【IRインタビュー】データ・アプリケーションの安原武志社長に「成長シナリオ」を聞く

【データ・アプリケーション 安原武志代表取締役社長執行役員に成長シナリオを聞く】

■EDIミドルウェア市場のマーケットリーダー
 さらにデータ・インテグレーション市場のトップを目指す

 データ・アプリケーション<3848>(東証スタンダード)はEDI(電子データ交換)ミドルウェア市場のマーケットリーダーである。戦略製品の拡販に加えて、ソフトウェアの売り切りからサブスクリプション型のリカーリング売上(注:継続的なサービス提供から得られる収益)へのシフトによって安定成長を図るとともに、データ・インテグレーション市場でのトップを目指して積極投資を続けている。安原武志代表取締役社長執行役員は就任2年。今後の成長シナリオなどを含め、投資対象としての魅力を存分に語っていただいた。

■得意とするEDI領域のパッケージベンダーに転換

――設立が1982年でIT系の企業としては設立が比較的早く歴史を感じますが、設立から現在までの変遷などを教えてください。

 【安原】設立当初はシステム開発・運用のSIer(エスアイヤー、注:システムインテグレーション事業者)として事業を行っていましたが、その後、我々が得意とする通信パッケージや通信ミドルウェアなど、いわゆるEDIの領域で独自製品を開発・販売する戦略に変更しました。簡単に言えばSIerからパッケージベンダーへと転換して現在に至るということになります。

 さらに今後はパッケージ販売だけではなく、我々自身がサービスベンダーになるように新たな成長戦略を進めているところです。先の決算説明資料にも掲げましたが、データ・インテグレーション市場でのNO.1を目指しています。

■ミドルウェアは「根幹になるソフトのつなぎ役」

――事業の特長を教えてください。ミドルウェアというのは個人投資家から見てわかりにくい製品だと思うのですが、どのように説明されていますか。

 【安原】ソフトウェアパッケージといっても、法人向けのパッケージベンダーになるので、個人投資家の皆様からはイメージが掴みづらいかもしれません。その中でもミドルウェアというレンジの製品を提供しているので、もっとわかりにくいと思います。

 ミドルウェアを大雑把に説明すると、ソフトウェアにはOS(基本ソフト)、ミドルウェア、アプリケーションという三つのレイヤー(層)があり、OSとアプリケーションの間を司っているのがミドルウェアになります。そして我々はミドルウェアの中でも特に通信の領域を得意としています。ややニッチな領域なのですが、通信の領域を得意とするミドルウェアのパッケージベンダーが当社であるという捉え方をしていただければよろしいかと思います。

 ミドルウェアという製品を投資家の皆様にご理解いただくため、まさに苦心しているところです。たとえば「データとデータをつなぐもの」などと、まるめてお話する場合もあり、最近は「根幹になるソフトのつなぎ役」となる不可欠なパッケージを開発している会社ということで、ご理解を頂けるよう努力しています。

■技術者集団にマーケティングの視点を融合

――いつ頃から通信ミドルウェアのマーケットリーダーと呼ばれるようになったのでしょうか。安原社長が入社されたのは2009年のようですが、マーケットリーダーというところに魅力を感じられたのでしょうか。

 【安原】20年ほど前からです。冒頭に、1982年に設立という話が出ましたが、ちょうど真ん中ぐらいからだと思います。私は2009年に入社しましたが、その頃には通信ミドルウェアのマーケットリーダーというポジションを確立していました。

 私はデータ・アプリケーションの前にいた日本オラクルで、ビジネスはマーケットでNO.1ならやりたいことができるということを学びました。そしてデータ・アプリケーションにはニッチな分野とはいえNO.1があり、将来性や可能性に魅力を感じました。

――入社されてから注力したところ、会社の成長に貢献した手応えなどを聞かせてください。

 【安原】元々、技術者によって創立された会社のため、ものすごく技術にまじめに取り組み、高い技術力を誇っていたのですが、マーケティング戦略となると、マーケットリーダーという評価やポジションをなかなか生かしきれていない面があったと思います。こうしたところを、価格戦略や製品ラインナップなども見直しながら強化に努めてきました。

 さらに、投資家の皆様にわかりやすい例で申し上げますと、2007年に株式をJASDAQに上場した後、しばらくは業績予想を下方修正することが多かったのですが、最近は概ね予想水準で着地することができています。売上予想というのは、やはり営業体制がしっかりしているとか、営業的な視点も必要とか、マーケティングに対する経験や感覚が育成されていないと難しいところがあります。技術者集団にマーケティングの視点を融合したという点で改善できたと思っています。

 当社はパートナービジネスと呼ぶ販売方式を採っています。販売パートナーは大手SIerを中心に54社(注:21年3月期末時点)ですが、当社の製品の多くは販売パートナーのシステム構築やソフトウェアに組み込まれる形で販売されるため、当社の売上や利益を予想するには、販売パートナーの皆様からいろんな情報を上げていただいて予想します。すぐに売上が立ちそうな案件か、次の期にまたがりそうな案件か、この辺の見極めにはマーケティングの高い経験値が必要になります。

■「オンプレミス・クラウド問わず、企業間から企業内まで」一気通貫の戦略製品

――これまでの技術面での発展や戦略製品について教えてください。

 【安原】EDIミドルウェア市場のマーケットリーダーとはいえ、当社の得意とする分野はマーケットのパイが小さいのも事実です。企業間のデータ交換を行うEDIのマーケットはパイが限られます。

 その中で企業が成長していくときに、先代、先々代の社長からの戦略として、我々の得意分野は企業間のシステムをつなぐミドルウェアなのだから、企業の中にある様々なシステムをつなぐ連携も行うことを目指そうと製品開発を行ってきました。つまり「オンプレミス・クラウド問わず、企業間から企業内まで」一気通貫でシステム連携・データ連携ができれば、お客様にとって利用価値や満足度の高いサービスになるという考え方です。

 そして2000年台後半から開発に取り組み、2016年に販売開始したのが現在の戦略製品である「ACMS Apex(エーシーエムエス・エイペックス)」になります。この他にも、データハンドリングプラットフォームの「RACCOON(ラクーン)」や、文書データ活用・EDI統合ソリューションの「OCRtran(オーシーアールトラン)」なども戦略製品と位置付けて拡販に注力しています。

■売り切りからリカーリング売上へのシフトで「数年は我慢すべし」

――戦略的にソフトウェア売り切りからリカーリング売上へのシフトを推進して安定成長を目指していますが、その狙いなどを教えてください。

 【安原】リカーリングは「繰り返す」や「循環する」といった意味ですが、製品やサービスを継続的に提供することで長期的に安定収益を目指すビジネスモデルです。個人消費の世界でも月額課金のサブスクリプション型サービスが定着してきているように、ソフトウェアのライセンス販売でも利便性が高くなる場合があるのではないかということで積極提案しています。

 例えば、利用者(企業)がIT予算を組む際に、ひょっとしたらバージョンアップするかもしれないという前提の予算と、しないかもしれないといった前提の予算とでは、予算を組む際に結構なズレが出てきます。しかし当社のサブスクリプション方式ではバージョンアップ権が入っているので、好きな時に最新のものにバージョンアップしていただけます。またサポートについても、売り切り型に比べて手厚いサポートを付けています。

 この方式は、実は当社にとってはシフト時に売上が一時的に減少することになります。ライセンス売り切りの場合の一括払い方式ではなく月額定額方式のため、今までは一発で数千万円とか売上が立っていたものが、月々百万円に満たない売上になります。特に大型商談になるほど売上の一時的落ち込みが大きくなります。

 この落ち込みは数年かけて回収することになりますが、その後は安定収益になるため「数年は我慢するべし」という考え方になります。ただし一方では安定的な収入源が増えることにもなるので、我々としてはリカーリングビジネスに舵を切る価値が大いにあると考えています。

――なるほど、ここ数年は業績が横ばいでも、その後は上向くという戦略ですね。

 【安原】そうです。業績でいえば、リカーリングビジネスを積極的に拡大していることに加え、新たな収益認識会計基準を早期適用しているので、これによる数字上の影響も前期から出ています。この辺のところは、決算説明会などで説明させていただいているものの、まだ伝わり切れていない印象があります。新会計基準の早期適用によって売上高約21億円に対して約2億円は数字上の影響が出ています。

 ここ数年の当社の業績推移を見ると「なかなか伸びないなあ」といった印象を持たれるかもしれませんが、これはリカーリングビジネスを積極的に拡大している最中であることと、新会計基準の早期適用が大きな要因になっています。中期経営計画では25億円の売上高を計画(注:中期経営計画の目標値として最終年度2024年3月期売上高25億円、営業利益3.5億円を掲げている)しています。これは新会計基準に基づく計画ですが、もし仮に新会計基準を適用せず、リカーリングビジネスの拡大も進めないとすれば、社内のシミュレーションでは計画最終年度の売上高は過去最高を更新しています。

 利益については、数年前に売上高24億円で営業利益6億円台の時があったため、そこから見れば利益は伸び悩んでいます。この点については、ソフトウェア事業の場合は在庫にかかる費用などの割合が小さいため、売上が伸びれば営業利益もストレートに伸びやすい半面、売上が伸び悩めばほぼそのまま逆方向にリンクしてくることになります。今はこの要因が大きいのですが、先にお話したようにリカーリングビジネスの拡大に取り組んでいる最中のため、足元は「数年は我慢するべし」の時期と位置付けています。

■人材、IT、オフィス環境への投資で「魅力的な会社」

――戦略投資について教えてください。

 【安原】現在の中期経営計画では、今まで投資できていなかったところへの投資も行っています。私が社長になってからは特に人材、IT、オフィス環境への投資、この3点を重視して実施しています。

 人材への投資では、管理部門も含めたバックオフィスへの投資も積極的に行っています。

 例えば、予算を組む場合には、ワークフローシステムのように全社で使うものはいいが、各部門が使うシステムへの投資などは、一元管理する仕組みがないと積み上がり過ぎて、来期計画などとのバランスが取れなくなってしまうこともあります。そのようなことがないように、各部署が本業に専念できる環境を整えるため人員の増強が必要と考えて実施しています。

 ITへの投資では、自分達ですべて開発する時代ではないので、できるだけクラウドファーストで、セキュリティの高いものを、できるだけ安くということで随時導入しています。

 オフィス環境への投資では、2020年に本社を現在地(注:東京都中央区京橋、旧ブリヂストン本社ビルがあったミュージアムタワー京橋)に移転しました。環境にも配慮した最新のビルで、地下鉄の駅が近い(京橋、日本橋、八丁堀)だけでなく、JR東京駅からは地下商店街を通って来られます。利便性が高まったことで採用に関する問い合わせが増えており、優秀な人材を採用できる素地が固まったと考えています。また、お客さんからも褒めていただくことが多くなり、営業面でもメリットにつながっています。現在はコロナ禍のため在宅勤務を行っていますが、コロナ禍でなければ思う存分に活用できるのに、もったいない、などと言われることもあります。

 このようにビジネスや採用などあらゆる面で格段に環境が整ったと考えています。将来的にはバーチャルオフィスのアプリケーション導入なども行いながら、新しくジョインする社員にも企業風土が伝わるような「魅力的な会社」にしていきたいと考えています。

リカーリング売上が想定以上に拡大

――中期経営計画がスタートして1年が経過しました。進捗状況はいかがですか。

 【安原】具体的な数字はまだ開示できませんが、着実に成果を上げています。昨年11月に2022年3月期業績予想の上方修正を発表し、そこでも触れていますが、重点戦略として推進しているリカーリング売上が、当初の想定を上回るペースで拡大しています。このため、今後は収益の安定性が一層高まるとともに、収益の再拡大につながる土台も想定を上回るペースで固まっていると考えています。

 事業の間口拡大という点では、昨年11月にテクノスジャパン<3666>と業務提携しました。次の柱となるソリューションを検討しているところですが、ホップ、ステップ、ジャンプでいえば3年後にジャンプというイメージです。現時点では詳細を具体的に公開できる状況ではありませんが、そこは期待していただければと思います。

■テクノスジャパンとの提携は潜在需要掘り起こしにつながる可能性

――テクノスジャパンとの業務提携について、もう少し教えてください。

 【安原】新規事業という訳ではないのですが、テクノスジャパン様が外向けに展開しようとしているサービスがあり、そのインフラで我々の製品を使っていただけることになりました。テクノスジャパン様のサービス拡大に応じて、我々の製品の使用料が当社に入るレベニューシェア型の契約になっています。これがひとつです。

 さらに、テクノスジャパン様のサービスの利用者様には、CRMやSFAといったクラウドやERPの導入を検討・実施されている顧客が多く、この顧客層は我々の戦略製品である「ACMS Apex」のターゲット需要層と重なる部分があります。つまり我々が売りたいお客様を、テクノスジャパン様はすでに顧客にしているということです。このため当社にとって潜在需要の掘り起こしにつながる可能性があり、今回の業務提携は販売戦略としてもかなり期待できます。システム入れ替え等でシステム連携の話が出たときには当社の製品がプライオリティ1番で検討される、そのような内容も含めた業務提携です。

■EDIやミドルウェア分野以外への事業拡大の可能性

――EDIやミドルウェア分野以外への事業拡大・新製品開発については、どのように考えていらっしゃいますか。

 【安原】新事業創出に向けて、今年4月に新たな部署を立ち上げて「サービス型ビジネス探求」を本格的に推進する方針です。まだビジネスになっていない技術について実用化の可能性を探るとともに、世の中に出てきた新しい技術を当社の製品に取り込めるかどうかなど実利的な面での探求も行います。

 BtoCのコンシューマービジネスまで踏み込むには少し距離がありすぎますが、我々の今までのビジネスではないところで何かビジネスができないかという検討を進めているところです。成果を得るまでに長い時間をかけず、できるだけスピード感のある形で世の中に出せるように進めたいと考えています。

――M&Aについての考え方を教えてください。

 【安原】積極的に検討を進めています。前の決算説明会で多少お話ししましたが、業務提携や資本提携にプラスして、M&Aも視野に入れて、さまざまな企業に声をかけています。そう簡単に話がまとまる訳ではなく、簡単にまとまったら苦労しないのですが、M&Aは私が社長になってから成長戦略のひとつに加えています。

■2022年3月期の業績は昨年11月の上方修正値を達成見込み

――2022年3月期業績の着地見通しはいかがでしょうか。可能な範囲で来期の見通しについてもお聞かせください。

 【安原】2022年3月期の業績予想については、昨年11月に業績予想の上方修正を発表したので期待が強いかもしれませんが、昨年11月の上方修正値の達成を目指して進捗しています。

 来期の業績見通しについては、中期経営計画の2年目になるのですが、数字をまだ外部に出していません。お話してきたように、リカーリングビジネスへのシフトと各部門での先行投資が活発化するので、イメージとしては売上高が微増で、利益は中計を策定した時の目標を達成しようというところです。

――2022年3月期の予想営業利益は3.8億円(注:2022年3月期第3四半期決算発表時に2021年11月8日付の上方修正値を据え置き)です。中期経営計画で掲げた最終年度2024年3月期目標の3.5億円を達成する数字ですが。

 【安原】これには理由があります。成長投資などの目的で予算化した費用がコロナ禍の影響で予定通り実行できなかったため、その分が一時的要因として利益にハネ返ってきた形になっていますが、来期は計画通り費用を使うつもりです。成長投資については決算説明会でも補足説明しましたが、中期経営計画を含めて継続的に実行する方針です。

■個人株主数800人台は少ないので積極的にPR

――最後に、株主還元なども含めて投資家に対するメッセージをお願いします。

 【安原】株主還元については、DOE(株主資本配当率)3.5%をベースに安定配当を続けていきたいと考えています。言い換えれば、業績が冴えないときでも配当は出します。その代わり、急激に良くなっても、急にそこまですべて配当に回すことはできません、ということです。要は安定的に配当を行う方針なので、その辺のところは安心して投資していただきたいと思います。

 まだ時価総額60億円の規模の会社ですが、経営指標を見れば割安感を感じる面も少なくないと思います。個人的には今、時期的にはかなりいいのかな、という気がしています。株主数で見ると個人投資家数が800人台で、まだまだ世に知られていない企業なのかなと感じています。もっと積極的にPRするため、社長就任以降、メディアへの登場を増やし、個人投資家様に当社を知っていただけるような形でIR活動も強化しています。投資家の皆様には、ぜひ中長期的にご支援をいただければと思っています。

――本日は貴重なお話を伺うことができました。ありがとうございました。
(聞き手:日本インタビュ新聞社シニアアナリスト 水田雅展、日本インタビュ新聞社副編集長 智田拓)

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