アステナホールディングスは売り一巡、22年11月期減益予想だが保守的

アステナホールディングス<8095 旧イワキ>(東1、新市場区分プライム)はヘルスケア・ファインケミカル企業集団を目指し、医薬品・医薬品原料・表面処理薬品を主力とする専門商社からメーカーへと変貌している。21年11月期は需要回復などで営業・経常増益だった。22年11月期は不透明感や先行投資などを考慮して減益予想としているが保守的だろう。積極的な事業展開で収益拡大を期待したい。4月4日移行予定の新市場区分についてはプライム市場に移行する。株価は減益予想を嫌気し、さらに地合い悪化も影響して急落の形となったが、売り一巡感を強めている。反発を期待したい。

■ヘルスケア・ファインケミカル企業集団

旧イワキが21年6月1日付で持株会社体制に移行して商号をアステナホールディングスに変更した。アステナは「明日(未来)+サステナブル(持続可能)」の造語である。ヘルスケア・ファインケミカル企業集団を目指し、M&Aも積極活用して、医薬品・医薬品原料・表面処理薬品を主力とする専門商社からメーカーへと変貌している。

21年11月期のセグメント別売上高構成比はファインケミカル事業(医薬品のCMC研究開発・製造受託、医薬品原料の製造販売)が32%、医薬事業(医薬品・医療機器の製造販売)が17%、HBC・食品事業(化粧品原料の販売、食品原料・機能性食品の製造販売、一般用医薬品の卸売、化粧品の通信販売)が39%、化学品事業(表面処理薬品の製造販売、プリント基板製造プラントの製造販売)が12%、営業利益(全社費用等調整前)の構成比はファインケミカル事業が58%、医薬事業が40%、HBC・食品事業が▲14%、化学品事業が16%だった。

なお営業利益の構成比を製造・非製造で分解すると、15年11月期は製造業分野が35%で非製造業分野が65%だったが、20年11月期は製造業分野が92%で非製造業分野が8%となり、専門商社からメーカーへの変貌を鮮明にしている。M&Aも活用して4つの新しい戦略的ビジネスモデル(調達プラットフォーム事業、インキュベーション事業、注射剤CDMO事業、塗り薬CDM事業)を構築した。

■グループ事業戦略を再構築

ファインケミカル事業は、20年3月に子会社化した医薬品CMC研究開発・製造受託のスペラファーマと、スペラファーマの子会社として20年7月に設立したスペラネクサスが展開している。さらに岩城製薬のファインケミカル事業をスペラネクサスに承継し、医薬品原薬のCMC研究開発から製造受託・販売まで一貫体制を構築した。また20年6月にはスペラファーマが創薬ベンチャーのジェイファーマに出資、21年4月にスペラファーマがペプチド合成技術を保有するJITSUBOを子会社化した。

医薬事業は岩城製薬と、20年7月に鳥居薬品佐倉工場を継承した岩城製薬佐倉工場が展開している。さらに20年1月には医療用後発医薬品・一般用医薬品開発の前田薬品工業に出資、21年1月には岩城製薬が医薬品開発のキノファーマに出資して業務提携している。22年4月には岩城製薬がヤンセンファーマから「ニゾラールローション2%」の日本における製造販売承認を承継・販売移管予定である。岩城製薬にとって初の長期収載品の扱いとなる。

HBC・食品事業はイワキ(イワキ分割準備会社が21年6月商号変更)とアプロスが展開している。20年12月には健康食品・化粧品販売のマルマンH&Bを子会社化、21年7月にはイワキがスカイネットから薬事サポート事業、自社開発事業および輸入製販事業を譲り受け、21年9月にはイワキが住建情報センターのヘルスケア事業を譲り受けた。さらに22年1月にはイワキが食品原料調達WEBプラットフォーム「シェアシマ」を運営するICS―netに資本参加した。

化学品事業はメルテックス、東京化工機、および海外子会社等が展開している。

■SDGsへの取り組み強化

持株会社体制への移行に伴って、グループ全体のBCP(事業継続計画)対策および従業員の働き方・生き方の選択肢多様化を目的として、21年6月に本社機能の一部を石川県珠洲市に移転した。さらに、石川県珠洲市が地方創生に向けた人材育成事業の一環として行っている能登SDGsラボと協業し、30年までにSDGsの達成と社会変革の実現を目的とする売上100億円規模の新規事業を推進する。

21年6月には新規事業のインキュベーションを担う専任部署として新規事業推進室を設置した。SDGs推進に向けて、化粧品原料・製品(グループ会社JITSUBOのペプチド合成法Molecular Hivingによる高品質で環境に優しく、コスト優位性のある化粧品原料・製品)事業、地方創生に繋がるハイブリッド型ふるさと納税プラットフォーム事業、健康食品原料事業(国産の安心・安全な健康食品原料・製品の第6次産業化を目的として、石川県珠洲市で健康食品の原料となる植物等の栽培を行う事業)などを推進する。

21年7月には、奥能登地域のSDGS達成支援を目的とするファンド「奥能登SDGs投資事業有限責任組合(奥能登SDGsファンド)」への出資を発表した。特定子会社となる。21年8月には、グループの業務サポートやファシリティーサービスを提供するアステナハートフル(21年6月設立)が、障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく特例子会社の認定を取得した。

21年11月には能登地域のSDGs達成の支援を目的として、能登地域の自治体3市(七尾市、輪島市、珠洲市)・2町(穴水町、能都町)、および国立大学法人金沢大学、奥能登信用金庫、のと共栄信用金庫、北國フィナンシャルホールディングス、BPキャピタルと、SDGs推進に係る連携と協力に関する協定を締結した。21年12月には子会社のイワキ総合研究所の商号をアステナミネルヴァに変更した。新規事業推進室を移設し、事業内容も地方創生に関連する事業に変更した。

■中長期ビジョンの目標は売上高1300億円以上、ROE13%以上

2030年に向けたグループ中長期ビジョン「Astena2030」では、定量的ターゲットとして30年11月期の売上高1300億円以上、ROE13%以上を掲げ、中期経営計画(ローリング形式、新会計基準)の目標値は24年11月期の売上高600億円、営業利益38億円、ROE8.9%としている。

セグメント別30年11月期目標値は、ファインケミカル事業が売上高400億円で営業利益率9%、医薬事業が売上高228億円で営業利益率13%、化学品事業が売上高130億円で営業利益率10%、HBC・食品事業が売上高450億円で営業利益率3%としている。

基本戦略としては、プラットフォーム戦略(CMC=医療用医薬品研究開発の国内トップレベルでの受託、ヘルスケア調達プラットフォーム=医薬品・化粧品・機能性食品製造会社の全ニーズをカバー、創薬インキュベーション=CMC提供を通じて新薬開発の成功確率を高める、CDMO=注射剤・外皮用剤・治験薬の受託製造)、ニッチトップ戦略(外皮用剤ジェネリック医薬品=国内塗り薬ジェネリック医薬品市場NO.1、ハイエンド表面処理薬品=エレクトロニクスに特化した表面処理薬品)、ソーシャルインパクト戦略(シニア・アクティベイト=化粧品・機能性食品の提供を通じてシニア総アクティブ化推進)を掲げている。

ファインケミカル事業は、CMC・CDMO事業および調達プラットフォーム事業を2本柱として、原材料調達からCMC研究、原薬商用生産までの医薬品開発・製造の幅広いサービスを提供する。21年3月には、岩城製薬(スペラネクサスに承継)が、オンコリスバイオファーマ<4588>が開発中の新型コロナウイルス感染症治療薬OBP―2011の、臨床試験開始に必要な治験薬原薬の製造法開発とGMP製造を受託することで基本合意した。21年7月にはスペラファーマがオンコロスバイオファーマからOBP―2011の治験薬製剤のGMP製造を受託することで基本合意した。

医薬事業は、皮膚科領域をベースとして外皮用剤品目数および生産キャパシティでトップ、グローバル要求水準に対応して高活性注射剤CDMOのトップを目指す。また外皮用剤、注射剤導入、新薬共同開発、M&A・アライアンスで事業基盤強化・拡大を目指す。21年4月には岩城製薬がインタープロテインとCOVID―19治療薬の共同研究契約を締結した。

化学品事業は、エレクトロニクス実装市場のトレンドを捉えたニッチトップ商品の継続的開発、ハイエンドパッケージ基板での地位確立、チップ部品用途の台湾・中国大手での採用、半導体パワー・センサー系薬品の差別化を推進する。またグローバル企業との共同開発も推進して成長を目指す。

HBC・食品事業は、原料ビジネスのDX化による顧客の開発・調達プロセスの課題解決プラットフォームの提供、独自性を高めた商品・サービスの提供による市場価値増大を推進する。またダイレクトマーケティング領域への投資を実行して、領域特化型ネットワークを構築する。

その他では既存事業との親和性、将来に亘る成長性、グループ全体への波及効果なども勘案して、SDGsの達成と社会変革の実現を目的とする売上100億円規模の新規事業を推進することを目標とする。

なお、資本効率向上に向けた拠点見直しの一環として、21年6月に名古屋オフィスおよび福岡オフィスの不動産を譲渡すると発表している。譲渡時期は未定だが、譲渡後も賃借で継続利用する。また22年1月には組織変更を発表した。事業戦略見直しを図ることを目的として、事業戦略および財務に対する権限・責任を代表取締役社長に集中させた。

■21年11月期営業・経常増益、22年11月期は減益予想だが保守的

21年11月期の連結業績は、売上高が20年11月期比10.7%増の723億22百万円、営業利益が9.7%増の22億33百万円、経常利益が23.0%増の24億20百万円、親会社株主帰属当期純利益が12.4%減の17億36百万円だった。配当は20年11月期比2円増配の18円(第2四半期末9円、期末9円)とした。

新規受注や需要回復などで増収、営業・経常増益だった。期初計画との比較では、医薬品需要減に起因する医薬品原料の販売不振、ジェネリック医薬品の品質不良に伴う回収費用の発生、持株会社化・社名変更・本社一部移転に関わる費用の増加で、売上高・利益とも計画を下回った。親会社株主帰属当期純利益は前期計上の負ののれん発生益6億20百万円が剥落したため減益だった。

ファインケミカル事業は売上高が6.9%増の229億33百万円で、営業利益が15.2%増の13億86百万円だった。コロナ禍で製薬企業の医薬品開発の遅れや変更の影響があったものの、医薬品原料のジェネリック新規品目採用やM&A効果などでカバーして増収増益だった。

医薬事業は売上高が17.0%増の124億52百万円で、営業利益が4.0%減の9億58百万円だった。医療用医薬品で外皮用剤やアトピー性皮膚炎治療薬などが伸長したが、一般用医薬品でビタミン原末や提携外用新製品が低調だった。

HBC・食品事業は売上高が9.4%増の282億38百万円で、営業利益が3億43百万円の赤字(20年11月期は4億90百万円の赤字)だった。通販化粧品や一般用医薬品の卸売が低調だったが、食品原料や機能性食品原料が好調に推移して赤字縮小した。

化学品事業は売上高が17.1%増の86億97百万円で、営業利益が16.9%増の3億83百万円だった。表面処理薬品、表面処理設備とも需要が拡大した。

なお四半期別に見ると、第1四半期は売上高が169億75百万円で営業利益が6億63百万円、第2四半期は売上高が192億74百万円で営業利益が8億32百万円、第3四半期は売上高が174億78百万円で営業利益が4億59百万円、第4四半期は売上高が185億95百万円で営業利益が2億79百万円だった。

22年11月期の連結業績予想(収益認識会計基準適用のため前期比増減率は非掲載)は、売上高が500億円、営業利益が17億円、経常利益が16億円、親会社株主帰属当期純利益が15億円としている。特別利益に固定資産譲渡益(IW日本橋ビル、引渡日22年3月予定、譲渡益約6億50百万円)を計上予定である。配当予想は21年11月期と同額の18円(第2四半期末9円、期末9円)としている。

なお収益認識会計基準適用の影響としては、売上高が従来方法と比較して約230億円減少する見込みだが、営業利益、経常利益、親会社株主帰属当期純利益への影響はないとしている。各利益の増減率を21年11月期実績値との単純比較で算出すると、営業利益は23.9%減益、経常利益は33.9%減益、親会社株主帰属当期純利益は13.6%減益となる。

事業環境の不透明感、薬価改定、のれん償却、新製品開発に向けた先行投資などを考慮して減益予想としている。営業利益の前期比増減計画はファインケミカル事業が3.7億円減益、医薬事業が5.3億円減益、HBC・食品事業が不採算取引減少や化粧品回復などで1.4億円増益、化学品事業が需要好調で1.8億円増益としている。

22年11月期は不透明感や先行投資などを考慮して減益予想としているが保守的だろう。積極的な事業展開で収益拡大を期待したい。

■株主優待制度は毎年11月末時点で1年以上保有株主対象

株主優待制度は毎年11月末時点で100株(1単元)以上を継続して1年以上保有する株主を対象として実施している。グループ化粧品詰め合わせセットなどを贈呈(詳細は会社HP参照)する。

■株価は売り一巡

株価は22年11月期減益予想を嫌気し、さらに地合い悪化も影響して急落の形となったが、売り一巡感を強めている。反発を期待したい。1月28日の終値は377円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS37円62銭で算出)は約10倍、今期予想配当利回り(会社予想の18円で算出)は約4.8%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS677円09銭で算出)は約0.6倍、時価総額は約153億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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