- Home
- アナリスト水田雅展の銘柄分析
- トーセは下値切り上げ、23年8月期大幅増益予想
トーセは下値切り上げ、23年8月期大幅増益予想
- 2022/10/31 10:38
- アナリスト水田雅展の銘柄分析
トーセ<4728>(東証スタンダード)は家庭用ゲームソフト開発・制作請負の専業最大手である。成長戦略として開発体制の充実・強化、成長性の高い事業と様々なIPを活用した事業への取り組みなどを推進し、メタバース関連にも進出する方針としている。22年8月期はモバイルコンテンツ関連における運営売上減少などで全体としても減収だったが、複数の家庭用ゲームソフトの大型開発案件の進捗、前期発生した大規模改修費用の縮小、開発の効率化、新型コロナウイルス感染症に関する従業員への特別手当の減少などで大幅増益だった。そして23年8月期も家庭用ゲームソフト関連が牽引して大幅増益予想としている。積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。株価は地合い悪化も影響して上値の重い形だが、一方では下値を着実に切り上げている。好業績を評価して上値を試す展開を期待したい。
■家庭用ゲームソフト開発・制作請負の専業最大手
家庭用ゲームソフト開発・制作請負の専業最大手で、デジタルエンタテインメント事業(ゲームソフト関連、モバイルコンテンツ関連、パチンコ・パチスロ関連などデジタルコンテンツの企画・開発・運営の受託)、その他事業(SI事業、ゲーム以外のコンテンツ事業、新規事業の創出)を展開している。
22年8月期の売上高(顧客との契約から生じる収益)はデジタルエンタテインメント事業が52億97百万円(内訳はゲームソフト関連が33億41百万円、モバイルコンテンツ関連が19億44百万円、パチンコ・パチスロ関連が12百万円)、その他事業が3億64百万円、セグメント利益(営業利益)はデジタルエンタテインメント事業が3億87百万円、その他事業が82百万円だった。主力のゲームソフト関連は家庭用ゲームソフトの大型案件が増加傾向である。パチンコ・パチスロ関連は戦略的にゲームソフト関連に開発人員をシフトしているため減少傾向である。
収益は、開発業務の進行に合わせて受け取る開発売上、コンテンツ配信後の運営に伴う運営売上、コンテンツ販売数量に基づくロイヤリティ売上である。複雑化・多様化するゲーム市場において、豊富なパイプライン展開を可能とする多彩な技術ポートフォリオ、長年の実績とノウハウに基づく信用力、開発売上とストック型の運営売上を持つ安定的なビジネスモデルを特徴としている。
バンダイナムコスタジオと共同開発(21年6月発売)した家庭用ゲームソフトの「SCARLET NEXUS」については、21年11月にThe Game Awards 2021のBest Role Playing部門にノミネートされた。22年4月には世界累計出荷・ダウンロード販売本数が100万本、累計プレイヤー人数が200万人を突破した。さらに22年6月には国際ゲーム開発者協会(IGDA)主催のGlobal Industry Game Awardsの作曲部門にノミネートされた。
最近の開発実績としてはスクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジー ピクセルリマスター シリーズ」や、ブシロードのスマホアプリ「虹ケ咲学園スクールアイドル同好会 TOKIMEKI RunRuns」などがある。また22年7月には、スクウェア・エニックスが22年12月9日に発売を予定しているNintendo Switch向けゲームソフト「ドラゴンクエスト トレジャーズ 蒼き瞳と大空の羅針盤」を開発中とリリースしている。
■開発体制強化や成長性の高い事業への取り組み強化
成長戦略として大規模・高度化する開発に対応した開発体制の充実・強化、成長性の高い事業と様々なIPを活用した事業への取り組みを推進し、人事・教育・採用の改革も継続している。
大規模・高度化する開発に対応した開発体制の充実・強化では、各スタジオが獲得した開発技術やノウハウの全社展開、プロジェクト運営の品質向上、データ分析チームの強化を推進する。なお普及拡大が見込まれるVRプラットフォーム向けゲームソフトの開発については、22年8月期に西大路第2スタジオと長岡スタジオを融合して体制強化した。
成長性の高い事業と様々なIPを活用した事業への取り組みでは、ゲーム開発とビジネス系SIの技術の連携を強化し、メタバース関連やNFT関連など、デジタル社会に対応した新規事業やゲームに限らないエンタテインメント事業に挑戦する。
22年4月には、京都市、ANA NEO、およびANAホールディングス<9202>と、メタバース事業等に係る連携協定を締結した。4者で公民連携して京都市のメタバース関連の事業開発を推進する。
人事・教育・採用の改革では職場環境整備や人材教育など積極的な人材投資を継続して実行する。なお、これまでに実施した報酬制度と評価制度の改善の成果として、19年8月期まで10%を超えていた離職率が、22年8月期には5.6%まで低下している。また22年9月には自社開発の業務システムが稼働し、DX化によるバックオフィス業務の効率化も推進している。
なお社会貢献活動として「京のこどもを守るプロジェクト」に協賛している。こどもたちの命を守りたいと願う企業・団体が一体となり、京都のこどもの交通事故防止を目的に生まれたプロジェクトである。また21年1月には令和2年度京都市輝く地域企業表彰「地域企業輝き賞」および「地域企業輝き特別賞」を受賞している。SDGs関連への取り組みとしては、22年9月にWebサイト内の「CSR/ESG」ページの名称を「サステナビリティ」ページに変更してコンテンツを刷新した。
■22年8月期は大幅増益で着地、23年8月期も大幅増益予想
22年8月期の連結業績(収益認識会計基準適用だが損益への影響なし)は、売上高が21年8月期比5.0%減の56億62百万円、営業利益が76.2%増の4億69百万円、経常利益が77.7%増の5億05百万円、親会社株主帰属当期純利益が109.2%増の3億10百万円だった。配当は21年8月期と同額の25円(第2四半期末12円50銭、期末12円50銭)とした。
売上面では、モバイルコンテンツ関連における運営売上の減少(21年8月期中に2タイトルが運営終了)に加えて、顧客都合による開発中止案件(スマートフォン向けゲーム案件)の発生も影響して減収だったが、利益面では、複数の家庭用ゲームソフトの大型開発案件の進捗、前期に発生した大規模改修費用の縮小、開発効率化による工数圧縮、新型コロナウイルス感染症に関する従業員への特別手当の減少などで大幅増益だった。なお営業外収益では為替差益28百万円を計上、特別利益では有価証券売却益19百万円を計上、特別損失では前期計上の投資有価証券評価損25百万円が剥落した。
デジタルエンタテインメント事業は、売上高が3.3%減の52億97百万円、営業利益が73.3%増の3億87百万円だった。売上高の内訳は、ゲームソフト関連が複数の家庭用ゲームソフト大型開発案件の進捗や既存案件における追加の要望などで4.6%増の33億41百万円、モバイルコンテンツ関連が運営売上の減少や顧客都合による開発中止案件の発生などで9.9%減の19億44百万円、パチンコ・パチスロ関連がゲームソフト関連への開発人員シフトで90.3%減の12百万円だった。
その他事業は、売上高が24.2%減の3億64百万円、営業利益が91.1%増の82百万円だった。SI事業が自社の業務システム開発にシフトしているため減収だが、家庭用カラオケ楽曲配信事業のロイヤリティ売上増加により大幅増益だった。
四半期別に見ると、第1四半期は売上高が13億70百万円で営業利益が1億20百万円、第2四半期は売上高が12億68百万円で営業利益が24百万円、第3四半期は売上高が13億67百万円で営業利益が1億20百万円、第4四半期は売上高が16億57百万円で営業利益が2億05百万円だった。
23年8月期の連結業績予想は売上高が22年8月期比10.5%増の62億56百万円、営業利益が23.6%増の5億80百万円、経常利益が18.6%増の6億円、親会社株主帰属当期純利益が13.6%増の3億52百万円としている。配当予想は22年8月期と同額の25円(第2四半期末12円50銭、期末12円50銭)としている。予想配当性向は53.8%となる。
デジタルエンタテインメント事業の計画は、売上高が9.7%増の58億09百万円(ゲームソフト関連が22.1%増の40億78百万円、モバイルコンテンツ関連が11.0%減の17億31百万円)で、セグメント利益(営業利益)が19.8%増の4億63百万円としている。売上面では、モバイルコンテンツ関連はスマホゲーム市場の飽和状態が顕著なため減少を見込むが、ゲームソフト関連は大型案件も寄与して大幅伸長を見込んでいる。パチンコ・パチスロ関連は開発人員をゲームソフト関連にシフトしているため売上を見込んでいない。利益面では増収効果に加えて、取引価格の適正化、開発およびバックオフィスの業務効率化、前々期および前期に発生したスマートフォンゲーム大規模改修作業コストの反動減も寄与する見込みだ。
その他事業の計画は、売上高が22.4%増の4億46百万円で利益が41.9%増の1億16百万円としている。売上面では、家庭用カラオケ楽曲配信事業は巣ごもり消費を背景とする拡大が落ち着くとして減収を見込むが、SI事業の取引拡大を見込んでいる。利益面では開発売上の増収効果や利益体質改善への取り組み効果を見込んでいる。
23年8月期も家庭用ゲームソフト関連が牽引し、システム投資や人財投資の費用増加を吸収して大幅増益予想としている。重点施策として先進的でより高度な開発技術の獲得を目指し、ハイエンド技術を要する案件や新規性のある案件を戦略的に優先して取り組む方針だ。そのような案件以外については、適正価格での受注の強化や開発工程の効率化などにより利益率の向上を推進し、さらに従業員の人事評価向上や賃上げによってスキルアップへのモチベーション向上という好循環につなげる方針としている。積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。
■株価は下値切り上げ
株価は地合い悪化も影響して上値の重い形だが、一方では下値を着実に切り上げている。好業績を評価して上値を試す展開を期待したい。10月28日の終値は789円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS46円48銭で算出)は約17倍、今期予想配当利回り(会社予想の25円で算出)は約3.2%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS811円12銭で算出)は約1.0倍、そして時価総額は約61億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)