シナネンホールディングスは戻り歩調、23年3月期営業利益横ばい予想だが保守的

 シナネンホールディングス<8132>(東証プライム)は脱炭素社会を見据えるグローバル総合エネルギーサービス企業グループである。成長戦略としてシェアサイクル事業・再生可能エネルギー事業・新規事業への戦略投資を推進している。23年3月期はIT関連投資推進が減益要因となるが、仕入価格上昇分の販売価格への転嫁やシェアサイクル事業の利益貢献などで吸収して、営業利益横ばい予想としている。保守的な印象が強く上振れ余地がありそうだ。積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。株価は水準を切り上げて戻り歩調だ。自律調整を交えながら上値を試す展開を期待したい。

■グローバル総合エネルギーサービス企業グループ

 脱炭素社会を見据えるグローバル総合エネルギーサービス企業グループである。事業区分は、エネルギー関連のエネルギー卸・小売周辺事業(BtoC事業)、エネルギーソリューション事業(BtoB事業)、非エネルギー・海外事業としている。国内LPガス流通事業者として国内3位規模である。

 22年3月期セグメント別構成比は、売上高がBtoC事業25%、BtoB事業68%、非エネルギー・海外事業6%、その他・調整額▲0%、営業利益がBtoC事業42%、BtoB事業23%、非エネルギー・海外事業8%、その他・調整額▲27%だった。

■BtoC事業

 BtoC事業(エネルギー卸・小売周辺事業)は、家庭向け・小売事業者向けLPガスなど各種燃料販売事業、リフォーム・ガス器具販売などの家庭向けエネルギー周辺事業、家庭向け電力販売事業、都市ガス供給事業、LPガス保安および配送事業を行っている。

■BtoB事業

 BtoB事業(エネルギーソリューション事業)は、大口需要家向け石油製品など各種燃料販売事業、ガソリンスタンド運営事業、電源開発および法人向け電力販売事業、太陽光発電システム販売および周辺サービス事業、省エネソリューション事業、住宅関連設備事業、国内外での再生可能エネルギー事業を行っている。マイクロ風車関連事業は21年3月末にさいたま市で実証実験を開始し、22年3月期下期には積雪地帯の北海道札幌市など多様な環境での実証実験を開始している。

 21年4月には再生可能エネルギー導入・調達ソリューションのクリーンエナジーコネクトと提携し、FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)に依存しない非FITの太陽光発電所を活用したバーチャルコーポレートPPA(電力購入契約)による新たなビジネスモデル展開を共同構築すると発表した。PPAは企業が太陽光や風力などの電力を発電事業者から直接、長期に購入する契約で、次の再生可能エネルギー調達手段として注目されている。

 21年8月には非FITによる電力供給が環境省の「令和3年度オフサイトコーポレートPPAによる太陽光発電供給モデル創出事業」に採択された。22年2月からロールモデル確立に向けて事業開始予定である。22年4月には愛知県の施設運営管理会社ホーメックスと協力し、愛知県豊田市の汚水処理施設約260ヶ所に実質再生可能エネルギー100%の電力の供給を開始した。

■非エネルギーおよび海外事業

 非エネルギー・海外事業は、抗菌事業(抗菌性ゼオライトなど)、環境・廃棄物処理リサイクル事業(木質系チップなど)、自転車の小売店舗「ダイシャリン」および卸売事業、シェアサイクル「ダイチャリ」事業、ITシステム事業、建物維持管理事業、バイオマス事業などを行っている。

 韓国での大型風力発電事業は21年度下期中の商業運転開始を目指していたが、許認可取得が当初予定から遅れているため、計画を見直して商業運転開始時期を未定に変更(21年10月8日付リリース)した。また、ブラジルにおけるバイオマス事業は撤退を決定したが、新たなバイオマス事業への展開を検討している。

 シェアサイクル「ダイチャリ」事業は、OpenStreetが提供するシェアサイクルプラットフォーム「HELLO CYCLING」を活用して、シナネンモビリティPLUSが首都圏1都3県および大阪府を中心に展開している。22年3月末時点で、ステーション数が全国2200ヶ所、設置自転車数が1万台に達し、国内有数の規模となっている。21年11月には過去最高となる月間利用回数60万回超となった。さらに22年2月には累計利用回数が1000万回を突破した。第3の交通インフラとして定着傾向を強めている。

 22年4月にはシナネンモビリティPLUSと、内閣府から「SDGs未来都市」に認定されている岩手県岩手郡岩手町が、「岩手町SDGs未来都市共創プロジェクト」の一環として、市街地内の交通手段の拡充を目的とした「利用者限定シェアサイクル」サービスを開始した。

 環境・廃棄物処理リサイクル事業ではシナネンエコワークが22年3月、千葉県におけるSDGs達成推進に向けた「ちばSDGsパートナー」として登録された。

■資本効率改善を推進

 第2次中期経営計画(20年度~22年度)は、第3次中期経営計画(23年度~25年度)の躍進に向けた基盤整備と位置付けて、定性目標に資本効率の改善、持続的成長を実現する投資の実行、社員の考え方・慣習・行動様式の変革を掲げている。

 資本効率・財務体質の改善では、既存事業の効率化と利益率向上、遊休・低稼働資産の有効活用または売却、資本効率の低い事業の撤退・売却と資本効率の高い事業への集中を推進する。

 持続的成長を実現する投資の実行では、既存事業の収益基盤強化のためのM&Aおよび建物維持管理事業におけるM&Aの実行、シェアサイクル事業・再生可能エネルギー事業・新規事業への戦略投資の実行、事業多様化や環境変化に値旺した基幹システムの整備・高度化およびDX(デジタルトランスフォーメーション)のためのIT投資を推進する。

 20年10月にはDX推進に向けて、インターネットイニシアティブ(IIJ)のデジタルワークプレース(DWP)を実現する各種サービスを採用して次世代IT基盤を構築した。21年12月には経済産業省が定めるDX認定制度に基づいて「DX認定事業者」の認定を取得した。

 22年5月には、中央電力とGMOメディアが共同開発したエネルギー業界に特化したポイントサイト構築・運営ソリューションを導入し、自社グループの顧客向けポイントモールサイト「brio point mall」が本格稼働した。将来的に会員数100万人を目指す。

 定量目標「持続的にROE6.0%以上」を生み出す事業構造確立を目指し、エネルギー関連事業ではM&Aによる顧客基盤とシェアの拡大、新規商材による顧客層の拡大と深耕などで経営基盤を強化し、非エネルギーおよび海外事業では個々の事業環境や特性に対応した成長戦略を推進する。そして既存事業の安定的成長と新規事業開発による高収益化を図る方針だ。なお株主還元は配当を基本として、配当性向30%以上を目安に安定的に配当する方針としている。

■23年3月期営業利益横ばい予想だが保守的

 22年3月期の連結業績(収益認識会計基準適用のため前期比増減率は非記載、利益への影響は軽微)は、売上高が2893億40百万円、営業利益が24億80百万円、経常利益が32億72百万円、親会社株主帰属当期純利益が24億87百万円だった。配当は21年3月期と同額の75円(期末一括)とした。

 収益認識会計基準適用前の21年3月期との単純比較では、売上高は33.3%増収、営業利益は15.6%減益、経常利益は8.2%増益、親会社株主帰属当期純利益は8.5%減益となる。なお収益認識会計基準適用の影響額として、従来方法に比べて売上高が101億37百万円減少、売上原価が101億33百万円減少、営業利益、経常利益、税金等調整前当期純利益がそれぞれ4百万円減少している。利益への影響は軽微である。

 原油価格・プロパンCPの高騰に伴う販売単価上昇などで大幅増収だが、IT関連や人財関連の投資を強化しているため減益だった。ただし計画に対して上振れ着地した。韓国での大型陸上風力発電事業の計画遅れに伴い、想定していた営業外費用の発生が翌期以降にズレ込んだことも寄与した。営業外収益では保険返戻金が増加、原油価格等の変動に対するデリバティブ評価益を計上、営業外費用では貸倒引当金繰入額が減少した。特別利益では固定資産売却益が減少したが投資有価証券売却益を計上、特別損失では減損損失やのれん償却額を計上した。

 エネルギー卸・小売周辺事業(BtoC事業)は売上高が731億52百万円(前期は629億94百万円)で、営業利益が10億39百万円(同9億63百万円)だった。売上面では、春先と晩秋を中心に平均気温が前年と比べて高く推移したためLPガス・灯油の販売数量が減少したが、原油価格高騰に伴って販売単価が大幅に上昇した。利益面では、LPガス仕入価格上昇に伴う販売価格への転嫁が遅れたが、棚卸資産の在庫影響などで増益だった。

 エネルギーソリューション事業(BtoB事業)は売上高が1977億15百万円(同1359億98百万円)で、営業利益が5億73百万円(同8億92百万円)だった。売上面は、BtoC事業と同様に販売単価が大幅に上昇し、販売数量も軽油を中心に増加したが、利益面は電力調達コストの上昇などで減益だった。

 非エネルギー事業・海外事業は売上高が180億97百万円(同177億81百万円)で、営業利益が2億01百万円(同2億43百万円)だった。シェアサイクル事業(シナネンモビリティPLUS)は利用回数増加、環境・リサイクル事業(シナネンエコワーク)は取引高増加、抗菌事業(シナネンゼオミック)は抗菌需要の増加、システム事業(ミノス)は電力自由化に対応した顧客情報システム(電力CIS)の伸長、建物維持管理事業(タカラビルメンなど)は感染消毒清掃の新規受注などで順調だった。自転車事業(シナネンサイクル)の自転車販売は前年の特需の反動減や部品メーカーの供給不足などで低調だった。

 四半期別に見ると、第1四半期は売上高493億59百万円、営業利益4億17百万円、経常利益5億78百万円、第2四半期は売上高511億59百万円、営業利益4億59百万円の赤字、経常利益2億55百万円の赤字、第3四半期は売上高822億01百万円、営業利益6億44百万円、経常利益7億64百万円、第4四半期は売上高1066億21百万円、営業利益18億78百万円、経常利益21億85百万円だった。なおLPガス・灯油販売は冬場が需要期となる。

 23年3月期の連結業績予想は、売上高が22年3月期比7.1%増の3100億円、営業利益が0.8%増の25億円、経常利益が14.4%減の28億円、親会社株主帰属当期純利益が16.6%増の29億円としている。配当予想は22年3月期と同額の75円(期末一括)としている。

 売上面は現状の原油価格・プロパンCPの水準を前提として増収を見込んでいる。利益面は、経営基盤整備に向けたDX関連投資推進が減益要因となるが、仕入価格上昇分の販売価格への転嫁やシェアサイクル事業の利益貢献などで吸収して、営業利益横ばい予想としている。

 セグメント別営業利益予想は、BtoC事業が+1.5億円の11.8億円、BtoB事業が▲3.3億円の2.4億円、非エネルギー事業が+6.7億円の8.7億円、その他・調整額が▲4.7億円(うち人件費含むDX投資で▲2.4億円、人材投資で▲1.0億円)の1.9億円としている。

 BtoC事業の+1.5億円の内訳は、在庫影響の消失で▲9.3億円、石油・ガス増販(M&A含む)で+5.2億円、石油・ガス差益改善(価格改定)で+4.1億円、住設機器等増販で+4.7億円、コスト増で▲3.2億円としている。BtoB事業の▲3.3億円の内訳は、SS事業の回復で+1.4億円、電力事業の増販で+4.6億円、住宅の増販で+1.4億円、石油事業の差益悪化等で▲7.6億円、その他コスト増で▲3.1億円としている。非エネルギー事業の+6.7億円の内訳は、自転車事業の販売回復で+1.7億円、シェアサイクル事業の料金改定と回転率向上で+4.5億円、システム事業の顧客離脱とサーバー増強で▲1.1億円、建物維持管理事業の集合住宅好調と機器工事回復で+0.8億円、その他で+0.8億円としている。

 経常利益はデリバティブ評価益減少などで減益予想、親会社株主帰属当期純利益は固定資産売却益計上で増益予想としている。全体として保守的な印象が強く、上振れ余地がありそうだ。積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。

■株価は戻り歩調

 株価は水準を切り上げて戻り歩調だ。自律調整を交えながら上値を試す展開を期待したい。6月10日の終値は3415円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS265円89銭で算出)は約13倍、今期予想配当利回り(会社予想の75円で算出)は約2.2%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS4922円46銭で算出)は約0.7倍、時価総額は約446億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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