アイリッジは底打ちして反発の動き、事業拡大に向けて新人事制度導入

アイリッジ<3917>(東マ、新市場区分グロース)は、企業のO2O・OMOを支援するデジタル・フィジカルマーケティングソリューションをベースに、デジタル地域通貨など新規事業領域も拡大してDXソリューションカンパニーへの進化を目指している。22年3月期大幅営業増益予想としている。デジタルマーケティング領域が好調であり、さらに上振れ余地がありそうだ。積極的な事業展開で23年3月期も収益拡大基調だろう。なお事業拡大に向けた採用力強化と働きやすさ向上を目的として、22年4月から副業や地方移住などの多様な働き方を選べる新人事制度「Work Style for Next iRidge」の運用を開始する。株価は1月の安値圏で底打ちして反発の動きを強めている。戻りを試す展開を期待したい。

■O2O・OMOソリューションをベースに事業領域拡大

 企業のO2O(Online to Offline)およびOMO(Online Merges with Offline)を支援するデジタル・フィジカルマーケティング領域(スマホをプラットフォームとするOMOソリューションの提供、OMOアプリの企画・開発、OMOマーケティング支援)のソリューションをベースとして、デジタル地域通貨など新規事業領域も拡大している。

 21年3月期のサービス別売上高構成比は、月額報酬(FANSHIPのサービス利用料、アプリのシステム保守料等)が23%、アプリ開発・コンサル・プロモーション等(アプリ企画・開発に伴う収入、アプリマーケティングに伴う収入、広告・販売プロモーションに伴う収入)が77%だった。

 デジタルガレージ<4819>との資本業務提携は21年2月に解消した。デジタルガレージから株式80%取得したセールスプロモーションの連結子会社DGマーケティングデザイン(DGMD)については、両社の株式保有を継続し、21年4月1日付で社名をQoil(コイル)に変更した。

 なおwithコロナ対応として、オフィスを約5割削減・再編して、出社勤務と在宅勤務を併用するハイブリッド型働き方に最適な環境と勤務体制「iRidge Hybrid Working Style」を構築した。また、事業拡大に向けた採用力強化と働きやすさ向上を目的として、22年4月から全社員を対象に、副業や地方移住などの多様な働き方を選べる新人事制度「Work Style for Next iRidge」の運用を開始する。

■デジタル・フィジカルマーケティング領域はFANSHIPが主力

 デジタル・フィジカルマーケティング領域は、ファン育成プラットフォーム(顧客データ分析プラットフォーム)FANSHIPを主力としている。スマホ向け位置情報連動型O2Oソリューションpopinfoを19年7月にブランドリニューアルした。さらにFANSHIPを活用し、LINEサービスに組み込んで使えるLINEミニアプリに対応するアプリ開発プラットフォーム「FANSHIP for ミニアプリ」も展開している。

 22年3月期第3四半期時点のFANSHIP導入アプリの合計MAU数(四半期平均)は、21年3月期第3四半期比1834万ユーザー増加(36.7%増加)の6830万ユーザーとなった。利用ユーザー数に応じた従量課金型月額報酬の積み上げによるストック収益となる。

 21年12月には、FANSHIPが福井県民生活協同組合の「ハーツアプリ」に導入された。また、キュービーネットのLINEミニアプリ「QB HOUSE」の開発を支援した。2月21日にはファン育成プラットフォームFANSHIPが、銀行口座から直接支払いできるスマホアプリ「Bank Pay」に導入されたと発表している。

■DXソリューションカンパニーへの進化を目指す

 今後はリアルチャネル保有企業向けのDXソリューションカンパニーへの進化を目指し、デジタル・フィジカルマーケティング領域におけるFANSHIPを中心としたクラウド型プロダクトおよびソリューションの強化・拡充、顧客ニーズに合わせたプロフェッショナルサービスによるDX支援の強化を両輪として、新規事業の立ち上げ・収益化も推進する方針だ。

 中期的な目標値としては、26年3月期の売上高133億円+αを目指すとしている。利益面については、当面は採用費用や新規事業への先行投資費用の増加が見込まれるが、販管費を適切にコントロールして、営業利益は毎期着実な増益を目指すとしている。

 22年1月にはQoilが一般消費財メーカー等に向けて、LINE上でリピート購入とマーケティングDXを実現する「購入スタンプミニアプリforメーカー」の提供を開始した。デジタルスタンプカード機能で特典が受けられる仕組みを通じて長期的な顧客接点を形成し、LINEを通じたOne to Oneマーケティングによるファン育成(顧客定着化)を実現する。22年2月にはQoilが、脳波計測に基づく「足を止める」POP制作から店頭設置代行、店頭データに基づく効果検証までをワンストップで提供する「ニューロクリエイティブ&店頭最適化パック」の提供を開始した。

■デジタル地域通貨プラットフォームの展開を加速

 フィンテック領域(デジタル地域通貨)は子会社フィノバレーが、決済システムを中心としたデジタル地域通貨プラットフォームMoneyEasyを展開している。ファン育成プラットフォームFANSHIPと組み合わせて、マーケティング機能を融合した決済基盤構築も可能となる。地域経済活性化施策として自治体におけるデジタル地域通貨需要が高まっていることも背景に事業展開を加速している。

 システム提供実績として岐阜県飛騨・高山地域の「さるぼぼコイン」、千葉県木更津市の「アクアコイン」、長崎県南島原市の「MINAコイン」、東京都世田谷区の「せたがやPay」、東京都江東区の「カケハシコイン」、大分銀行の「デジタル商品券発行スキーム」などがある。なお岡山県真庭市では「公金キャッシュレス・市民ポイント調査研究業務」の優先交渉権を獲得(20年12月)している。

 21年6月には「大阪スマートシティパートナーズフォーラム」の第2期プロジェクトのインバウンド・観光再生に関するコーディネーター企業に選出された。21年10月には岐阜県観光連盟の電子観光クーポン事業「ぎふ旅コイン」に採用された。岐阜県飛騨・高山地域「さるぼぼコイン」とも連携して約1100店舗で利用可能である。

 21年11月には長野県松本市の電子クーポン「まつもとコイン」に採用された。また、神戸市「大学発アーバンイノベーション神戸」選定事業として採択された通期通貨アプリ実証実験「すいすいコイン」のプラットフォームとして採用された。水道筋商店街周辺の加盟店で2ヶ月間の実証実験を行う。21年12月には熊本県人吉市のデジタル地域通貨「きじうまコイン」に採用された。

 なお21年12月にはフィノバレーが、自治体向けの新たなデジタル通貨サービスの共同開発に向けて三菱電機と資本業務提携した。スマートシティ/スーパーシティ関連システムの構築を目指す。

 22年3月には東京都世田谷区の「せたがやPay」の加盟店数が、運用から約1年で2000店舗を突破した。流通総額は19億円超となった。

■新規事業領域も育成

 新規事業領域の育成も強化している。18年9月にはAIスピーカーAlexaスキル開発運用クラウドNOIDを提供開始した。プログラミング不要で簡単にスマートスピーカーアプリが作れるクラウドサービスである。

 20年11月にはソフトバンクとトヨタ自動車の共同出資会社MONETが設立したMONETコンソーシアムに参画した。MaaS事業への取り組みを強化する。また欧州系最大の戦略コンサルティングファームの日本法人ローランド・ベルガーの価値共創ネットワーク(VCN)に参画した。

 21年2月には、小売業界向けSaaS型オンラインプラットフォームを提供するFlow Solutionsと資本業務提携した。またオンライン・モンスターと提携し、接客・相談・学習指導など対面サービスを提供する企業向けに、対面サービスのオンライン化を実現するビデオ通話機能付マッチングプラットフォームの提供を開始した。さらに、メディカルネット(20年5月に歯科向けオンライン診療サービスの共同開発で業務提携)と共同で、マッチングプラットフォームを利用したオンライン歯科相談サロン「デンタルオンラインサロン」と、業界初の歯科用口腔内カメラを活用した歯科向けオンライン診察サービス「デンタルオンライン」の提供を開始した。

 21年5月には、DXプロジェクトに必要な人材調達・稼働管理などの業務効率を改善し、外部企業とのコラボレーションを促進するリソース最適化支援プラットフォーム「Co―Assign」の提供開始を発表した。プロジェクト成功の確度を高める体制づくりを支援するクラウドサービスとして、24年度中の500社導入を目指すとしている。

 21年8月にはワイヤ・アンド・ワイヤレス、データセクション、Flow Solutionsおよび子会社Qoilと、リテールDXプラットフォームの共同展開に関して業務提携した。小売企業のDXを支援する。

 21年12月にはFlow Solutions、三菱商事UBSリアルティと、21年11月にオープンしたサステナブル&OMO体験ポップアップストア「mozo SUSTAINABLE PARK」の実証実験プロジェクトに参画した。

■22年3月期営業利益は従来のレンジ予想上限値見込み

 22年3月期連結業績予想(収益認識会計基準適用、経常利益と親会社株主帰属当期純利益は非開示、2月10日付で従来のレンジ予想から修正)は、売上高が21年3月期比19.2%増の52億円、営業利益が77.0%増の2億円としている。従来予想(売上高48億円~55億円、営業利益1億50百万円~2億円)に対して、営業利益はレンジ予想上限値で着地見込みとした。なお一部の営業外損益の合理的な見積もりが困難として、経常利益と親会社株主帰属当期純利益については引き続き非開示としている。

 第3四半期累計は売上高が前年同期比27.2%増の39億64百万円、営業利益が2億01百万円(前年同期は12百万円)、経常利益が2億円(同21百万円)、親会社株主帰属四半期純利益が1億25百万円(同26百万円の赤字)だった。

 オフラインプロモーション領域でコロナ禍の影響が残ったが、主力のデジタルマーケティング領域が牽引して大幅増収増益だった。なお収益認識会計基準適用の影響額として、従来方法に比べて売上高が1億93百万円増加、売上原価が1億15百万円増加、営業利益、経常利益、税金等調整前四半期純利益がそれぞれ77百万円増加している。

 デジタルマーケティング領域中心の単体ベース売上高は27.2%増の23億18百万円だった。アプリ開発やアプリマーケティング関連が好調に推移した。オフラインプロモーション領域中心の連結子会社Qoil他の売上高は40.0%増の16億46百万円だった。コロナ禍の影響が残ったが、第3四半期は回復傾向となった。利益面では、事業拡大に向けた採用強化で採用費や人件費が増加したが、全体の売上総利益率が1.1ポイント上昇して販管費増加を吸収した。

 なお四半期別に見ると、第1四半期は売上高が11億35百万円で営業利益が3百万円、第2四半期は売上高が12億81百万円で営業利益が77百万円、第3四半期は売上高が15億46百万円で営業利益が1億20百万円だった。四半期別に見ても営業黒字拡大基調である。

 ストック型収益(3ヶ月以上の準委任契約および月額報酬等の合計)の売上高は、第1四半期が4億02百万円(売上構成比35.5%)、第2四半期が4億12百万円(同32.2%)、第3四半期が4億46百万円(同28.8%)だった。FANSHIP導入アプリの合計MAU(平均)は第1四半期が22.6%増の5788万ユーザー、第2四半期が26.6%増の5977万ユーザー、第3四半期が36.7%増の6830万ユーザーだった。

 通期の営業利益予想は従来のレンジ予想上限値で着地見込みとした。第4四半期もオフラインプロモーション領域においてコロナ禍の影響が継続し、さらに来期以降の成長に向けた先行投資を実行するが、第3四半期累計の営業利益が従来のレンジ予想上限値を超過達成したことを考慮した。デジタルマーケティング領域が好調であり、さらに上振れ余地がありそうだ。積極的な事業展開で23年3月期も収益拡大基調だろう。

■株価は底打ちして反発の動き

 株価は1月の安値圏で底打ちして反発の動きを強めている。戻りを試す展開を期待したい。3月24日の終値は769円、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS385円72銭で算出)は約2.0倍、時価総額は約54億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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