Jトラストは売られ過ぎ感、22年12月期は実質大幅営業増益予想で収益拡大基調

 Jトラスト<8508>(東2、新市場区分スタンダード)は日本、韓国・モンゴルおよびインドネシアを中心とする東南アジアで金融事業を展開し、成長加速に向けて事業ポートフォリオを再編している。21年12月期は投資事業利益なども寄与して営業利益が大幅黒字に転換した。22年12月期は、表面上は営業減益予想の形だが、前期の投資事業利益や一過性要因を除いたベース営業利益に対しては実質大幅営業増益予想としている。営業黒字拡大に合わせて配当も大幅増配予想としている。ポートフォリオ再編や積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。株価は地合い悪化も影響して下げ足を速める形となったが売られ過ぎ感を強めている。大幅増配も評価材料であり、調整一巡して出直りを期待したい。

■日本、韓国・モンゴル、東南アジアで金融事業を展開

 日本、韓国・モンゴルおよびインドネシアを中心とする東南アジアで金融事業(銀行、信用保証、債権回収、その他の金融)を展開している。

 グループビジョンに「既成概念にとらわれないファイナンシャルサービスを提供する企業体を目指す」を掲げ、国内外におけるM&Aも積極活用して、銀行業および債権買取回収事業を中核とする総合金融サービスの提供を目指している。

 21年12月期セグメント別利益(全社費用等調整前営業利益、20年12月期の数値は継続事業・非継続事業の分類変更を考慮した遡及修正後数値)は、日本金融事業がパルティール債権回収における貸倒引当金繰入額増加などで5.6%減の45億88百万円、韓国およびモンゴル金融事業が貸出資産増加に伴う利息収益増加などで58.9%増の32億08百万円、東南アジア金融事業がコロナ禍に伴う貸倒引当金繰入額増加やのれん減損損失などで63億72百万円の赤字(20年12月期は55億41百万円の赤字)だった。投資事業はシンガポール控訴裁判所における勝訴判決全額履行(受領額78億47百万円)で54億45百万円の黒字(同16億51百万円の赤字)だった。その他事業は4億30百万円の黒字(同3億10百万円の赤字)だった。なお収益はM&A・事業再編・不良債権処理などで大幅に変動する可能性がある。セグメント別の営業利益は、

■成長加速に向けて事業ポートフォリオ再編

 成長加速に向けて事業ポートフォリオ再編を推進している。子会社売却に伴って増加する換価性の高い資産は、積極的なポートフォリオ再編に活用する。

 日本金融事業では、20年11月にNexus Bank<4764>(旧SAMURAI&J PARTNERS)と株式交換によって、JトラストカードおよびJトラストカードの子会社である韓国・JT親愛貯蓄銀行を連結除外とした。またNexus BankのA種優先株式を引き受けた。Jトラストカードの連結除外によって日本国内でのカード事業から撤退した。

 今後の日本金融事業は、日本保証の保証業務、パルティール債権回収の債権回収業務を両輪として展開する。日本保証は保証商品拡充に向けて、寄付型クラウドファンディング大手のCAMPFIREと融資型クラウドファンディングにおいて業務提携している。パルティール債権回収は信販系大手カード会社等からの債権買取回収を推進する。21年8月には子会社Frontier Capitalを設立してファクタリング事業を開始した。

 なお22年1月にNexus Bankを株式交換によって完全子会社化(22年4月1日予定)すると発表した。Nexus Bankおよび傘下の子会社3社(SAMURAI TECHNOLOGY、Nexus Card、JT親愛貯蓄銀行)が特定子会社となり、Nexus Bankは22年3月30日付で上場廃止予定である。

 また22年1月には、特定子会社でクラウドファンディング事業のLCレンディングを解散(22年5月31日予定)すると発表した。既存ファンドに関する投資家への償還が完了したため当該事業を終了する。業績への影響は軽微としている。

 2月9日には、HSホールディングス<8699>からエイチ・エス証券の全株式を取得して子会社化(22年4月1日付予定、株式取得後に商号変更を検討)すると発表した。金融商品取引法に基づく金融商品取引業を新たな事業として開始する。

 韓国およびモンゴル金融事業では、韓国・JT親愛貯蓄銀行を直接親会社のJトラストカードと一緒に売却した。その後、韓国・JTキャピタルの全株式を韓国・VI金融投資に譲渡(CK株式譲渡)、および韓国・JT貯蓄銀行の全株式を韓国・VI金融投資もしくは許容された譲受人に譲渡(SB株式譲渡)する基本合意書を締結し、今後の韓国およびモンゴル金融事業は、韓国のTA Assetが債権回収業務、モンゴルのJトラストクレジットNBFIが割賦業務を展開する方針とした。

 韓国・JTキャピタルについては21年8月に全株式の譲渡を完了し、韓国・JTキャピタルおよびその子会社が連結子会社から除外された。韓国・JT貯蓄銀行については株式売買契約締結期限までに契約内容の合意に至らなかったため、21年11月に株式譲渡中止を発表した。

 また、Nexus Bankを株式交換によって完全子会社化(22年4月1日予定)することに伴い、22年4月以降はJT親愛貯蓄銀行(JT Chinae Savings Bank)がグループに復帰する。JT貯蓄銀行とJT親愛貯蓄銀行を合計すると、総資産および貸出金で韓国の貯蓄銀行79行のうち7位(21年9月現在)となる。

 東南アジア金融事業は、Jトラスト銀行インドネシア(BJI)が銀行業務、Jトラストオリンピンドマルチファイナンス(JTO)がマルチファイナンス業務、Jトラストインベストメンツインドネシア(JTII)が債権回収業務、カンボジアのJトラストロイヤル銀行(JTRB、19年8月に商業銀行ANZRoyalBankを子会社化して商号変更)が銀行業務を展開している。

 JTRBは、21年1月に人事評価機関であるHR Asiaの2020HR ASIA AWARDにおいて「2020 Best Companies to work for in ASIA」(アジアを代表する働き方のベストカンパニー)を受賞した。21年11月には、英国の著名な国際ビジネス誌であるGlobal Business Outlook(GBO)から「MOST CUSTOMER CENTRIC BANK―CAMBODIA2021」を受賞した。顧客への商品知識・専門的な対応・優れたサービスの提供、社会的責任等の基準で評価された。

 BJIは21年11月に飯田グループのインドネシアの住宅開発・販売会社と住宅販売に係る業務提携契約を締結した。今後も、インドネシア各地に事業展開している飯田グループ各社と業務提携を順次締結し、飯田グループが提供する住宅を購入する顧客を対象に住宅ローン商品を提供する予定である。

 またBJIは21年12月にAsuransi Jiwa Sequis Financialと、生命保険・医療保険の販売を視野に入れた包括的業務提携契約を締結した。インドネシア当局の認可を踏まえて22年1月からの販売開始を計画している。なお21年12月にはBJIの取締役社長が「2021年度のインドネシアベストリーダー賞」を受賞したと発表している。

 投資事業はJトラストアジアが展開している。なおJトラストアジアは販売金融事業のタイGL社に出資したが、17年10月にタイGL社CEO此下益司氏がタイSECから偽計および不正行為で刑事告発された。このため現在はタイGL社、此下益司氏、およびGLの関連取締役に対して、刑事告発手続き、会社更生法申し立て・補償請求・賠償請求などの訴訟を提起している。

 GL社に対する訴訟の解決・債権回収が課題となっていたが、勝訴判決に基づいて履行を受けるなど解消に向けた動きが進展している。シンガポールにおいては控訴裁判所の判決(20年10月)に基づいて債権回収が進展している。

 タイにおける控訴審判決では21年3月にJトラストアジアによる権利行使は適法であるとしてGLの請求を棄却するとともに、GLに対して訴訟費用および弁護士費用の支払いを命じている。なおGLに対する会社更生の申し立てについては、最高裁判所において21年12月22日付で申し立てが却下されたが、民事訴訟については第1審の審理が継続している。

 英領バージン諸島においては21年5月、控訴裁判所が昭和ホールディングスによる上訴を棄却した。日本では21年6月、A.P.F.GROUP、昭和ホールディングス、ウェッジホールディングスに対して、24.3百万米ドルの支払いを求める損害賠償請求訴訟を東京地裁に提起した。キプロスにおいては21年8月、此下益司氏ならびにキプロス所在4社に対して約130百万米ドルの賠償を求める訴訟を提起し、裁判所が被告らに対する全世界的資産凍結命令を発令した。

 非金融のその他事業ではJトラストシステムがITシステム事業を展開している。

 KeyHolder<4712>については、保有する同社株式の一部を、ミクシィ<2121>が設立したミクシィエンターテインメントファンド1号投資事業有限責任組合など5社に譲渡(20年12月)した。引き続き当社が筆頭株主となるが、KeyHolderおよび同社の連結子会社は持分法適用関連会社に異動した。

■22年12月期は実質大幅営業増益・大幅増配予想

 21年12月期の連結業績(IFRS)は営業収益が20年12月期比7.5%増の423億25百万円、営業利益が52億60百万円(20年12月期は24億03百万円の赤字)、税引前利益が58億99百万円(同6億19百万円の赤字)、親会社の所有者に帰属する当期利益が11億23百万円(同53億42百万円の赤字)だった。配当は復配の1円(期末一括)とした。

 Nexus Bank株式の売却益が計画を下回り、Nexus Bank株式評価損を計上した影響で、税引前利益と親会社の所有者に帰属する当期利益が計画を下回ったが、営業収益と営業利益は概ね計画水準で着地した。前期比では、韓国およびモンゴル金融事業と投資事業の損益が大幅に改善し、大幅営業黒字に転換した。

 セグメント別の営業利益は、日本金融事業がパルティール債権回収における貸倒引当金繰入額増加などで5.6%減の45億88百万円、韓国およびモンゴル金融事業が貸出資産増加に伴う利息収益増加などで58.9%増の32億08百万円、東南アジア金融事業がコロナ禍に伴う貸倒引当金繰入額増加やのれん減損損失などで63億72百万円の赤字(20年12月期は55億41百万円の赤字)、投資事業がシンガポール控訴裁判所における勝訴判決全額履行(受領額78億47百万円)で54億45百万円の黒字(同16億51百万円の赤字)だった。その他事業は4億30百万円の黒字(同3億10百万円の赤字)だった。

 四半期別に見ると、第1四半期は営業収益が108億67百万円で営業利益が44億円、第2四半期は営業収益が114億73百万円で営業利益が27億60百万円、第3四半期は営業収益が82億84百万円で営業利益が6億67百万円、第4四半期は営業収益が117億01百万円で営業利益が25億67百万円の赤字だった。

 22年12月期連結業績(IFRS)は、営業収益が21年12月期比68.5%増の713億24百万円、営業利益が8.3%減の48億23百万円、税引前利益が20.6%減の46億83百万円、親会社の所有者に帰属する当期利益が27.3%増の14億30百万円としている。なお配当予想は21年12月期比9円増配の10円(期末一括)としている。

 表面上は営業減益予想の形だが、前期の投資事業利益や一過性要因を除いたベース営業利益(参考値で約12億円)に対しては、約36億円の実質大幅営業増益予想としている。そして営業黒字拡大に合わせて大幅増配とする方針だ。Nexus Bankについては22年3月30日付で上場廃止予定のため、同社株式評価損は一巡する見込みとしている。

 セグメント別利益(全社費用等調整前営業利益)の計画は、日本金融事業が10億18百万円減少の35億70百万円、韓国およびモンゴル金融事業が31億44百万円増加の63億52百万円、東南アジア金融事業が赤字幅41億99百万円縮小して21億73百万円の赤字、投資事業が68億83百万円減少して14億38百万円の赤字、その他事業が3億72百万円減少して58百万円としている。

 韓国およびモンゴル金融事業ではJT親愛貯蓄銀行のグループ復帰も寄与する。東南アジア金融事業では債権積み上げや回収金の最大化などによる収益改善を目指す。投資事業は前期の勝訴判決全額履行の反動減だが、引き続き裁判費用等の回収コストを抑制しつつ、改修強化を図る。

 2022年12月期は重点方針として、金融事業にける安定的な収益・利益基盤の再構築を推進する。そして事業ポートフォリオ再構築に伴って新たな成長フェーズに入り、東南アジア金融事業の黒字化などで23年12月期以降の営業利益率は飛躍的に向上する見込みとしている。ポートフォリオ再編や積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。

■株価は売られ過ぎ感

 株価は地合い悪化も影響して下げ足を速める形となったが売られ過ぎ感を強めている。大幅増配も評価材料であり、調整一巡して出直りを期待したい。2月25日の終値は418円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS12円54銭で算出)は約33倍、今期予想配当利回り(会社予想の10円で算出)は約2.4%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS903円66銭で算出)は約0.5倍、時価総額は約483億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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