TACは戻り試す、23年3月期大幅営業・経常増益予想

TAC<4319>(東証スタンダード)は「資格の学校」の運営を主力として、教育事業では事業環境変化に対応した新サービスの提供、出版事業では新規事業領域への展開を推進している。23年3月期はオンラインガイダンス等の実施による潜在受講生へのアプローチ、オンライン受講生(通信生)の学習環境強化、複数のチャネル・学習形態の駆使など多様なニーズに対応して増収を見込み、教室床面積の最適化による賃借料削減なども寄与して大幅営業・経常増益予想としている。積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。株価は3月の年初来安値圏をボトムとして反発し、その後は小動きだが徐々に下値を切り上げている。戻りを試す展開を期待したい。

■「資格の学校」を運営

財務・会計分野(簿記検定・公認会計士など)、経営・税務分野(税理士・中小企業診断士など)、金融・不動産分野(宅建・不動産鑑定士・FPなど)、法律分野(司法試験・司法書士など)、公務員・労務分野(社会保険労務士・国家総合職など)、その他分野(情報・国際、医療・福祉など)といった幅広い分野で「資格の学校」を運営する個人教育事業、法人研修事業、出版事業、人材事業(会計系、医療系)を展開し、成長戦略として新事業領域への展開も強化している。

22年3月期のセグメント別構成比(調整前)は、売上高が個人教育事業53%、法人研修事業22%、出版事業22%、人材事業3%で、営業利益が個人教育事業▲68%、法人研修事業79%、出版事業70%、人材事業2%だった。

■教育事業は事業環境変化に対応して新サービスの提供

22年3月期の教育事業受講者数は21年3月期比1.6%減の20万5211人(個人が1.5%減の11万8238人、法人が1.7%減の8万6973人)だった。

教育事業の分野別売上高構成比は、財務・会計分野が21.1%、経営・税務分野が15.3%、金融・不動産分野が23.6%、法律分野が6.3%、公務員・労務分野が20.7%、情報・国際分野が7.7%、医療・福祉分野が1.3%、その他分野が4.0%だった。財務・会計分野、金融・不動産分野の構成比が上昇傾向となっている。

コロナ禍による事業環境変化に対応し、オンライン学習環境の強化(WEB SCHOOLの機能拡充など)や、法人向け研修における多様な受講方法の整備、新たなサービスの提供、オンライン受講の増加に伴う直営校の床面積の適正化などに取り組んでいる。法人研修分野ではWEB会議システムを利用した研修が多くの企業で定着している。

■出版事業は事業領域拡大

出版事業はTAC出版と早稲田経営出版(W出版)が展開している。両社の合算売上高6億05百万円(2021年度丸善ジュンク堂調べで、TAC出版が5億20百万円、W出版が85百万円)は出版業界11位規模で、資格書籍を主力とする出版社としては有数の規模となっている。

事業領域拡大に向けて、高等学校商業科で使用する文部科学省検定済教科書(高校1年生で履修する簿記およびビジネス基礎)分野に参入した。21年3月には、22年4月から使用される高等学校商業科教科書「簿記」および「ビジネス基礎」を刊行した。22年4月には高等学校商業科教科書「原価計算」および「財務会計Ⅰ」を刊行すると発表した。23年4月から全国の商業学校で使用される。さらにラインナップ拡充を推進する方針だ。

■四半期業績に季節変動要因

四半期業績は資格講座の本試験実施・合格発表の時期との関係などで季節変動の特徴がある。第2四半期(7~9月)と第3四半期(10~12月)の公認会計士・税理士講座は、翌年受験のための受講申込が集中する時期となるため、現金ベース売上高が突出して多くなるとともに、翌四半期に向かって前受け金として繰り越されることから、発生ベース売上高の増加が少なくなる傾向がある。

また第4四半期(1~3月)から第1四半期(4~6月)にかけては、夏・秋の本試験時期に向けて全コースが出揃う時期にあたり、稼働率の上昇から前受金戻入額が増加することを通じて発生ベース売上高が増加する傾向にある。こうした売上の傾向に対して、売上原価や営業費用は毎月一定額計上されるため、四半期ごとの営業利益が変動しやすい。利益は期前半に集中し、下期は赤字となる収益特性がある。

■23年3月期大幅営業・経常増益予想

22年3月期連結業績(収益認識会計基準適用だが、出版事業では従来から売上総利益相当額について返品調整引当金を計上していたため差引売上総利益以下の各段階利益に与える影響なし)は、売上高(前受金調整後の発生ベース売上高)が21年3月期比3.7%増の204億71百万円、営業利益が2.2%増の4億13百万円、経常利益が31.5%減の4億42百万円、親会社株主帰属当期純利益が9.7%増の4億44百万円だった。配当は21年3月期比1円増配の6円(第2四半期末3円、期末3円)とした。

個人教育事業がコロナ禍の影響を受け、営業費用の増加も影響して小幅営業増益にとどまり、経常利益は減益となったが、特別利益の計上で親会社株主帰属当期純利益は増益での着地となった。なお営業外収益では助成金収入1億66百万円が剥落、受取補償金70百万円が剥落、特別利益では移転補償金2億54百万円を計上、資産除去債務戻入益56百万円を計上している。

個人教育事業は現金ベース売上高が4.2%減の107億98百万円、現金ベース営業利益が8億97百万円の赤字(21年3月期は5億65百万円の赤字)だった。コロナ禍の影響でやや低調だった。法人研修事業は現金ベース売上高が6.3%増の43億72百万円、現金ベース営業利益が3.2%増の10億43百万円だった。WEB会議システムを利用したオンライン研修需要が定着した。合計受講者数は21年3月期比1.6%減の20万5211人(個人が1.5%減の11万8238人、法人が1.7%減の8万6973人)だった。

出版事業(TAC出版、W出版)は売上高が12.8%増の45億14百万円、営業利益が2.0%減の11億16百万円だった。新規参入した高等学校向け教科書も寄与して増収だが、売上増加に伴う外注費や業務委託費など制作費用の増加、販促費用の増加などで減益だった。人材事業は売上高が6.8%増の5億12百万円、営業利益が85.4%増の65百万円だった。会計系人材事業、医療系人材事業が好調だった。

四半期別(売上高は前受金調整後の発生ベース売上高)に見ると、第1四半期は売上高が57億36百万円で営業利益が6億22百万円、第2四半期は売上高が54億19百万円で営業利益が4億88百万円、第3四半期は売上高が44億43百万円で営業利益が4億45百万円の赤字、第4四半期は売上高が48億72百万円で営業利益が2億52百万円の赤字だった。季節要因で下期は赤字となる特性がある。

23年3月期連結業績予想は、売上高(前受金調整後の発生ベース売上高)が22年3月期比0.1%減の204億50百万円、営業利益が57.3%増の6億50百万円、経常利益が37.4%増の6億08百万円、そして親会社株主帰属当期純利益が10.1%減の4億円としている。配当予想は22年3月期と同額の6円(第2四半期末3円、期末3円)としている。

親会社株主帰属当期純利益は特別利益が剥落して減益予想だが、オンラインガイダンス等の実施による潜在受講生へのアプローチ、オンライン受講生(通信生)の学習環境強化、複数のチャネル・学習形態の駆使など多様なニーズに対応して増収を見込み、さらに教室床面積の最適化による賃借料削減なども寄与して大幅営業・経常増益予想としている。積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。

■株価は戻り試す

株価は3月の年初来安値圏をボトムとして反発し、その後は小動きだが徐々に下値を切り上げている。戻りを試す展開を期待したい。6月14日の終値は226円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS21円62銭で算出)は約10倍、今期予想配当利回り(会社予想の6円で算出)は約2.7%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS333円22銭で算出)は約0.7倍、そして時価総額は約42億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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