【小倉正男の経済コラム】日本で8~9%インフレになったらパニックか?

小倉正男の経済コラム

■米国はインフレ直撃だが消費は順調

 米国の小売売上高だが、6月は前月比1%増と順調な動きをみせた。ガソリンが高止まりしているが、在庫不足が解消された自動車販売が好転している。家電製品なども需要が堅調で、バー・レストランなどサービス産業への消費も悪くはなかった。

 6月の消費者物価指数は前年同月比9・1%増(5月8・6%増)と40年ぶりの異常な高騰を記録している。インフレに直撃されているわけだが、案外なことに米国の消費は底堅さを示している。雇用増、賃金アップなどが消費を下支えしている格好だ。

 前月の5月の小売売上高は0・3%減(当初0・1%減と発表されたが0・3%減に改訂)であり、景気後退が強く意識された。大幅利上げの動きも相まって米国景気について悲観論が大きく浸透することになった。

 しかし、6月の小売り(消費)の健闘は、インフレへの抵抗をみせた格好になる。いわば、米国景気の決定要因である消費が簡単にインフレに屈するわけではないという傾向を示したことになる。6月もそうだったが、あるいは7月がインフレのピークになるという見方が根強いが、果たして米国の景気はどうなるか。

■日本で8~9%インフレになったらパニックか?

 米国の小売売上高1%増に対しては、数量は伸びておらず、一般にインフレ分を反映しての増加という見方が出ている。確かにそれはそうだが、増加したこと自体が米国経済、あるいは景気の強さを示している。

 仮に日本が5月8・6%増、6月9・1%増というインフレに見舞われていたら、猛烈なインフレにたじろいで小売売上高1%増というのは実現できなかったに違いない。

 日銀・黒田東彦総裁は、「国民の値上げ許容度が高まっている」と発言して批判を浴びた。その後、黒田総裁はこの発言を陳謝する事態になった。

 企業もそうだが、消費者の多くはバブル崩壊後のデフレに慣れ、インフレをまったく経験していない。日本が8~9%インフレになったら、日本の消費はパニックに近いことが起こるとみられる。値上げ許容度はおそらく高いとはいえない。(日本の消費者物価指数は6月2・2%増だが、メディアの「値上げ報道」はすでに凄まじいものがある。)

■真夏にコロナ感染症がぶり返す

 米国経済では、消費がGDP(国内総生産)の70%近くを占めており、景気を左右する要因にほかならない。米国の消費者は、猛烈なインフレに直撃されても消費に貪欲であり、案外にも弱気になっていない。先行きに過度に慎重になっていない。米国経済への信頼度は高いとみてとれる。

 ひるがえって日本だが、「新しい資本主義」「所得資産倍増プラン」と中身がはっきりしない絵空事のような経済政策ばかりであり、信頼度はもともと高いとはいえない。

 ともあれ、猛暑のなか無為に過ごすうちに新型コロナ感染症がまたぶり返している。新規感染者はすでに1日20万人超となっており、過去最多を連日更新している。スポーツ、コンサート、演劇などイベント・催事が軒並みに中止に追い込まれる見込みとなっている。回復機運にあった内需に水を差す動きということになる。どうにも日本経済に明るい材料はなかなか見当たらない。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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