【小倉正男の経済コラム】世界経済 不透明感が強く日本も波乱要因

■米国はインフレが沈静化の兆し

 米国のインフレ動向だが、ようやく何とか沈静化の兆しをみせている。2022年12月の消費者物価指数は6.5%増(前年同月比)。6.5%アップの消費者物価で沈静化の兆しというのは、少し違和感があるかもしれない。

 ただ、消費者物価が6%台の伸び率に落ち着いたのは2021年11月(6.8%増)以来のことだ。21年12月~22年11月の消費者物価は、7~9%台の増加という凄まじいインフレで推移してきている。そうした経過もあって、利上げ減速といった観測が強まっている。

 原油などエネルギー価格が一服傾向をみせているが依然として高止まりをみせている。家賃などの高騰が止まらない。人手不足から賃金上昇が続いているが、12月はやや賃金上昇に緩和の動きが伴っている。賃金上昇は基本的にモノ、サービスに価格転嫁されている。

 大幅かつ連続利上げで、確かにインフレのピークは越えたという趨勢になっている。だが、インフレ収束の兆しが出ているとはいえ、それでも克服したという状況とはいえない。金融引き締めが徐々に緩和される方向にあるとしても、まだ経過観察の領域を脱していない。

■中国はゼロコロナ大転換したがデフレ化進行

 そんななか中国経済の変調が深まっている。とりわけ貿易(輸出・輸入)の急激な減少が顕著になっている。

 22年10月に輸出0.3%減(2984億ドル)、輸入0.7%減(2132億ドル)と前年同月比で微減傾向に転じたところから変調に転じている。11月には輸出8.7%減(2961億ドル)、輸入10.6%減(2263億ドル)とまるで底が抜けたような状態に陥った。12月には変調が定着し、輸出が9.9%減(3060億ドル)、輸入は7.5%減(2280億ドル)と続落している。

 12月前半に「ゼロコロナ」が突如終了となり、まるで正反対な「フルコロナ」に政策が大転換。変われば変わるもので、「コロナは恐ろしい病」から「コロナは一種の風邪」に大幅格下げされている。いわば集団免疫への大転換で、むしろコロナに感染していないほうが「少数派」「悪者」扱いに変化した。新型コロナ感染は大都市中心に一気に大爆発、変異株発生などが懸念されている。経済の混乱にはまだ歯止めがかかっていない。

 貿易の大幅縮小に加えて内需も低迷している。12月の生産者物価は前年同月比でマイナス0.7%。10月マイナス1.3%、11月マイナス1.3%と3カ月連続で生産者物価がマイナスとなっている。控えめにいっても中国経済はデフレ化が止まっていない。

■賃上げ、増税、利上げの持続可能性

 新年、あるいは新年前半に時期を限定しても、世界経済に明るい材料はなかなか見当たらない。こうした場合は、「新年後半には回復」という見通しが常套句になる。だが、中国のデフレ化など思いもよらぬことが現実に起こっているわけで、不透明感が強い。

 日本の場合は、政府が「インフレを上回る賃上げ」を大企業に要請している。政府が大企業に賃上げを要求するなど市場経済ではあり得ない。加えて防衛費の大幅増額を法人税増税などで賄うとしている。政府も政府だが、大企業は賃上げに加えて法人税増税にも大人しく従うのだろうか。持続可能な政策にはみえない。

 「インフレを上回る賃上げ」、大企業など例えば有名アパレル企業など店舗で接客している従業員のうち正規社員の比率はどのぐらいか。おそらく正規社員は10人に1人程度といわれる。「インフレを上回る賃上げ」といっても非正規社員には波及は及ばない。これではインフレに負けない賃上げと謳われても、上面だけで中身が希薄であり経済効果はない。

 法人税増税なども苦し紛れとはいえ、日本から資本が逃げ出す、外から資本が入ってこないという弊害を生みかねない。金利動向についても、海外投機筋などの国債売り圧力からさらに利上げに追い込まれるという思惑が強まっている。これでは日本は「新しい資本主義」どころか失速局面を迎えかねない。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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