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加賀電子は調整一巡、23年3月期横ばい予想だが保守的
- 2022/6/7 09:52
- アナリスト水田雅展の銘柄分析
加賀電子<8154>(東証プライム)は独立系の大手エレクトロニクス総合商社である。成長戦略として更なる収益力の強化、経営基盤の強化、新規事業の創出、SDGs経営の推進を掲げている。23年3月期はスポット販売の減少や販管費の増加などで横ばい予想(配当は連続増配予想)としている。ただし保守的な印象が強い。会社予想は上振れの可能性が高く、積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。株価は2月の年初来高値圏から反落して上値を切り下げる形だが、一方では下値を切り上げている。指標面の割安感も評価材料であり、調整一巡して上値を試す展開を期待したい。
■独立系の大手エレクトロニクス総合商社
独立系の大手エレクトロニクス総合商社である。M&Aも積極活用して、半導体・電子部品・情報機器等の商社ビジネス、および電装基板製造受託サービスのEMSビジネスを展開している。
富士通エレクトロニクスを19年1月に子会社化(富士通セミコンダクターから株式70%取得、20年12月28日付で社名を加賀FEIに変更、22年1月1日付で完全子会社化)した。また19年10月にパイオニアの製造子会社である十和田パイオニアを子会社化して商号を加賀EMS十和田に変更、20年4月にエレクトロニクス商社のエクセルを子会社化、20年11月に旭東電気(20年4月民事再生法適用申請)から新設分割された新:旭東電気を子会社化した。
21年10月には加賀EFIが、太陽誘電<6976>からBluetoothおよびWireless LANモジュールに関わる商圏、開発・製造技術ならびに知的財産権を承継し、22年1月から小型無線モジュール事業に本格参入した。
22年3月期のセグメント別売上高構成比は電子部品事業(半導体、電子部品、EMS)が88%、情報機器事業(パソコン・周辺機器、各種家電、写真・映像関連商品)が8%、ソフトウェア事業(CGアニメ映像制作、アミューズメント関連商品)が1%、その他事業(エレクトロニクス機器修理、アミューズメント機器製造販売、スポーツ用品販売など)が4%で、営業利益構成比は電子部品事業が87%、情報機器事業が10%、ソフトウェア事業が▲0%、その他事業が3%、調整額が1%だった。
中期経営計画に沿ったセグメント区分は電子部品事業、EMS事業、CSI事業(情報機器事業)、その他事業(ソフトウェア事業、その他)としている。22年3月期の売上構成比は電子部品事業が66%、EMS事業が24%、CSI事業が8%、その他事業が3%、営業利益構成比は電子部品事業が53%、EMS事業が35%、CSI事業が10%、その他事業が1%、調整額が▲1%だった。
■収益力強化や新規事業創出を推進
中期経営計画2024では基本方針にさらなる収益力の強化、経営基盤の強化、新規事業の創出、SDGs経営の推進を掲げている。経営目標値は、25年3月期売上高7500億円(電子部品事業3800億円、EMS事業1500億円、CSI事業540億円、その他事業160億円、新規M&A等1500億円)、営業利益200億円、ROE8.5%以上(安定的に)としている。株主還元については連結配当性向の目安を25~35%に置き、安定的かつ継続的に充実化する。
重点アクションとして、さらなる収益力の強化では成長分野(モビリティ、通信、環境、産業機器、医療・ヘルスケア)への選択と集中、EMSビジネスおよび海外ビジネスの強化・拡大、経営基盤の強化ではコーポレートガバナンスの強化、効率的なグループ運営、人的資本への投資、新規事業の創出では新規分野への取り組み、ベンチャー投資によるオープンイノベーションの推進、非連続な成長を狙うM&Aへの挑戦を掲げている。SDGs経営の推進については、サステナビリティ中長期経営計画(21年11月公表)に基づいて、持続可能な社会の実現と持続的なグループの成長の両立を目指す。
21年7月には、ソフトバンクが設立したソフトバンク5Gコンソーシアムの5G関連パートナーとして参画した。5G関連通信設備・機器の提供などを通じて、5G普及促進とともに、事業を通じた社会貢献を追求するとしている。22年4月には社長直下にSDGs推進室を新設した。SDGsの取り組みに関するグループ全体の連携を強化し、サステナビリティ経営を推進する。
■ベンチャー投資でイノベーション創出を支援
創立50周年を記念して設立した「50億円ファンド」を通じてベンチャー投資を行い、イノベーション創出を支援している。
出資実績としては、ウェアラブルコミュニケーションデバイス開発のBONX、前立腺癌生検および治療用システム開発の米HARMONUS、スマートセキュリティサービスのSecual、ソフトバンクグループで保育クラウドサービスを展開するhugmo、AIソフトウェア開発のハカルス、次世代蓄電デバイス「グリーンキャパシタTM」開発のスペースリンク、動画CM配信プラットフォーム事業やデジタルサイネージ事業CMerTVを展開するSun Asterisk、アジア圏を中心にライブ配信アプリ「17Live」などソーシャルメディアを展開する台湾のM17、医療機器開発ベンチャーのニューロシューティカルズ、シェアリングプラットフォーム「Alice.style」を運営するレンタルサービスベンチャーのピーステックラボなどがある。
20年10月には、独自開発の光触媒技術を活用して各種環境製品を展開するカルテック(子会社化したエクセルがスタートアップ資金を出資)と、光触媒除菌脱臭機「TURNED K」の販売および製造に関わる部品調達で協業した。20年12月には、オンライン診療システム「D―CUBE」などオンライン健康支援事業を展開するリンケージに出資した。
21年5月には株式投資型クラウドファンディング事業者の日本クラウドキャピタルに出資、21年6月にはAI関連技術を開発するカタリナに出資した。21年10月にはドローン等無人航空機の企画・製造・販売を行うVFR(PCメーカーのVAIOの子会社)に出資、21年11月には堆肥化装置や脱臭装置等を開発・販売するミライエに出資した。21年12月には独自AI技術でエナジーインフォマティックス事業を展開するインフォメティスに出資した。
■23年3月期横ばい予想だが保守的
22年3月期連結業績(収益認識会計基準適用だが利益への影響軽微、5月9日付で利益を3回目の上方修正)は、売上高が21年3月期比17.4%増の4958億27百万円、営業利益が82.4%増の209億15百万円、経常利益が90.9%増の214億56百万円、親会社株主帰属当期純利益が35.1%増の154億01百万円だった。
電子部品需要が拡大して大幅増益だった。特別利益では前期計上の負ののれん発生益79億63百万円が剥落し、特別損失では減損損失、投資有価証券評価損、貸倒引当金繰入額などが減少した。なお収益認識会計基準適用の影響額として、従来方法に比べて売上高が60億60百万円減少したが、利益への影響は軽微である。
配当(5月9日付で期末特別配当10円上方修正、3回目の上方修正)は、21年3月期比40円増配の120円(第2四半期末45円=普通配当40円+特別配当5円、期末75円=普通配当40円+特別配当35円)とした。
電子部品事業は、売上高が22.7%増の4338億52百万円、セグメント利益(全社費用等調整前営業利益)が122.1%増の181億07百万円だった。一部の半導体や電子部品の供給難が長期化する中、独立系商社としての調達力の強みを活かして広範な業界からの旺盛な需要に対応した。EMSビジネスは車載関連、産業機器関連、医療関連が好調に推移した。M&Aで子会社化した加賀EFIとエクセルの収益も大幅伸長した。
情報機器事業は売上高が18.1%減の396億16百万円、利益が16.0%減の20億85百万円だった。パソコン販売において法人向けリモートワーク需要が一巡し、LED照明機器やネットワーク機器などの設備設置ビジネスが設備・機器・資材の調達難や工期延伸の影響を受けた。
ソフトウェア事業は売上高が5.6%減の27億67百万円、利益が26百万円の赤字(21年3月期は2億63百万円の黒字)だった。納期対応に伴う開発費増加などで採算が悪化した。その他事業は売上高が11.4%増の195億90百万円、利益が32.0%増の6億26百万円だった。リサイクルビジネスが好調だった。
なお四半期別に見ると、第1四半期は売上高が1059億49百万円で営業利益が44億52百万円、第2四半期は売上高が1170億60百万円で営業利益が38億48百万円、第3四半期は売上高が1296億75百万円で営業利益が63億58百万円、第4四半期は売上高が1431億43百万円で営業利益が62億57百万円だった。
23年3月期の連結業績予想は、売上高が22年3月期比2.9%増の5100億円、営業利益が1.4%増の212億円、経常利益が1.2%減の212億円、親会社株主帰属当期純利益が5.9%減の145億円としている。配当予想は22年3月期比30円増配の150円(第2四半期末70円=普通配当70円、期末80円=普通配当70円+創立55周年記念配当10円)としている。連続増配予想である。
セグメント別の計画は、電子部品事業の売上高が3.0%増の4470億円でセグメント利益(調整前営業利益)が2.2%増の185億円、情報機器事業の売上高が1.6%減の390億円で利益が4.1%減の20億円、ソフトウェア事業の売上高が44.5%増の40億円で利益が1億円の黒字(22年3月期26百万円の赤字)、その他事業の売上高が2.1%増の200億円で利益が4.2%減の6億円としている。
営業利益の要因別増減見込みは、販売数量増加で+47億53百万円、スポット販売減少で▲31億円、販管費増加で▲13億68百万円としている。半導体・電子部品の需要は拡大基調だが、スポット販売の減少や販管費の増加などで横ばい予想(配当は連続増配予想)としている。ただし保守的な印象が強い。会社予想は上振れの可能性が高く、積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。
■株価は調整一巡
株価は2月の年初来高値圏から反落して上値を切り下げる形だが、一方では下値を切り上げている。指標面の割安感も評価材料であり、調整一巡して上値を試す展開を期待したい。6月6日の終値は3140円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS552円42銭で算出)は約6倍、今期予想配当利回り(会社予想の150円で算出)は約4.8%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS4026円22銭で算出)は約0.8倍、そして時価総額は約901億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)