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【小倉正男の経済羅針盤】「リキャップCB」、問われるのは本質的なROE改善
- 2015/7/10 09:35
- 小倉正男の経済コラム
■「スチュワードシップ・コード」がもたらした変革
歴史もそれなりに築いてきたある名門企業――。アベノミクスで他社の株価が上昇するなか、その企業の株価は上がらない。
利益準備金など内部留保はタップリ、なんと利益準備金はその会社の時価総額を上回っている。
いわば、「金持ち会社」だが、設備投資、開発投資、M&A、賃上げ、自社株買い、増配などはやっていない。おカネはあるが使っていない。資本を投資していない。だから、内部留保は増えるばかり――。
日本の1部、2部の上場企業のなかには、こうした企業が少なくない。おカネはあり余って、株主資本・自己資本のみが肥大化しているから、ROE(自己資本利益率)は2~3%と低い。
株価が安いから企業買収にさらされそうだが、株式持合いで「防御壁」があるからなんとか平穏に過ごしてきている。
しかし、ROEの低い企業の株式持合いは、急速に解消される動きが表面化しそうである。株式持合いでは、資本効率が悪い。企業にとっても、おカネを寝かして持ち合っている余裕がなくなっている。持ち合っているのでは、自社のROEが低いままで資本効率は一向に改善されない。
そのうえ生保、信託銀行といった機関投資家も、ROEが低い企業への投資は手控えるとしている。金融庁がつくった「スチュワードシップ・コード」は、ニッポン株式会社を根底から変えようとしている。
■「リキャップCB」は有効か?結局は集めたおカネの使い方次第
昨年あたりから注目を集めている財務手法に「リキャップCB」がある。
リキャップは、リキャピタリゼーション(負債・資本の再構築)のことである。「リキャップCB」は、ROEを向上させることを目的に発行されている。
「リキャップCB」は、CB(転換社債)の発行で得た資金は借入金になるが、ゼロ金利で発行され、コストが最小化されている。
そして、その資金と同じ金額を株主資本から取り崩して自社株を購入する。株主資本は減るから、とりあえずROEは上昇・改善する。1株当り利益も向上する。
マーケットは、これもとりあえずだが一定期間は需給が改善されるから大歓迎であり、株価は上昇することが一般的だ。
ただ、あまりにテクニカルというか、小手先での「猫だまし」で使うと、流行した「株式分割」のやり過ぎと同じで、マーケットから見透かされることになるだろう。
結局は、「リキャップCB」で集めたおカネをどう使って、リターンを得たかどうか。ROEが本質的に上昇・改善したかどうか。それが問われることになる。
■本質的にROEを改善するなら、それもよし
株式を買いやすくするためという大義名分で「株式分割」が行われた。そのうち、「株式分割」の異常なほどのやり過ぎといった企業も次々に出てきた。
確かに、「リキャップCB」もROEの上昇・改善から、人気になる面がある。時流についており、企業の資本効率を本質的に改善するものなら、よい財務手法になる。
しかし、一時的に人気になっても、業態・業績がよくならないなら、人気ははげる。むしろ、マーケットから放置され、人気が離散するケースも出てくる。このあたりの「選別」はかなり難しいが、「眼力」が必要になる。
おそらく「リキャップCB」も続々と活用されることになるだろう。ファイナンスしながら、自社株を買うのだから「希薄化」もない。マーケットの人気もおそらく盛り上がる。
現状ではなんとも言えないが、異常というか、やり過ぎ現象みたいなことがなければ、それもよしというところだろうか・・・。
(経済ジャーナリスト。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所)など著書多数。東洋経済新報社で編集局記者・編集者、金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。)