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【小倉正男の経済コラム】中国「ゼロコロナ緩和」 輸出・輸入が大幅縮小の異常
- 2022/12/15 08:28
- 小倉正男の経済コラム
■「ゼロコロナ緩和」への豹変
中国は、頑固なまでゼロコロナを進めてきたが「ゼロコロナ緩和」に豹変した。突然、手のひらを返したわけだが、大義名分は「オミクロンの病原性低下」(孫春蘭副首相)というのみである。
孫副首相は、衛生部門との座談会でゼロコロナ緩和を語ったというのだが、何ともなしくずしで政策変更となっている。
「習近平下台(辞めろ)」「共産党下台」――国民の不満、不安による反乱の連鎖で習近平国家主席の政策が事実上変更されたということもできる。これはかなり画期的な出来事といえる。
ただ、頑迷なゼロコロナから急転直下の手のひら返しで、感染者、死者などが急増するといった可能性がないとはいえない。現実に主要都市で感染者が増大し、人手不足から経済混乱が発生している。先行きは何ともいえない。
■輸出8.7%減、輸入10.6%減という大幅縮小
中国経済の異変は深まっている。11月の生産者物価はマイナス1.3%(前年比)に低迷している。10月にマイナス1.3%となったが2カ月連続で生産者物価が極端な低迷をみせている。不動産バブルの崩壊にゼロコロナによる経済停滞が追い打ちをかけている。
生産者物価の2カ月連続のマイナス転落は、企業サイドの経済・生産活動が極端に冷え込んでいることを示している。世界が極度のインフレになっているなかで、中国はデフレに陥っている。11月の消費者物価は1.6%(前年比)、生産者物価のマイナスを少し反映しているのか、10月の2.1%より続落している。
驚くべきは貿易、輸出入の凄まじい大幅縮小である。10月はそれでも輸出0.3%減(2984億ドル)、輸入0.7%減(2132億ドル)と前年同月比で何とか微減傾向にとどまっていた。11月は輸出8.7%減(2961億ドル)、輸入10.6%減(2263億ドル)とまるで底が抜けたような状態になっている。
10月~11月は、中国の輸出が大幅に増加するのが例年のことである。米国、欧州などクリスマス需要向けに商品が送り出される時期なのだが、急減少が顕著になっている。輸入は、不動産不況にゼロコロナによる経済停止が重なって二桁台の大幅減少に陥っている。
■このまま低迷して沈み込むのか、持ち直すのか
内需に加えて貿易(輸出)が急低下。少し大げさにいえば、中国経済のふたつのエンジンが止まっている。エアラインでいえば、両エンジンがトラブルを起こし、たまらず酸素マスクを垂らしているような状態である。
エマージェント対応、急転直下でとりあえずゼロコロナ緩和に舵を切るしかなかったのではないか。「オミクロンの病原性低下」と孫副首相に取って付けたような理由を語らせている。だが、咄嗟の応急処置でしかないようにみえる。
ゼロコロナを継続すれば、経済は停止し国民の不満、不安が高まる。しかし、ゼロコロナ緩和で悪い結果が出れば、それはそれで経済の混乱・停滞は避けられない。つまり、その結果次第で先行きに再びゼロコロナに戻る可能性も残されている。ゼロコロナ緩和に事実上転換したといわれるが、曖昧な決着でしかない。
中国経済がこのまま低迷期に入っていくのか、新年後半あたりに回復をみせるのか。中国経済が低迷期に陥るとしたら、“米国に追付き追い越す”という「中国の夢」(習近平主席)、すなわち中国の覇権主義の脅威は実体として大きく後退する。しかし、中国の需要に依存してきている日本の製造業などにとっては痛みを伴う事態になる。中国も多難だが、日本にとっても多難な新年になることは間違いない。(経済ジャーナリスト)
(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)