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アステナホールディングスは下値切り上げ、22年11月期1Q減益だが利益進捗率高水準
- 2022/4/25 09:00
- アナリスト水田雅展の銘柄分析
アステナホールディングス<8095>(東証プライム)はヘルスケア・ファインケミカル企業集団として、医薬品・医薬品原料・表面処理薬品を主力とする専門商社からメーカーへと変貌している。さらにM&Aも積極活用して、4つの新しい戦略的ビジネスモデル(調達プラットフォーム事業、インキュベーション事業、注射剤CDMO事業、塗り薬CDM事業)の構築を推進している。22年11月期第1四半期は先行投資の影響などで小幅減益だったが、利益進捗率は高水準であり、通期予想に上振れ余地がありそうだ。積極的な事業展開で収益拡大を期待したい。株価は小動きだが1月の年初来安値圏から徐々に下値を切り上げている。指標面の割安感も見直して戻りを試す展開を期待したい。
■ヘルスケア・ファインケミカル企業集団
旧イワキが21年6月1日付で持株会社体制に移行して商号をアステナホールディングスに変更した。アステナは「明日(未来)+サステナブル(持続可能)」の造語である。ヘルスケア・ファインケミカル企業集団として、医薬品・医薬品原料・表面処理薬品を主力とする専門商社からメーカーへと変貌している。
21年11月期のセグメント別売上高構成比はファインケミカル事業(医薬品のCMC研究開発・製造受託、医薬品原料の製造販売)が32%、医薬事業(医薬品・医療機器の製造販売)が17%、HBC・食品事業(化粧品原料の販売、食品原料・機能性食品の製造販売、一般用医薬品の卸売、化粧品の通信販売)が39%、化学品事業(表面処理薬品の製造販売、プリント基板製造プラントの製造販売)が12%、営業利益(全社費用等調整前)の構成比はファインケミカル事業が58%、医薬事業が40%、HBC・食品事業が▲14%、化学品事業が16%だった。
なお営業利益の構成比を製造・非製造で分解すると、15年11月期は製造業分野が35%で非製造業分野が65%だったが、20年11月期は製造業分野が92%で非製造業分野が8%となり、専門商社からメーカーへの変貌を鮮明にしている。
■4つの新しい戦略的ビジネスモデル
M&Aも積極活用して、4つの新しい戦略的ビジネスモデル(調達プラットフォーム事業、インキュベーション事業、注射剤CDMO事業、塗り薬CDM事業)の構築を推進している。
ファインケミカル事業は、20年3月に子会社化した医薬品CMC研究開発・製造受託のスペラファーマと、スペラファーマの子会社として20年7月に設立したスペラネクサスが展開している。さらに岩城製薬のファインケミカル事業をスペラネクサスに承継し、医薬品原薬のCMC研究開発から製造受託・販売まで一貫体制を構築した。20年6月にはスペラファーマが創薬ベンチャーのジェイファーマに出資、21年4月にはスペラファーマがペプチド合成技術を保有するJITSUBOを子会社化した。
21年3月には岩城製薬(スペラネクサスに承継)が、オンコリスバイオファーマ<4588>の新型コロナウイルス感染症治療薬OBP―2011の臨床試験開始に必要な治験薬原薬の製造法開発とGMP製造を受託することで基本合意し、21年7月にはスペラファーマがオンコロスバイオファーマからOBP―2011の治験薬製剤のGMP製造を受託することで基本合意した。
22年2月にはスペラファーマがインタープロテインと、アンメット・メディカル・ニーズの高い様々な疾患に対する新規低分子およびペプチド医薬品の研究開発、製造ならびに商業化を目的とした包括的協業に関する覚書を締結した。
医薬事業は岩城製薬と、20年7月に鳥居薬品佐倉工場を継承した岩城製薬佐倉工場が展開している。さらに20年1月には医療用後発医薬品・一般用医薬品開発の前田薬品工業に出資、21年1月には岩城製薬が医薬品開発のキノファーマに出資して業務提携した。21年4月には岩城製薬がインタープロテインとCOVID―19治療薬の共同研究契約を締結した。22年4月には岩城製薬がヤンセンファーマから「ニゾラールローション2%」の日本における製造販売承認を承継・販売移管予定である。岩城製薬にとって初の長期収載品の扱いとなる。
HBC・食品事業はイワキ(イワキ分割準備会社が21年6月商号変更)とアプロスが展開している。20年12月には健康食品・化粧品販売のマルマンH&Bを子会社化、21年7月にはイワキがスカイネットから薬事サポート事業、自社開発事業および輸入製販事業を譲り受け、21年9月にはイワキが住建情報センターのヘルスケア事業を譲り受けた。22年1月にはイワキが食品原料調達WEBプラットフォーム「シェアシマ」を運営するICS―netに資本参加した。
化学品事業はメルテックス、東京化工機、および海外子会社等が展開している。
■SDGsへの取り組み推進
持株会社体制への移行に伴い、グループ全体のBCP(事業継続計画)対策および従業員の働き方・生き方の選択肢多様化を目的として、21年6月に本社機能の一部を石川県珠洲市に移転した。さらに、石川県珠洲市が地方創生に向けた人材育成事業の一環として行っている能登SDGsラボと協業し、30年までにSDGsの達成と社会変革の実現を目的とする売上100億円規模の新規事業を推進する。
21年6月には新規事業のインキュベーションを担う専任部署として新規事業推進室を設置した。SDGs推進に向けて、化粧品原料・製品(グループ会社JITSUBOのペプチド合成法Molecular Hivingによる高品質で環境に優しく、コスト優位性のある化粧品原料・製品)事業、地方創生に繋がるハイブリッド型ふるさと納税プラットフォーム事業、健康食品原料事業(国産の安心・安全な健康食品原料・製品の第6次産業化を目的として、石川県珠洲市で健康食品の原料となる植物等の栽培を行う事業)などを推進する。
21年7月には、奥能登地域のSDGS達成支援を目的とするファンド「奥能登SDGs投資事業有限責任組合(奥能登SDGsファンド)」に出資した。特定子会社となる。21年8月には、グループの業務サポートやファシリティーサービスを提供するアステナハートフル(21年6月設立)が、障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく特例子会社の認定を取得した。
21年11月には能登地域のSDGs達成の支援を目的として、能登地域の自治体3市(七尾市、輪島市、珠洲市)・2町(穴水町、能都町)、および国立大学法人金沢大学、奥能登信用金庫、のと共栄信用金庫、北國フィナンシャルホールディングス、BPキャピタルと、SDGs推進に係る連携と協力に関する協定を締結した。21年12月には子会社のイワキ総合研究所の商号をアステナミネルヴァに変更した。新規事業推進室を移設し、事業内容も地方創生に関連する事業に変更した。
■中長期ビジョンの目標は売上高1300億円以上、ROE13%以上
2030年に向けたグループ中長期ビジョン「Astena2030」では、定量的ターゲットとして30年11月期の売上高1300億円以上、ROE13%以上を掲げ、中期経営計画(ローリング形式、新会計基準)の目標値は24年11月期の売上高600億円、営業利益38億円、ROE8.9%としている。
セグメント別30年11月期目標値は、ファインケミカル事業が売上高400億円で営業利益率9%、医薬事業が売上高228億円で営業利益率13%、化学品事業が売上高130億円で営業利益率10%、HBC・食品事業が売上高450億円で営業利益率3%としている。
基本戦略としては、プラットフォーム戦略(CMC=医療用医薬品研究開発の国内トップレベルでの受託、ヘルスケア調達プラットフォーム=医薬品・化粧品・機能性食品製造会社の全ニーズをカバー、創薬インキュベーション=CMC提供を通じて新薬開発の成功確率を高める、CDMO=注射剤・外皮用剤・治験薬の受託製造)、ニッチトップ戦略(外皮用剤ジェネリック医薬品=国内塗り薬ジェネリック医薬品市場NO.1、ハイエンド表面処理薬品=エレクトロニクスに特化した表面処理薬品)、ソーシャルインパクト戦略(シニア・アクティベイト=化粧品・機能性食品の提供を通じてシニア総アクティブ化推進)を掲げている。
ファインケミカル事業は、CMC・CDMO事業および調達プラットフォーム事業を2本柱として、原材料調達からCMC研究、原薬商用生産までの医薬品開発・製造の幅広いサービスを提供する。
医薬事業は、皮膚科領域をベースとして外皮用剤品目数および生産キャパシティでトップ、グローバル要求水準に対応して高活性注射剤CDMOのトップを目指す。また外皮用剤、注射剤導入、新薬共同開発、M&A・アライアンスで事業基盤強化・拡大を目指す。
化学品事業は、エレクトロニクス実装市場のトレンドを捉えたニッチトップ商品の継続的開発、ハイエンドパッケージ基板での地位確立、チップ部品用途の台湾・中国大手での採用、半導体パワー・センサー系薬品の差別化を推進する。またグローバル企業との共同開発も推進して成長を目指す。
HBC・食品事業は、原料ビジネスのDX化による顧客の開発・調達プロセスの課題解決プラットフォームの提供、独自性を高めた商品・サービスの提供による市場価値増大を推進する。またダイレクトマーケティング領域への投資を実行して、領域特化型ネットワークを構築する。
その他では既存事業との親和性、将来に亘る成長性、グループ全体への波及効果なども勘案して、SDGsの達成と社会変革の実現を目的とする売上100億円規模の新規事業を推進することを目標とする。
なお資本効率向上に向けた拠点見直しの一環として、21年6月に名古屋オフィスおよび福岡オフィスの不動産を譲渡すると発表している。譲渡時期は未定だが、譲渡後も賃借で継続利用する。
■22年11月期1Q減益だが利益進捗率高水準
22年11月期の連結業績予想(収益認識会計基準適用のため前期比増減率は非掲載、利益への影響なし)は、売上高が500億円、営業利益が17億円、経常利益が16億円、親会社株主帰属当期純利益が15億円としている。特別利益には固定資産譲渡益(IW日本橋ビル、引渡日22年3月、譲渡益約6億50百万円)を計上予定である。配当予想は21年11月期と同額の18円(第2四半期末9円、期末9円)としている。
収益認識会計基準適用の影響としては、従来方法と比較して売上高が約230億円減少する見込みだが、営業利益、経常利益、親会社株主帰属当期純利益への影響はないとしている。各利益の増減率を21年11月期実績値との単純比較で算出すると、営業利益は23.9%減益、経常利益は33.9%減益、親会社株主帰属当期純利益は13.6%減益となる。
事業環境の不透明感、薬価改定、のれん償却、新製品開発に向けた先行投資などを考慮して減益予想としている。営業利益の前期比増減計画は、ファインケミカル事業が3.7億円減益、医薬事業が4.8億円減益、HBC・食品事業が不採算取引減少や化粧品回復などで1.4億円増益、化学品事業が需要好調で1.8億円増益としている。
第1四半期は売上高が122億85百万円(前年同期は169億75百万円)で、営業利益が6億30百万円(同6億63百万円)、経常利益が6億59百万円(同7億05百万円)、そして親会社株主帰属四半期純利益が4億49百万円(同3億98百万円)だった。
収益認識会計基準適用の影響額として、従来方法に比べて売上高が53億79百万円減少、売上原価が53億57百万円減少、営業利益、経常利益、税金等調整前四半期純利益がそれぞれ12百万円減少している。営業利益以下への影響は軽微である。
なお収益認識会計基準適用前ベースでは、売上高が前年同期比4.1%増の176億65百万円、営業利益が3.1%減の6億42百万円、経常利益が4.8%減の6億72百万円、税金等調整前四半期純利益が4.8%減の6億71百万円だった。先行投資などの影響で小幅減益だった。
ファインケミカル事業は売上高が37億63百万円(同53億16百万円)で、利益(調整前営業利益)が5億20百万円(同2億03百万円)だった。CDMO分野において顧客関係強化や新規顧客開発を推進し、新規GE品目や新規中間体などが順調だった。CDMO分野においても新規サービスなどが順調だった。
HBC・食品事業は売上高が35億49百万円(同65億88百万円)で、利益が95百万円の赤字(同2億35百万円の赤字)だった。食品分野、化粧品分野、マルマンH&Bが好調に推移した。特に化粧品原料が大幅伸長して赤字縮小した。
医薬事業は売上高が27億46百万円(同31億74百万円)で、利益が1億56百万円(同6億25百万円)だった。医療用医薬品ではアトピー性皮膚炎治療薬などが伸長した。出資先であるキノファーマとの新薬製剤共同開発も順調だった。
化学品事業は売上高が22億26百万円(同18億96百万円)で、利益が40百万円(同80百万円)だった。表面処理薬品、表面処理設備とも需要拡大で順調だった。
第1四半期は小幅減益だったが、通期予想に対する進捗率は売上高24.6%、営業利益37.1%、経常利益41.2%、親会社株主帰属当期純利益29.9%で、利益進捗率が高水準だった。22年11月期は不透明感や先行投資などを考慮して減益予想としているが上振れ余地がありそうだ。積極的な事業展開で収益拡大を期待したい。
■株主優待制度は毎年11月末時点で1年以上保有株主対象
株主優待制度は毎年11月末時点で100株(1単元)以上を継続して1年以上保有する株主を対象として実施している。グループ化粧品詰め合わせセットなどを贈呈(詳細は会社HP参照)する。
■株価は下値切り上げ
株価は小動きだが1月の年初来安値圏から徐々に下値を切り上げている。指標面の割安感も見直して戻りを試す展開を期待したい。4月22日の終値は423円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS37円62銭で算出)は約11倍、今期予想配当利回り(会社予想の18円で算出)は約4.3%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS677円09銭で算出)は約0.6倍、そして時価総額は約172億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)