長率との比較を念頭に置いている。コロナ前までは、売上げ、利益が年に20%ずつ増加していた。ストックビジネスなので、転貸借物件数が積み上がるに従い、収益も伸びていくのだが、コロナの影響下では数%しか伸びていない。そのため、コロナ前と比べ、現在は約20%減というイメージを持っている。年20%成長が我々の成長の基準なので、この1年半は、何もせず止まっていたような、冬眠をしていたような気分だ。しかし、この上期からは状況は動き出してきている。コロナ前に向けて戻りつつある感触だ。

不動産売買は店舗物件の仕入れなどでリレーションシップ強化に

──「不動産売買事業」の位置づけを教えて下さい。

 【原】 営業利益の52%増加については、販売用不動産の売却も寄与した。ただ、我々の主事業は「店舗転貸借事業」で、「不動産売買事業」は店舗物件の仕入れなどに関連して不動産業者とのリレーションシップ強化を目的としている。

 我々の事業は、店舗物件の仕入れができないとビジネスが始まらない。誰もが羨むような店舗物件を優先的、独占的に手に入れることができれば、事業はどんどん伸びる。では、こうした物件をどこから仕入れるかというと、不動産業者からになる。不動産業者は、住宅もやるし店舗もやるし、賃貸借も売買もやる。一方、我々は店舗の転貸借専業であるが、取引のある不動産業者から店舗物件売買の案件が持ち込まれることもある。我々も、当初は主事業とは直接関係が無いことから丁重にお断りしていたのだが、いい案件があれば収益の積み上げができ、取引すれば不動産業者に利益をもたらすことにもなる。当社が上顧客化することによって関係がより一層強化され、従来より更に重要な物件情報が入手できるようになる。これが「不動産売買事業」の狙いだ。

 この上半期は、思いのほか物件を好条件で売買することができ、営業利益の上乗せ要因になった。ただし、あくまで我々の主事業は「店舗転貸借事業」であり、「不動産売買事業」単独の成長を加速していくことは考えていない。

7年後に転貸借物件数を現在の3倍、5500件を目指す

──中長期的な目標を教えて下さい。

 【原】 当社の最大のミッションは、店舗転貸借件数を伸ばすことである。この上期末の転貸借中の物件数は前年同期比9%増の1812件。これを7年後に5500件まで持っていく。そうすると、収益のイメージは、売上高は300億円規模、利益は30億円規模となる。この目標は、特別なことをしなくても20年あれば達成できると思うが、前倒しをして7年後を目標としている。

 この目標に向けて人員の拡充、特に営業部門の強化を進める。足元は三十数名だが、これを3年後、2025年3月期に100名体制とする計画だ。そして、成約数は年間1000件(月80件)、新規物件仕入れ件数は年間600件(月50件)程度のボリュームとなるだろう。現在、仕入担当の営業14名では不可能だが、35名程度となれば、この仕入れ件数に対応できると考えている。

 ちなみに、物件の仕入れは難易度が高く、新入社員では対応できないので、数年は客付を担当する形となる。店舗の転貸借契約を年間20件程度こなせるようになれば、仕入れも担当できるようになる。こうした体制が動き出せば、7年後には転貸借物件数5500件が達成できると見込んでいる。

この事業は重い責任が伴う一方で、切り開いてきた誇りも大きい

──7年後といえば設立20年になります。

 【原】 この事業は、単に営業人員を増やせば事業拡大できるというものではない。転貸借物件数をいくら積み上げようが、要は1件1件、家主さん、不動産業者と店舗に正面から向き合って、安心・安全に商売できるようにサポートすることが根幹だ。上場企業として事業をやっている以上、右肩上がりの拡大を目指していかなくてはならないが、件数のみを追いかけ、取引先に安心・安全が提供できなくなるとしたら、それは本末転倒と考えている。

 この事業では店舗物件を貸した時点で、賃借権という大きな権利を飲食店等に付与することになる。付与すると同時に我々にも責任が生じる。我々は、飲食店等が安心・安全に商売できるように保つ必要があり、一度始めると途中で簡単に手放すことができないところがある。賃借権の付与はとても重いことで、大きな責任を担いながら事業を展開しているというのが、私の気持ちの中心にある。

 そのため、転貸借をしっかりと事業化できたということは、我々の大きな誇りでもある。宅建業法ができて70年になるが、これまで店舗の転貸借事業専業で生業を立て、さらに上場までした会社は1社もなかった。又貸しと揶揄されてきた契約形態を、当社なら「しっかりとやってくれるから、任せる」と言ってもらえるようになり、1800件以上の物件を手掛けるようになった。以前にも増して、不退転の覚悟でこの事業に取り組んでいるところだ。

──ありがとうございました。(聞き手:本紙・智田 拓)
(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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