テンポイノベーションはコロナ禍でも業績好調、22年3月期は上振れの可能性

 テンポイノベーション<3484>(東1)は飲食業を中心とする出店希望者向けに居抜き店舗を転貸借する店舗転貸借事業を展開している。転貸借物件数の増加に伴って賃料収益を積み上げるストック型ビジネスモデルである。22年3月期は増収増益予想としている。コロナ禍で飲食業界が厳しい状況下でも転貸借物件数・成約件数が増加基調であり、通期予想は上振れの可能性が高いだろう。積極的な事業展開で収益拡大基調を期待したい。なお新市場区分に関して12月15日にプライム市場選択を決議するとともに、上場維持基準の適合に向けた計画書を開示した。28年3月期までに上場維持基準を充たすため各種取組を推進する。株価は地合い悪化の影響で水準を切り下げたが、調整一巡して戻りを試す展開を期待したい。

■飲食業の出店希望者向け居抜き店舗転貸借事業

 首都圏の一都三県(特に東京都)において、飲食業の小規模事業者を中心とする出店希望者向けに、居抜き店舗(造作物が残っており、すぐに営業できる状態の物件)を転貸借する店舗転貸借事業を展開している。

 店舗転貸借事業は、仲介ではなく、サブリースでもなく、不動産業における第6のカテゴリーと位置付けている。不動産オーナーにとっては賃貸料収入安定、不動産会社にとっては仲介収益機会獲得、店舗出店者にとっては出店費用削減、店舗撤退者にとっては閉店コスト削減というメリットがある。

 また、飲食業は他の産業との比較で、開業・廃業による入れ替わりが激しいため市場機会が豊富という特徴もある。さらに造作物(厨房機器、テーブル、床コンクリート、排気ダクトなど)の廃棄量を削減できるという点で、持続可能な社会の実現に貢献するビジネススキームである。

 21年3月期の構成比は、売上高が店舗転貸借事業93%、不動産売買事業7%、営業利益が店舗転貸借事業68%、不動産売買事業32%だった。全社売上に占めるランニング収入(転貸借物件からの賃料収入、転貸借契約更新時の更新手数料収入など)の比率は88.6%だった。

 店舗転貸借事業は保有物件数(転貸借物件数)の増加に伴って賃料収益(ランニング収入)を積み上げるストック型ビジネスモデルである。21年3月期末時点の転貸借物件数は20年3月期末比22件増加の1706件だった。不動産売買事業は、不動産業者とのリレーションシップ強化も目的として、長期保有は行わず一定の資金枠内で資金効率を重視して売買を行う。

 またCSR活動の一環として、飲食店舗を活用した子ども食堂を19年6月から開催している。店舗の特性を活かして、子供達への食事提供にとどまらず、地域における居場所づくり、親御さんへの支援といった社会的インフラになることを目指している。20年4月~21年3月の開催実績は参加店舗が20店舗、総開催数が68回、総来店数が326人だった。コロナ禍のため開催を一時的に中断していたが、順次再開する方針だ。

 なおクロップス<9428>の連結子会社だが、営業上の取引はなく経営上の独立性を確保している。

■転貸借物件数29年3月期5500件目標

 中期経営計画の目標値は24年3月期売上高141億74百万円、営業利益10億77百万円、成約数520件、転貸借物件数2451件としている。転貸借物件数の長期的な目標は29年3月期5500件(首都圏1都3県の当事業対象店舗数推定約11万件に対するシェア5%相当)としている。

 成長に向けた基本方針は転貸借契約件数と賃料差益の最大化、テーマは専門特化・プロフェッショナル化としている。主要施策として営業採用の積極化、居抜き物件・店舗情報サイト「居抜き店舗.com」における物件紹介強化、従業員ロイヤリティの向上を推進する。

 営業強化については、新規営業の経験のある人材を年24名程度採用し、営業ノウハウの体系化なども推進して、25年3月期にプロフェッショナル営業100名体制の実現を目指す。

 居抜き物件・店舗情報サイト「居抜き店舗.com」はリニューアルによって、コロナ禍を出店チャンスとみる飲食店経営者のニーズを捉えるWEBサイトに進化し、新規会員数が大幅に増加(21年3月期は20年3月期比70.4%増)している。さらに21年7月には動画を活用した物件紹介も開始した。

■22年3月期増収増益予想、さらに上振れの可能性

 22年3月期業績予想(非連結、収益認識基準を適用だが損益への影響なし)は、売上高が21年3月期比9.6%増の113億34百万円、営業利益が11.3%増の8億14百万円、経常利益が3.4%増の8億70百万円、当期純利益が3.4%増の5億95百万円としている。営業外収益では助成金収入の減少などを見込んでいる。配当予想は未定としている。

 第2四半期累計は、売上高が前年同期比9.5%増の56億67百万円、営業利益が52.0%増の4億41百万円、経常利益が40.1%増の4億68百万円、四半期純利益が43.7%増の3億17百万円だった。

 従来予想(売上高56億64百万円、営業利益3億91百万円、経常利益4億27百万円、四半期純利益2億92百万円)を上回る大幅増益だった。さらに、コロナ禍前の20年3月期第2四半期累計(売上高46億62百万円、営業利益3億64百万円、経常利益3億81百万円、四半期純利益2億68百万円)も上回った。

 コロナ禍で飲食業界の厳しい状況が継続したが、成約件数が回復基調となった。固定費が膨らむ大型店舗物件などについては出店需要に弱さが見られるものの、コロナ禍でも旺盛な個人・小規模飲食事業者の出店需要に対応して、小規模・好立地の居抜き店舗物件の積極的な仕入を推進した。売上総利益率は1.9ポイント上昇した。コロナ起因の仕入物件解約に伴う費用が減少したことも寄与した。

 成約件数は前年同期比67件増加の191件(新規成約が86件増加の124件、後継成約が17件減少の67件)だった。四半期別に見ると第1四半期が52件増加の95件、第2四半期が15件増加の96件だった。前年の第1四半期は1回目の緊急事態宣言の影響で大きく落ち込んだが、第2四半期以降は回復傾向である。解約数は18件で前年同期の65件から大幅に減少した。解約数の減少も収益増につながっている。なお新規仕入物件数は116件増加の120件(第1四半期59件、第2四半期61件)で、期末時点の転貸借物件数は153件増加の1812件となった。

 セグメント別に見ると、店舗転貸借事業は売上高が5.0%増の49億96百万円で営業利益が54.5%増の3億39百万円だった。成約件数の増加でランニング収入が増加基調となった。不動産売買事業は売上高が61.7%増の6億70百万円で営業利益が44.1%増の1億02百万円だった。不動産売買は2物件を売却、3物件を取得して、期末時点の保有物件数は3件となった。

 四半期別に見ると、第1四半期は売上高が27億43百万円で業利益が2億23百万円、第2四半期は売上高が29億24百万円で営業利益が2億18百万円だった。

 通期予想は据え置いている。成約件数は106件増加の420件、期末転貸借物件数は210件増加の1916件の計画としている。コロナ禍で飲食業界の厳しい状況が継続するが、個人・小規模飲食店事業者のニーズの変化に合致した店舗物件の仕入を推進する。

 第2四半期累計の進捗率は売上高が50.0%、営業利益が54.3%、経常利益が53.8%、当期純利益が53.4%と順調だった。コロナ禍で飲食業界が厳しい状況下でも転貸借物件数・成約件数が増加基調であり、下期からの事業環境好転(緊急事態宣言解除・飲食店への営業自粛要請緩和など)も勘案すれば、通期予想は上振れの可能性が高いだろう。積極的な事業展開で収益拡大基調を期待したい。

■株主優待制度は毎年3月末

 株主優待制度(21年5月に変更)については、毎年3月31日時点で300株以上を保有し、且つ100株以上の保有を1年以上継続している株主を対象として、お食事券ジェフグルメカード5000円分を贈呈(詳細は会社HP参照)する。22年3月末対象から運用開始する。

■プライム市場上場維持基準の適合に向けた計画書

 22年4月4日移行予定の新市場区分に関しては、21年12月15日開催の取締役会でプライム市場選択申請を決議するとともに、上場維持基準の適合に向けた計画書を作成・開示した。上場維持基準への適合状況に関する一次判定結果で、移行基準日(21年6月30日)時点の流通株式時価総額がプライム市場の上場維持基準を充たしていなかったため、28年3月期までに流通株式時価総額のプライム市場上場維持基準適合を図るため各種取組を推進する。

 具体的には、継続的な業績向上の実現によって企業価値の向上(時価総額の上昇)を図るとともに、法定開示・適時開示にとどまらない積極的なIRによって市場に情報発信する。また必要に応じて、流通株式比率の向上に向けたテクニカルな取組も検討する。

 継続的な業績向上の実現では、市場開拓余地が大きく競合優位性も高い店舗転貸借事業に専門特化し、転貸借契約件数の最大化(目標:29年3月期に5500件)を通じて、サブスクリプション(ストック)型収益である賃料差益の最大化を推進することで、継続的な業績向上(目途として前期比10%~20%程度の増収増益継続)の実現を図る方針だ。

■株価は戻り試す

 株価は地合い悪化の影響で水準を切り下げたが、調整一巡して戻りを試す展開を期待したい。12月20日の終値は850円、今期予想PER(会社予想のEPS33円39銭で算出)は約25倍、前期実績PBR(前期実績のBPS166円14銭で算出)は約5.1倍、時価総額は約150億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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