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TACは戻り試す、新サービスの提供や新規事業領域への展開で収益拡大基調
- 2022/5/6 08:55
- アナリスト水田雅展の銘柄分析
TAC<4319>(東証スタンダード)は「資格の学校」運営を主力として、教育事業では事業環境の変化を見据えた新サービスの提供、出版事業では新規事業領域への展開を推進している。22年3月期はコロナ禍の影響が和らいで大幅営業増益予想としている。さらに23年3月期も積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。株価は3月の年初来安値圏をボトムとして反発の動きを強めている。週足チャートで見ると抵抗線だった26週移動平均線を突破した。調整一巡して戻りを試す展開を期待したい。なお5月13日に22年3月期決算発表を予定している。
■「資格の学校」を運営
財務・会計分野(簿記検定・公認会計士など)、経営・税務分野(税理士・中小企業診断士など)、金融・不動産分野(宅建・不動産鑑定士・FPなど)、法律分野(司法試験・司法書士など)、公務員・労務分野(社会保険労務士・国家総合職など)、その他分野(情報・国際、医療・福祉など)といった幅広い分野で「資格の学校」を運営している。また法人研修事業、出版事業、人材事業も展開し、成長戦略として新事業領域への展開も強化している。
21年3月期の構成比(調整前)は、売上高が個人教育事業57%、法人研修事業21%、出版事業20%、人材事業2%、営業利益が個人教育事業▲35%、法人研修事業62%、出版事業70%、人材事業2%だった。
■教育事業は事業環境変化を見据えて新サービスも展開
21年3月期の教育事業受講者数は20年3月期比0.7%増の20万8587人(個人が4.7%減の12万68人、法人が9.1%増の8万8519人)だった。
教育事業の分野別売上高構成比は、財務・会計分野が20.2%、経営・税務分野が15.6%、金融・不動産分野が22.5%、法律分野が6.8%、公務員・労務分野が22.8%、情報・国際分野が7.2%、医療・福祉分野が1.3%、その他分野が3.6%だった。21年3月期は会計士が11.7%増、マンション管理士が13.4%増、建築士が25.4%増などとなり、財務・会計分野、金融・不動産分野の構成比が上昇した。
新型コロナ収束後の事業環境変化を見据えて、オンライン講座の実施、カリキュラムの見直し、新たなサービスの提供などにも取り組んでいる。21年3月には「TACテストセンター」サービス開始を発表した。日本全国の主要都市に直営校舎を持つ強みを生かして、大人数の試験会場になり得る教室や、個人で受験できる個別ブースを試験用として貸し出すとともに、試験を実施するために必要となる総合的なサービスを提供する。
■出版事業は事業領域拡大
出版事業はTAC出版と早稲田経営出版(W出版)の合算売上高(20年実績でTAC出版が4億34百万円、Wが81百万円、合計が5億16百万円)で業界15位規模となっている。22年3月には早稲田経営出版(W出版)がTACグループ出版販売を吸収合併した。
事業領域拡大に向けて、高等学校商業科で使用する文部科学省検定済教科書(高校1年生で履修する簿記およびビジネス基礎)分野に参入した。21年3月には、22年4月から使用される高等学校商業科教科書「簿記」および「ビジネス基礎」を刊行した。22年4月には高等学校商業科教科書「原価計算」および「財務会計Ⅰ」を刊行すると発表した。23年4月から全国の商業学校で使用される。さらにラインナップ拡充を推進する方針だ。
■四半期業績に季節変動要因
四半期業績は資格講座の本試験実施・合格発表の時期との関係などで季節変動の特徴がある。第2四半期(7~9月)と第3四半期(10~12月)の公認会計士・税理士講座は、翌年受験のための受講申込が集中する時期となるため、現金ベース売上高が突出して多くなるとともに、翌四半期に向かって前受け金として繰り越されることから、発生ベース売上高の増加が少なくなる傾向がある。
また第4四半期(1~3月)から第1四半期(4~6月)にかけては、夏・秋の本試験時期に向けて全コースが出揃う時期にあたり、稼働率の上昇から前受金戻入額が増加することを通じて発生ベース売上高が増加する傾向にある。こうした売上の傾向に対して、売上原価や営業費用は毎月一定額計上されるため、四半期ごとの営業利益が変動しやすい。利益は期前半に集中し、下期は赤字となる収益特性がある。
■22年3月期大幅営業増益予想、23年3月期も収益拡大基調
22年3月期の連結業績予想(収益認識会計基準適用だが利益への影響なし)は、売上高(前受金調整後の発生ベース売上高)が21年3月期比3.8%増の205億円、営業利益が48.3%増の6億円、経常利益が10.6%減の5億78百万円、親会社株主帰属当期純利益が6.3%減の3億80百万円としている。配当予想は1円増配の6円(第2四半期末3円、期末3円)である。
コロナ禍の影響で不透明感が強いが、資格試験・検定試験等の多くが予定通りに実施される見込みであり、増収・大幅営業増益予想としている。なお経常利益と親会社株主帰属当期純利益は、前期計上の助成金収入や受取補償金が剥落して減益予想としている。
第3四半期累計連結業績は売上高(前受金調整後の発生ベース売上高)が前年同期比6.2%増の155億99百万円、営業利益が22.9%増の6億66百万円、経常利益が1.2%増の7億09百万円、親会社株主帰属四半期純利益が4.5%減の4億56百万円だった。法人研修事業においてWEB会議システムを利用したオンライン研修需要が増加し、営業費用抑制なども寄与して大幅営業増益と順調だった。
収益認識会計基準を適用し、出版事業における返品の可能性のある取引について計上方法を変更している。これによって、従来基準に比べて売上高が1億44百万円増加、売上原価が56百万円増加、売上総利益が87百万円増加したが、従来から返品調整引当金として返品が見込まれる売上高に係る売上総利益相当額を控除する会計処理を行っていたため、差引売上総利益、営業利益、経常利益、および税金等調整前四半期純利益に与える影響はないとしている。
個人教育事業は売上高(現金ベース)が2.1%減の84億50百万円、営業利益が2億43百万円の赤字(前年同期は2億73百万円の赤字)だった。コロナ禍の影響で講座申し込みがやや低調だったが、講師料、教材制作のための外注費、賃借料などの営業費用削減で赤字がやや縮小した。法人研修事業は売上高が8.5%増の33億92百万円、営業利益が5.7%増の8億46百万円だった。WEB会議システムを利用したオンライン研修需要が増加した。
受講者数は個人が1.0%増の9万8640人、法人が0.9%増の7万3312人、合計が1.0%増の17万1952人だった。講座別では税理士講座が6.1%増、中小企業診断士講座が12.8%増、不動産鑑定士講座が23.3%増、証券アナリスト講座が14.8%増、情報処理講座が15.2%増と好調だった。
出版事業(TAC出版、W出版)は売上高が23.4%増の32億96百万円、営業利益が8.6%減の8億26百万円だった。売上増に伴う外注費や業務委託費などの増加、販促活動に伴う費用の増加などで減益だが、売上面は巣ごもり需要の継続や書店営業の正常化なども背景として大幅増収だった。人材事業は売上高が7.9%増の4億34百万円、営業利益が48.7%増の90百万円だった。医療系人材事業が取引先拡大などで順調だった。
四半期別に見ると、第1四半期は売上高が57億36百万円で営業利益が6億22百万円、第2四半期は売上高が54億19百万円で営業利益が4億88百万円、第3四半期は売上高が44億43百万円で営業利益が4億45百万円の赤字だった。資格講座申込時期の関係で、第4四半期は前受金調整前売上高が減少し、営業費用は一定額が計上されるため、下期は赤字となる季節要因がある。
通期予想は据え置いている。新型コロナウイルス感染状況に応じて臨機応変に対応するとともに、新たな売上獲得や新たな事業領域への挑戦、賃借料の適切なコントロールなどを推進して大幅営業増益予想としている。なお3月11日には特別利益(移転補償金2億50百万円)の発生を発表している。
通期予想に対する第3四半期累計の進捗率は、売上高(前受金調整後の発生ベース売上高)が76.1%、営業利益が111.0%、経常利益が122.7%、親会社株主帰属当期純利益が120.0%である。季節要因で下期は赤字となる傾向があるが、コロナ禍の影響が和らいで通期ベースでも好業績が期待される。さらに23年3月期も積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。
■株価は戻り試す
株価は3月の年初来安値圏をボトムとして反発の動きを強めている。週足チャートで見ると抵抗線だった26週移動平均線を突破した。調整一巡して戻りを試す展開を期待したい。5月2日の終値は226円、前期推定連結PER(会社予想の連結EPS20円54銭で算出)は約11倍、前期推定配当利回り(会社予想の6円で算出)は約2.7%、前々期実績連結PBR(前々期実績の連結BPS313円88銭で算出)は約0.7倍、そして時価総額は約42億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)