【どう見るこの相場】「パウエル・ブラックホール」回避に自己株式取得の割安株への裏道投資も一考余地

どう見るこの相場

 「パウエル・ブラックホール」に何も彼にもが吸い寄せられている。株券も債券も円(通貨)も石油も金も、重力圏に引き込まれた結果、株価も金利も円も資源価格も暗黒化して底なし沼様相となっている。それもこれも、8月26日のジャクソンホール会議での講演でパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が、米国景気のオーバーキルをも厭わずインフレ抑制の一本槍で、政策金利引き上げを加速、長期化させる超タカ派姿勢を見せたことが引き金となった。

 ブラックホールにやや抵抗していた日本株も、重力に引きずられ始めているようだ。米国では、連休前の前週2日の雇用統計に続き重要経済指標の発表や9月20日、21日開催予定のFOMC(連邦公開市場委員会)を控え、「パウエル・ブラックホール」の重力はさらに増す可能性がある。東京市場の9月相場は、8月後半相場と同様に米国市場次第の波乱展開となることが懸念される。

 ここはどうしたってブラックホールに引き寄せられないような命綱やブラックホールから脱出する足掛かりに頼り回避せざるを得ない。相場感で売り買いの市場参加をしない需要主体へのわずかな期待である。その一つは、日本銀行のETF(上場投資信託)買い入れである。東証株価指数(TOPIX)が、前場取引時間終了時に前日より2%以上下落したときに機械的に701億円の買い入れを行うことが暗黙の了解となっているが、これはTOPIXが2・03%下落した今年6月17日以来、しばらくご無沙汰である。

 もう一つは、自己株式取得である。自己株式取得とは、上場会社が自ら発行した自己株式を買い戻す資本政策であり、流通株式が減少する需給要因から株高効果がある。また株主への利益還元政策では、配当に自己株式取得などを加えた総還元性向を基本方針とする上場会社も多く、株主への利益還元策としても評価される。さらに上場会社は、利益を積み上げた内部留保の使途として設備投資などの成長投資、従業員への賃上げ還元などがあるが、もう一つ不要不急な資金による自己株式取得も重要な選択肢になる。このほか自己株式取得は、上場会社が自らの株価が割安とアピールするアナウンス効果の側面もあるとされている。

 自己株式取得は大いに盛り上がっており、決算発表シーズンに入った今年7月以降、前週末2日まで130社超の上場会社が、立会外買付取引を含め取得金額総額の大小を問わず自己株式取得に踏み切り、前週末3日付けの日本経済新聞は、今月8月月間の取得総額は、前年同月比43%増の9650億円と8月として過去最高になったと報じた。

 そのなかで興味深いケースもある。例えばキヤノン<7751>(東証プライム)だ。同社株は、今年7月26日に今2022年12月期業績の2回目の上方修正を発表した。ところが株価は、織り込み済みとして3051円安値まで下ぶれてしまい、続いて同社は8月5日に自己株式取得(取得上限1800万株、取得総額500億円)を発表し、株価は目出度く3516円まで約500円高した。その取得は、期限の10月18日より1カ月半早い前週央の8月31日に終了しており、株価もほぼ往って来いとなっていることもあり、今年4月、8月に続く3回目の自己株式取得があるか要注目となる。

 確かにこのキヤノンのように、自己株式取得が業績の上方修正や増配も加わる大盤振舞いの3点セットとなるケースもあれば、決算悪に対する株価防衛対策として自己株式取得に踏み切る会社もある。今3月期第1四半期業績が大幅減益となったオムロン<6645>(東証プライム)や今3月期業績を下方修正したデンソー<6902>(東証プライム)などが代表例である。

 そこで今週の当特集では、「パウエル・ブラックホール」に抵抗する命綱となる自己株式取得を発表した銘柄のうち、なお割安水準に放置されている銘柄を取り上げることにした。そのなかには取得総額が大きい主力株や3点セット銘柄、さらに小型株のなかでも発行済み株式総数に対する取得比率が高く株価インパクトが大きい銘柄も浮上する。自己株式取得は上値を買わないため株価浮揚力はそれほどではないものの、下値は強力にサポートしてくれる。相場格言は、「人の行く裏に道あり花の山」と教えている。この格言通りにいずれ「花の山」に行き着く裏道投資になることを期待したい。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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