アイリッジは調整一巡、デジタルマーケティング関連の成長が牽引

 アイリッジ<3917>(東証グロース)は、企業のOMO領域を支援するデジタル・フィジカルマーケティングソリューションをベースに、デジタル地域通貨プラットフォームなど新規事業領域も拡大し、リアルチャネル保有企業向けDXソリューションカンパニーへの進化を目指している。なお9月21日には東急建設と共同で建設DXサービス「工具ミッケ」の開発を発表している。23年3月期はデジタルマーケティング関連の成長が牽引して大幅営業増益(レンジ)予想としている。大型案件の増加に加えて、子会社フィノバレーのデジタル地域通貨プラットフォーム事業も寄与する見込みだ。積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。株価は反発力の鈍い展開だが、一方では大きく下押す動きも見られない。調整一巡して出直りを期待したい。

■OMOソリューションをベースに事業領域拡大

 企業のOMO(Online Merges with Offline)領域を支援するデジタル・フィジカルマーケティング(スマホをプラットフォームとするOMOソリューション提供、OMOアプリ企画・開発、OMOマーケティング支援)ソリューションをベースに、デジタル地域通貨プラットフォームなど新規事業領域も拡大し、リアルチャネル保有企業向けDXソリューションカンパニーへの進化を目指している。

 デジタルガレージ<4819>との資本業務提携を21年2月に解消し、デジタルガレージから株式80%取得したセールスプロモーションの連結子会社DGマーケティングデザイン(DGMD)については両社の株式保有を継続し、21年4月に社名をQoil(コイル)に変更した。

 22年3月期の売上高は、デジタルマーケティング領域中心の単体ベースが33億25百万円、リアルプロモーション領域中心の連結子会社Qoil他(連結数値から単体数値を減じて算出、連結修正含む)が20億98百万円だった。

 なおwithコロナ対応として、オフィスを約5割削減・再編し、出社勤務と在宅勤務を併用するハイブリッド型働き方に最適な環境と勤務体制「iRidge Hybrid Working Style」を構築した。さらに、事業拡大に向けた採用力強化と働きやすさ向上を目的として、22年4月から全社員を対象に、副業や地方移住などの多様な働き方を選べる新人事制度「Work Style for Next iRidge」の運用を開始した。

 22年8月には、NPO法人CLACKが主導する使用済みPC寄贈プロジェクト「Pass the Baton」の趣旨に賛同し、22年7月からPC寄贈企業として参画したと発表している。

■デジタル・フィジカルマーケティング領域はFANSHIPが主力

 デジタル・フィジカルマーケティング領域は、ファン育成プラットフォーム(顧客データ分析プラットフォーム)FANSHIPを主力としている。スマホ向け位置情報連動型popinfoを19年7月にブランドリニューアルした。さらにFANSHIPを活用し、LINEサービスに組み込んで使えるLINEミニアプリに対応するアプリ開発プラットフォーム「FANSHIP for ミニアプリ」も展開している。

 22年3月期第4四半期時点のFANSHIP導入アプリの合計MAU数(四半期平均)は21年3月期第4四半期比37.7%増の7389万ユーザーとなった。利用ユーザー数に応じた従量課金型月額報酬の積み上げによるストック収益である。FANSHIP導入アプリのMAU増加に伴って、22年3月期第4四半期のストック型収益は前年同期比19.0%増の4億90百万円、ストック売上の構成比は0.5ポイント上昇して33.6%となった。

 22年4月には、野村不動産のフラッグ商業施設「カメイドクロック」公式アプリ「カメクロアプリ」の開発を支援、東電タウンプランニングの自転車ロッカーサービス「B―Cocoon」専用アプリの開発を支援してFANSHIPが導入された。

 22年5月には、LINEが提供する法人向けサービスの販売・開発パートナーを認定する「LINE Biz Partner Program」の「Technology Partner」において「LINE ミニアプリ」部門の初回パートナーに認定された。

 22年6月には、コーナン商事のスマートフォンアプリ「コーナンアプリ」の開発を支援してFANSHIPが導入された。また京王百貨店の化粧品専用LINEミニアプリ「Keio BEAUTY」の新機能であるオンライン接客機能を開発支援した。

 22年8月には、22年11月から「LINEミニアプリを使ったかんたん販促パッケージ」の提供を開始すると発表した。自社でポイントシステムを導入することなく、単体でCRMやOne to Oneマーケティングが行えるLINEミニアプリの販促ツールである。

■DXソリューションカンパニーへの進化を目指す

 リアルチャネル保有企業向けDXソリューションカンパニーへの進化を目指し、デジタル・フィジカルマーケティング領域におけるFANSHIPを中心としたクラウド型プロダクトおよびソリューションの強化・拡充、顧客ニーズに合わせたプロフェッショナルサービスによるDX支援の強化を両輪として、新規事業の立ち上げ・収益化も推進している。

 中期的な目標値としては、26年3月期の売上高133億円+αを目指すとしている。利益面については、当面は採用費用や新規事業への先行投資費用の増加が見込まれるが、販管費を適切にコントロールして、営業利益は毎期着実な増益を目指すとしている。

 22年1月にはQoilが一般消費財メーカー等に向けて、LINE上でリピート購入とマーケティングDXを実現する「購入スタンプミニアプリforメーカー」の提供を開始した。デジタルスタンプカード機能で特典が受けられる仕組みを通じて長期的な顧客接点を形成し、LINEを通じたOne to Oneマーケティングによるファン育成(顧客定着化)を実現する。7月15日にはニチバンがキャンペーン用LINEミニアプリ開発に際して「購入スタンプミニアプリforメーカー」を採用したと発表している。

 また22年2月にはQoilが、脳波計測に基づく「足を止める」POP制作から店頭設置代行、店頭データに基づく効果検証までをワンストップで提供する「ニューロクリエイティブ&店頭最適化パック」の提供を開始した。

■デジタル地域通貨プラットフォームの展開を加速

 フィンテック領域(デジタル地域通貨)は子会社フィノバレーが、決済システムを中心としたデジタル地域通貨プラットフォームMoneyEasyを展開している。ファン育成プラットフォームFANSHIPと組み合わせて、マーケティング機能を融合した決済基盤構築も可能となる。地域経済活性化施策として自治体におけるデジタル地域通貨需要が高まっていることも背景に事業展開を加速している。

 システム提供実績として、17年の岐阜県飛騨・高山地域「さるぼぼコイン」を皮切りに、千葉県木更津市「アクアコイン」、長崎県南島原市「MINAコイン」、東京都世田谷区「せたがやPay」、岐阜県「ぎふ旅コイン」、長野県松本市「まつもとコイン」、熊本県人吉市「きじうまコイン」、大分県大分市「おおいたPay」などがある。

 なお岡山県真庭市では「公金キャッシュレス・市民ポイント調査研究業務」の優先交渉権を獲得(20年12月)している。21年6月には「大阪スマートシティパートナーズフォーラム」の第2期プロジェクトのインバウンド・観光再生に関するコーディネーター企業に選出された。21年11月には神戸市「大学発アーバンイノベーション神戸」選定事業として採択され、地域通貨アプリ実証実験「すいすいコイン」のプラットフォームとして採用された。水道筋商店街周辺の加盟店で2ヶ月間の実証実験を行う。

 また21年12月にはフィノバレーが、自治体向けの新たなデジタル通貨サービスの共同開発に向けて三菱電機と資本業務提携した。スマートシティ/スーパーシティ関連システムの構築を目指す。22年5月には、フィノバレーが慶応大学発スタートアップのLiquitous(リキタス)と業務提携した。自治体のDXや住民参加型まちづくりに向けて協業する。

 22年6月にはMoneyEasyが、7月22日運用開始予定の福島県磐梯町の県内初の地域デジタル通貨「ばんだいコイン」のプラットフォームに採用されたと発表している。22年度は実証事業としての導入だが、23年度以降の継続的な運用を目指すとしている。

■新規事業領域も育成

 新規事業領域の育成も強化している。18年9月には、AIスピーカーAlexaスキル開発運用クラウドNOIDの提供を開始した。プログラミング不要で簡単にスマートスピーカーアプリが作れるクラウドサービスである。22年5月にはNOIDを活用して森永乳業の育児相談などAlexaスキル7種を開発支援、22年7月には大塚製薬のAlexaスキル「ウル・オスお試し」を開発支援した。

 20年11月にはソフトバンクとトヨタ自動車の共同出資会社MONETが設立したMONETコンソーシアムに参画した。MaaS事業への取り組みを強化する。また欧州系最大の戦略コンサルティングファームの日本法人ローランド・ベルガーの価値共創ネットワーク(VCN)に参画した。

 21年2月には、小売業界向けSaaS型オンラインプラットフォームを提供するFlow Solutionsと資本業務提携した。またオンライン・モンスターと提携し、接客・相談・学習指導など対面サービスを提供する企業向けに、対面サービスのオンライン化を実現するビデオ通話機能付マッチングプラットフォームの提供を開始した。さらに、メディカルネット(20年5月に歯科向けオンライン診療サービスの共同開発で業務提携)と共同で、マッチングプラットフォームを利用したオンライン歯科相談サロン「デンタルオンラインサロン」と、業界初の歯科用口腔内カメラを活用した歯科向けオンライン診察サービス「デンタルオンライン」の提供を開始した。

 21年5月には、DXプロジェクトに必要な人材調達・稼働管理などの業務効率を改善し、外部企業とのコラボレーションを促進する開発リソース最適化支援プラットフォーム「Co―Assign」の提供開始を発表した。プロジェクト成功の確度を高める体制づくりを支援するクラウドサービスとして、24年度中の500社導入を目指すとしている。22年5月にはペタビット(神戸市)が「Co―Assign」を導入した。さらに22年7月にはフラー(新潟市)が「Co―Assign」を導入したと発表している。

 21年8月にはワイヤ・アンド・ワイヤレス、データセクション、Flow Solutionsおよび子会社Qoilと、リテールDXプラットフォームの共同展開に関して業務提携した。小売企業のDXを支援する。

 21年12月にはFlow Solutions、三菱商事UBSリアルティ(現KJRマネジメント)と、21年11月にオープンしたサステナブル&OMO体験ポップアップストア「mozo SUSTAINABLE PARK」の実証実験プロジェクトに参画した。

 9月21日には東急建設<1720>と共同で、RFID(無線自動識別)タグとスマートフォンアプリを活用した建設DXサービス「工具ミッケ」を開発し、10月1日から販売開始すると発表した。工事現場で使う工具の照合作業を自動化し、管理業務の縮減と生産性向上を実現するDXサービスである。鉄道工事現場を中心に22年度中の20ヶ所程度展開を目指すとしている。

■23年3月期大幅営業増益(レンジ)予想

 23年3月期の連結業績予想(リアルプロモーション領域へのコロナ禍の影響の不透明感を考慮して、売上高と営業利益はレンジ予想、経常利益と親会社株主帰属当期純利益は黒字計上を見込んでいるが非開示)は、売上高が63億円~68億円(22年3月期比16.2%増~25.4%増)で、営業利益が3億75百万円~4億75百万円(同9.6%増~38.8%増)としている。人材採用や新規事業などの先行投資を継続するが、デジタルマーケティング領域の成長が牽引して大幅増収営業増益(レンジ)予想としている。

 第1四半期は売上高が前年同期比9.5%減の10億27百万円、営業利益が45百万円の赤字(前年同期は3百万円の黒字)、経常利益が43百万円の赤字(同0百万円の黒字)、親会社株主帰属四半期純利益が36百万円の赤字(同9百万円の赤字)だった。大型案件の増加で仕掛中案件が増加し、新規事業領域への先行投資の影響などで赤字だった。ただし概ね計画水準だったとしている。

 デジタルマーケティング領域中心の単体ベース売上高は3.4%増の7億30百万円だった。アプリ開発やアプリマーケティング関連が好調に推移した。FANSHIP導入アプリのMAU(FANSHIP導入アプリを月に1回以上起動しているユーザー数、四半期平均)は35.4%増の7834万ユーザーとなった。大型アプリの新規リリースに加えて、既存アプリの利用ユーザー数増加も寄与した。

 リアルプロモーション領域中心の連結子会社Qoil他の売上高(連結数値から単体数値を減じて算出、連結修正含む)は30.8%減の2億97百万円だった。コロナ禍の影響が継続して大幅減収だが概ね計画水準だった。

 なおストック型収益は13.7%増の4億57百万円(月額報酬・ライセンス等が34.7%増の3億22百万円、3ヶ月以上の準委任契約が17.7%減の1億35百万円)となり、ストック収益の売上構成比は9.0ポイント上昇して44.5%となった。FANSHIP導入アプリのMAU増加に伴ってストック型収益が拡大基調である。

 通期予想は据え置いている。大型案件の増加で下期偏重の計画であり、下期は子会社フィノバレーのデジタル地域通貨プラットフォーム事業も想定以上に寄与する見込みとしている。積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。

■株価は調整一巡

 株価は反発力の鈍い展開だが、一方では大きく下押す動きも見られない。調整一巡して出直りを期待したい。9月26日の終値は694円、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS471円41銭で算出)は約1.5倍、そして時価総額は約49億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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