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【アナリスト水田雅展の銘柄分析】ラクーンは06年以来の高値水準まで上伸、16年4月期増収増益基調を評価
- 2015/7/30 08:24
- アナリスト水田雅展の銘柄分析
ラクーン<3031>(東マ)は企業間電子商取引(EC)サイト運営を主力として事業領域拡大戦略を加速している。株価(8月1日付の株式3分割遡及修正後)は400円近辺のフシを突破して7月23日の599円まで上伸した。06年以来の高値水準だ。その後は目先的な過熱感を強めて利益確定売りが優勢の形だが、16年4月期の増収増益基調を評価する流れに変化はないだろう。
■アパレル・雑貨分野の企業間ECサイト「スーパーデリバリー」運営が主力
アパレル・雑貨分野の企業間(BtoB)ECサイト・スーパーデリバリー運営を主力として、クラウド受発注ツールのCOREC(コレック)事業、BtoB掛売り・請求書決済代行サービスのPaid(ペイド)事業、売掛債権保証事業など周辺分野にも事業領域を広げている。
なお15年4月期からセグメント区分を、スーパーデリバリーとCORECのEC事業、およびPaid事業、売掛債権保証事業の3区分とした。
15年4月期末のスーパーデリバリー経営指標は、会員小売店数が14年4月末比3929店舗増加の4万4370店舗、出展企業数が同117社増加の1065社、商材掲載数が同3234点増加の45万6349点だった。14年12月にはアパレル大手のワールド、15年5月には多数の有名スポーツブランドアイテムを扱うゼットが出展した。
15年3月にはPaid加盟企業数が1200社を突破した。当初はアパレルや雑貨の卸メーカーが中心だったが、サービス改良によって業種・業態を問わず、あらゆるBtoB向けサービスに導入できるようになり、グラフィックが運営する「印刷の通販グラフィック」(15年1月現在で27万件の法人・個人会員登録)、GMOコマースが運営するO2O事業、三菱自動車工業の「三菱自動車 電動車両サポート」にも導入された。
なお15年5月にスーパーデリバリーにおいて、15年8月中を目途に海外への販売を開始すると発表した。EC市場拡大に伴って海外からの問い合わせも増加しているため、全面的に開放して海外への販売を強化する。
そして6月10日、スーパーデリバリーにおける越境ECサービス(海外販売)の詳細を発表した。商品を販売するメーカー側の配送業務を簡潔にするため、ディーエムエス(DMS、東京都)の物流代行サービスを利用し、日本最大級の輸出販売サービス「SD export」として、8月25日(予定)からサービス開始する。約134ヶ国以上の小売店・企業への卸販売が可能となる。
■M&A・アライアンスも積極活用
M&Aやアライアンスも積極活用している。14年10月にSquare社と業務提携し、スーパーデリバリーおよびCORECと、POSレジアプリ「Squareレジ」がシステム連携した。
14年11月には子会社トラスト&グロースがスタンドファームと業務提携した。スタンドファームのクラウド請求書管理サービス「Misoca」登録業者に対して売掛保証サービスを提供する。
14年12月にはトラスト&グロースがトラボックスと業務提携した。荷物を運んで欲しい人とトラック運送業者を結ぶオンライン物流サービス「トラボックス」登録会員に対して運賃全額保証サービスを提供する。
15年6月にはロックオンと業務提携した。ロックオンのECオープンプラットフォーム「EC-CUBE」のユーザー向け決済ツールとして、Paidが標準搭載される。
7月9日にはトラスト&グロースが、信用交換所大阪本社に対して、同社と商品設計した同社会員向け専用の売掛保証サービス「シンコー保証」の提供を開始すると発表した。これによってクライアント増加による保証残高の拡大、および売上高の増加を狙うとしている。
■クラウド受発注ツール・CORECのユーザー数が急増
15年4月にはクラウド受発注ツール・CORECのユーザー数が2000社(バイヤー1191社、サプライヤー809社)を突破した。会員ユーザーの業種別構成比は雑貨20%、アパレル13%、飲食料14%、IT12%、建築・設備3%、その他38%だった。
7月28日にはCORECユーザー数が3000社(バイヤー1836社、サプライヤー1164社)を突破したと発表している。アパレル企業(サプライヤー)による取引先(バイヤー)の積極的な誘致で、数十店規模でチェーン展開している企業のチェーン全店舗が登録する事例や、農園(サプライヤー)による取引先(バイヤー)の誘致で、レストランが数十店舗まとめてユーザー登録する事例もあるようだ。
また15年4月にはCORECと「Yahoo!ショッピング」の連携を発表している。発注にかかる作業時間や手間が大きく改善されるため「Yahoo!ショッピング」出店者のショップ運営業務が効率化される。またCOREC利用頻度向上にも繫がるとしている。
■16年4月期も増収増益基調
なお企業間ECサイト・スーパーデリバリー流通に係る売上高に関して、従来は出展企業と会員小売店がスーパーデリバリーを通じて取引した金額を売上高計上(総額表示)し、商品仕入高も売上原価に計上していたが、15年4月期から商品仕入高を売上高と相殺して表示する方法(純額表示)に変更した。この変更によってスーパーデリバリー流通に係る売上高は出展企業から徴収するシステム利用料売上となっている。従来の総額表示に比べて見掛け上の売上高は減少するが利益に変更はない。
前期(15年4月期)の連結業績は、売上高が前々期比6.4%増の20億56百万円となり、営業利益が同35.7%増の3億36百万円、経常利益が同31.8%増の3億27百万円、そして純利益が同63.4%増の2億01百万円だった。概ね1月15日の増額修正値近辺での着地だった。
配当予想は同2円55銭増配の年間6円80銭(期末一括)で、配当性向は19.7%となる。またROEは同4.5ポイント上昇して13.1%、自己資本比率は同12.2ポイント低下して35.6%となった。
セグメント別(内部取引・全社費用等調整前)に見ると、EC事業は流通額が同3.2%増の95億34百万円、売上高が同2.6%増の15億47百万円、営業利益が同39.4%増の2億33百万円、Paid事業は取引高が同27.7%増の104億94百万円、売上高が同29.8%増の2億69百万円、営業利益が16百万円の赤字(前年同期は37百万円の赤字)、売掛債権保証事業は保証残高が同38.0%増の64億71百万円、売上高が13.3%増の5億68百万円、営業利益が同2.9%増の73百万円だった。
売上面では新規出展企業の獲得などでスーパーデリバリー流通額が順調に拡大し、14年9月からのCOREC有料プラン課金スタートも寄与した。Paid事業の取引高や売掛債権保証事業の保証残高も順調に増加した。利益面では増収効果に加えて、スーパーデリバリー運営におけるコスト構造見直しが進展した。Paid事業の収益も加盟企業数と取引高の増加に伴って改善した。
売掛債権保証事業の人件費増加、営業外費用でのPaid事業の売掛債権流動化に伴う債権流動化費用の計上、特別損失での大阪支社移転に伴う移転費用計上などを吸収して大幅増益だった。
なお四半期別の推移を見ると、売上高は第1四半期(5月~7月)4億90百万円、第2四半期(8月~10月)5億06百万円、第3四半期(11月~1月)5億22百万円、第4四半期(2月~4月)5億38百万円で、営業利益は第1四半期57百万円、第2四半期93百万円、第3四半期1億04百万円、第4四半期82百万円だった。
今期(16年4月期)の連結業績予想は売上高が前期比10.4%増の22億70百万円で、営業利益が同23.5%増の4億15百万円、経常利益が同25.4%増の4億10百万円、純利益が同29.4%増の2億60百万円としている。配当予想は未定としている。
スーパーデリバリー流通額は拡大基調であり、海外取引サービス「SD export」を開始して一段の規模拡大に取り組む。スーパーデリバリー運営におけるコスト構造見直しも進める。CORECの収益寄与本格化、Paid事業と売掛債権保証事業の一段の収益改善も期待される。ストック型の収益構造であり、中期的にも収益拡大基調だろう。
■株価は06年以来の高値水準、中期成長力を評価
なお7月10日に株式分割を発表している。15年7月31日を基準日(効力発生日8月1日)として1株を3株に分割する。
株価の動き(株式3分割遡及修正後)を見ると、400円近辺のフシを突破して7月23日の599円まで上伸した。06年以来の高値水準だ。その後は目先的な過熱感を強めて利益確定売りが優勢の形だが、16年4月期の増収増益基調や株式3分割を好感する流れに変化はないだろう。
7月29日の終値520円を指標面(株式3分割後)で見ると、今期予想連結PER(会社予想に株式3分割を考慮した連結EPS15円24銭で算出)は34倍近辺、前期実績連結PBR(前期実績に株式3分割を考慮した連結BPS90円29銭で算出)は5.8倍近辺である。
日足チャートで見ると25日移動平均線、週足チャートで見ると13週移動平均線がサポートラインとなって強基調の形だ。16年4月期も増収増益基調であり、中期成長力を評価して上値を試す展開だろう。