TACは下値固め完了、23年3月期大幅営業・経常増益予想

 TAC<4319>(東証スタンダード)は「資格の学校」の運営を主力としている。中期成長に向けて、教育事業では事業環境変化に対応した新サービスの提供、出版事業では新規事業領域への展開を推進している。1月17日には「TAC CBTおよびIBTシステム」によるテスト配信サービスの開始を発表している。23年3月期は大幅営業・経常増益予想としている。生活様式の多様化への対応、個人教育事業の早期回復、新たな事業領域への挑戦を中心とした施策に取り組む方針だ。積極的な事業展開で収益拡大を期待したい。株価は地合い悪化も影響して昨年来安値圏の小幅レンジでモミ合う形だが、大きく下押すことなく推移して下値固め完了感を強めている。指標面の割安感も評価して出直りを期待したい。なお2月6日に23年3月期第3四半期決算発表を予定している。

■「資格の学校」を運営

 財務・会計分野(簿記検定・公認会計士など)、経営・税務分野(税理士・中小企業診断士など)、金融・不動産分野(宅建・不動産鑑定士・FPなど)、法律分野(司法試験・司法書士など)、公務員・労務分野(社会保険労務士・国家総合職など)、その他分野(情報・国際、医療・福祉など)といった幅広い分野で「資格の学校」を運営する個人教育事業、法人研修事業、出版事業、人材事業(会計系、医療系)を展開し、成長戦略として新事業領域への展開も強化している。

 22年3月期のセグメント別構成比(調整前)は、売上高が個人教育事業53%、法人研修事業22%、出版事業22%、人材事業3%で、営業利益が個人教育事業▲68%、法人研修事業79%、出版事業70%、人材事業2%だった。

■教育事業は事業環境変化に対応して新サービス提供を推進

 22年3月期の教育事業受講者数は21年3月期比1.6%減の20万5211人(個人が1.5%減の11万8238人、法人が1.7%減の8万6973人)だった。

 教育事業の分野別売上高構成比は、財務・会計分野が21.1%、経営・税務分野が15.3%、金融・不動産分野が23.6%、法律分野が6.3%、公務員・労務分野が20.7%、情報・国際分野が7.7%、医療・福祉分野が1.3%、その他分野が4.0%だった。財務・会計分野、金融・不動産分野の構成比が上昇傾向となっている。

 コロナ禍による事業環境変化に対応し、オンライン学習環境の強化(WEB SCHOOLの機能拡充など)や、法人向け研修における多様な受講方法の整備、新たなサービスの提供、オンライン受講の増加に伴う直営校の床面積の適正化などに取り組んでいる。法人研修分野ではWEB会議システムを利用した研修が多くの企業で定着している。

 なおプロeスポーツチーム「忍ism Gaming」とスポンサー契約を締結して22年10月から活動開始した。引退者のセカンドキャリアについても、資格という側面から貢献したいとしている。

 22年11月には人生100年時代に役立つ「実用講座」を開講した。当初は複業(副業、起業、兼業)や、知っておきたい知識シリーズ(株式投資、介護等)など6分野で開講し、順次拡大予定としている。

 1月17日には「TAC CBT(Computer Based Testing=コンピュータ試験)およびIBT(Internet Based Testing=インターネット試験)システム」によるテスト配信サービスの開始を発表している。21年3月より日本全国の主要都市に直営校舎を持つ強みを生かした「TACテストセンター」サービスを行っているが、さらにCBTおよびIBTシステムを用いた試験問題の配信や採点等を行う「TAC CBTおよびIBT配信」サービスを加えることで、これまで培ってきた試験の申込受付や運営管理等のノウハウをパッケージ化した総合的なサービスを提供する。

■出版事業は事業領域拡大

 出版事業はTAC出版と早稲田経営出版(W出版)が展開している。両社の合算売上高6億05百万円(2021年度丸善ジュンク堂調べで、TAC出版が5億20百万円、W出版が85百万円)は出版業界11位規模で、資格書籍を主力とする出版社としては有数の規模となっている。

 事業領域拡大に向けて、高等学校商業科で使用する文部科学省検定済教科書(高校1年生で履修する簿記およびビジネス基礎)分野に参入した。21年3月には、22年4月から使用される高等学校商業科教科書「簿記」および「ビジネス基礎」を刊行した。22年4月には高等学校商業科教科書「原価計算」および「財務会計Ⅰ」を刊行すると発表した。23年4月から全国の商業学校で使用される。さらに今後もラインナップ拡充を推進する方針だ。

■四半期業績に季節変動要因

 四半期業績は資格講座の本試験実施・合格発表の時期との関係などで季節変動の特徴がある。第2四半期(7~9月)と第3四半期(10~12月)の公認会計士・税理士講座は、翌年受験のための受講申込が集中する時期となるため、現金ベース売上高が突出して多くなるとともに、翌四半期に向かって前受け金として繰り越されることから、発生ベース売上高の増加が少なくなる傾向がある。

 また第4四半期(1~3月)から第1四半期(4~6月)にかけては、夏・秋の本試験時期に向けて全コースが出揃う時期にあたり、稼働率の上昇から前受金戻入額が増加することを通じて発生ベース売上高が増加する傾向にある。こうした売上の傾向に対して、売上原価や営業費用は毎月一定額計上されるため、四半期ごとの営業利益が変動しやすい。利益は期前半に集中し、下期は赤字となる収益特性がある。

■23年3月期大幅営業・経常増益予想

 23年3月期の連結業績予想は売上高(前受金調整後の発生ベース売上高)が22年3月期比0.1%減の204億50百万円、営業利益が57.3%増の6億50百万円、経常利益が37.4%増の6億08百万円、そして親会社株主帰属当期純利益が10.1%減の4億円としている。配当予想は22年3月期と同額の6円(第2四半期末3円、期末3円)としている。

 第2四半期累計は、売上高が前年同期比3.5%減の107億62百万円、営業利益が15.2%減の9億41百万円、経常利益が19.9%減の9億25百万円、親会社株主帰属四半期純利益が20.7%減の6億14百万円だった。法人研修事業は堅調だったが、個人教育事業においてコロナ禍の影響が残り、出版事業における巣ごもり需要の減少も影響して減収減益だった。なお同社が重視している現金ベース売上高は5.2%減の104億19百万円だった。

 個人教育事業は現金ベース売上高が7.8%減の56億32百万円で、現金ベース営業利益が22百万円の赤字(前年同期は2億35百万円の黒字)だった。コロナ禍も影響して、学生を主な受講生とする講座(公認会計士講座など)の申し込み状況が低調だった。営業費用は3.8%減少したが減収影響をカバーできず赤字だった。

 法人研修事業は現金ベース売上高が2.7%増の23億67百万円で、現金ベース営業利益が0.9%増の6億18百万円だった。企業のDX推進と相俟って研修需要が堅調に推移し、WEB会議システムを利用したオンライン研修需要が定着したことも寄与した。営業費用は3.3%増加したが増収効果で吸収した。

 受講者数は個人受講者が4.9%減の7万4422人、法人受講者が3.8%減の5万1127人、合計が4.5%減の12万5549人だった。個人・法人合計の講座別には、情報処理講座が29.9%増、公務員講座が26.9%増、マンション管理士講座が6.9%増と増加した一方で、簿記検定講座が20.3%減、宅地建物取引士講座が13.4%減、FP講座が18.2%減と減少した。

 出版事業(TAC出版、W出版)は売上高が7.6%減の21億30百万円、営業利益が10.1%減の5億87百万円だった。巣ごもり需要が一巡して減収だった。営業費用は6.6%減少したが、減収影響をカバーできず減益だった。人材事業は売上高が4.4%増の3億15百万円で営業利益が11.9%増の82百万円だった。会計系人材紹介、医療系人材紹介が順調だった。

 なお四半期別に見ると、第1四半期は売上高が55億75百万円で営業利益が5億49百万円、第2四半期は売上高が51億87百万円で営業利益が3億92百万円だった。利益は期前半に集中し、下期は赤字となる収益特性がある。

 通期連結業績予想は据え置いている。親会社株主帰属当期純利益は特別利益が剥落して減益予想だが、生活様式の多様化への対応、個人教育事業の早期回復、新たな事業領域への挑戦を中心とした施策に取り組んで大幅営業・経常増益予想としている。第2四半期累計は減益だったが、通期ベースでは積極的な事業展開で収益拡大基調を期待したい。

■株価は下値切り上げ

 なお22年11月に自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)によって自己株式取得を実施(37万100株取得)した。この自己株式取得に際して、第2位株主だった増進会ホールディングスが37万100株を売却したため、増進会ホールディングス議決権保有比率が異動前の10.00%から異動後の8.17%に低下している。

 株価は地合い悪化も影響して昨年来安値圏の小幅レンジでモミ合う形だが、大きく下押すことなく推移して下値固め完了感を強めている。指標面の割安感も評価して出直りを期待したい。1月25日の終値は203円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS21円62銭で算出)は約9倍、今期予想配当利回り(会社予想の6円で算出)は約3.0%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS333円22銭で算出)は約0.6倍、そして時価総額は約38億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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