アステナホールディングスは下値固め完了、23年11月期減益予想だが中期成長期待

 アステナホールディングス<8095>(東証プライム)はヘルスケア・ファインケミカル企業集団として、医薬品・医薬品原料・表面処理薬品を主力とする専門商社からメーカーへと変貌している。そして成長に向けた基本戦略として、3つのサステナビリティ戦略(プラットフォーム戦略、ニッチトップ戦略、ソーシャルインパクト戦略)を推進している。23年11月期は原材料価格などの不透明感や先行投資を考慮して減益予想としているが、中期経営計画では25年11月期の目標値を大幅増収増益の計画としている。積極的な事業展開で中期成長を期待したい。株価は安値圏の小幅レンジでモミ合う展開だが下値固め完了感を強めている。23年11月期減益予想に対するネガティブ反応は限定的だった。高配当利回りや低PBRも再評価して出直りを期待したい。

■ヘルスケア・ファインケミカル企業集団

 旧イワキが21年6月1日付で持株会社体制に移行して商号をアステナホールディングスに変更した。アステナは「明日(未来)+サステナブル(持続可能)」の造語である。ヘルスケア・ファインケミカル企業集団として、製造分野が利益柱となり、医薬品・医薬品原料・表面処理薬品を主力とする専門商社からメーカーへと変貌している。

 セグメント区分はファインケミカル事業(医薬品のCMC研究開発・製造受託、医薬品原料の製造販売など)、HBC・食品事業(化粧品原料の販売、食品原料・機能性食品の製造販売、一般用医薬品の卸売、化粧品の通信販売など)、医薬事業(医薬品・医療機器の製造販売など)、化学品事業(表面処理薬品の製造販売、プリント基板製造プラントの製造販売など)、その他(地方創生関連事業など)としている。

 22年11月期(収益認識会計基準適用)のセグメント別売上高(外部顧客への売上高)の構成比はファインケミカル事業が29%、HBC・食品事業が28%、医薬事業が24%、化学品事業が19%、その他が0%だった。営業利益の構成比はファインケミカル事業が30%、HBC・食品事業が17%、医薬事業が48%、化学品事業が▲19%、その他が▲5%、そして調整額が29%だった。

■新しい戦略的ビジネスモデルを構築

 4つの新しい戦略的ビジネスモデル(調達プラットフォーム事業、インキュベーション事業、注射剤CDMO事業、塗り薬CDM事業)を構築している。

 ファインケミカル事業は、20年3月に子会社化した医薬品CMC研究開発・製造受託のスペラファーマと、スペラファーマの子会社として20年7月に設立したスペラネクサスを中心に展開している。さらに岩城製薬のファインケミカル事業をスペラネクサスに承継し、医薬品原薬のCMC研究開発から製造受託・販売まで一貫体制を構築した。20年6月にはスペラファーマが創薬ベンチャーのジェイファーマに出資した。21年4月にはスペラファーマがペプチド合成技術を保有するJITSUBOを子会社化した。

 21年3月には岩城製薬が、オンコリスバイオファーマ<4588>の新型コロナウイルス感染症治療薬OBP―2011の臨床試験開始に必要な治験薬原薬の製造法開発とGMP製造を受託(スペラネクサスに承継)することで基本合意し、21年7月にはスペラファーマがオンコロスバイオファーマからOBP―2011の治験薬製剤のGMP製造を受託することで基本合意した。

 22年2月にはスペラファーマがインタープロテインと、アンメット・メディカル・ニーズの高い様々な疾患に対する新規低分子およびペプチド医薬品の研究開発、製造ならびに商業化を目的とした包括的協業に関する覚書を締結した。22年11月にはジェイファーマが実施する第三者割当による新株予約権を引き受けた。

 HBC・食品事業はイワキ(イワキ分割準備会社が21年6月商号変更)とアプロスを中心に展開している。20年12月には健康食品・化粧品販売のマルマンH&Bを子会社化、21年7月にはイワキがスカイネットから薬事サポート事業、自社開発事業および輸入製販事業を譲り受け、21年9月にはイワキが住建情報センターのヘルスケア事業を譲り受けた。22年1月にはイワキが食品原料調達WEBプラットフォーム「シェアシマ」を運営するICS―netに資本参加した。

 22年11月には、不採算が続いていたイワキの一般医薬品を中心とする卸売分野から撤退すると発表した。23年11月期以降の連結業績に与える影響は軽微の見込みとしている。また22年12月にはイワキが、海外製化粧品輸入販売などを展開するアインズラボの全株式を取得して完全子会社化した。

 医薬事業は岩城製薬と20年7月に鳥居薬品佐倉工場を継承した岩城製薬佐倉工場を中心に展開している。20年1月には医療用後発医薬品・一般用医薬品開発の前田薬品工業に出資、21年1月には岩城製薬が新しいコンセプトの抗ウイルス薬開発に取り組んでいるキノファーマと業務提携、21年4月にはインタープロテインとCOVID―19治療薬の共同研究契約を締結した。22年4月には岩城製薬がヤンセンファーマから「ニゾラールローション2%」の日本における製造販売承認を承継・販売移管した。岩城製薬にとって初の長期収載品の扱いとなる。

 22年7月には、スキンケアブランド「ナビジョン/ナビジョンDR」について、資生堂ジャパンが保有していたブランドホルダー機能を岩城製薬に移管することで合意した。ブランド価値向上に向けて役割分担を見直し、資生堂ジャパンが行ってきた研究開発・商品開発機能およびマーケティング機能を岩城製薬が担い、資生堂ジャパンは現行品の製造を担う。22年8月には、岩城製薬がキノファーマと尋常性疣贅を適応症とした共同開発・商業化契約を締結し、22年10月にはキノファーマの第三者割当増資を引き受けて資本出資した。

 化学品事業はメルテックス、東京化工機、および海外子会社等を中心に展開している。

■SDGsへの取り組み推進

 持株会社体制への移行に伴い、グループ全体のBCP(事業継続計画)対策および従業員の働き方・生き方の選択肢多様化を目的として、21年6月に本社機能の一部を石川県珠洲市に移転した。さらに、石川県珠洲市が地方創生に向けた人材育成事業の一環として行っている能登SDGsラボと協業し、30年までにSDGsの達成と社会変革の実現を目的とする売上100億円規模の新規事業を推進する。

 21年6月には新規事業のインキュベーションを担う専任部署として新規事業推進室を設置した。SDGs推進に向けて、化粧品原料・製品(グループ会社JITSUBOのペプチド合成法Molecular Hivingによる高品質で環境に優しく、コスト優位性のある化粧品原料・製品)事業、地方創生に繋がるハイブリッド型ふるさと納税プラットフォーム事業、健康食品原料事業(国産の安心・安全な健康食品原料・製品の第6次産業化を目的として、石川県珠洲市で健康食品の原料となる植物等の栽培を行う事業)などを推進する。

 21年7月には、奥能登地域のSDGS達成支援を目的とするファンド「奥能登SDGs投資事業有限責任組合(のとSDGsファンド)」に出資した。特定子会社となる。21年8月には、グループの業務サポートやファシリティーサービスを提供するアステナハートフル(21年6月設立)が、障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく特例子会社の認定を取得した。

 21年11月には能登地域のSDGs達成の支援を目的として、能登地域の自治体3市(七尾市、輪島市、珠洲市)・2町(穴水町、能都町)、および国立大学法人金沢大学、奥能登信用金庫、のと共栄信用金庫、北國フィナンシャルホールディングス、BPキャピタルと、SDGs推進に係る連携と協力に関する協定を締結した。21年12月には子会社のイワキ総合研究所の商号をアステナミネルヴァに変更した。新規事業推進室を移設し、事業内容も地方創生に関連する事業に変更した。

 22年7月にはアステナミネルヴァが、パープルテクノスの子会社で、石川県の地域ポータルメディアを展開するイシカワズカンの株式の一部を取得した。ヤマガタデザイン(山形県鶴岡市)と連携し、若者のU・Iターン地方移住を推進するウェブメディア「チイキズカン」プロジェクトを22年9月に立ち上げる予定だ。

 1月13日にはアステナミネルヴァが、のとSDGsファンドの投資先である有機米デザイン(東京都小金井市)の「アイガモロボ」(田んぼの雑草を抑制する自動ロボット)を使用した有機米事業を介すると発表した。またアステナミネルヴァが、森林資源を生かした自立・分散型の脱炭素社会の実現に向けて、石川県珠洲市で森林事業を開始すると発表した。

 さらに1月19日には、スタートアップ企業を支援するベンチャーファンド「TUAT1号投資事業有限責任組合」への出資を発表した。同ファンドの主たる投資先は農学分野(特に脱炭素に資する循環型畜産業、スマート農業、持続可能な食料生産)の研究成果を活用したスタートアップ企業を想定しており、アステナミネルヴァとのシナジーを見込んでいる。

■2030年に向けた中長期ビジョンとローリング形式の中期経営計画

 2030年に向けたグループ中長期ビジョン「Astena 2030 “Diversify for Tomorrow”」(21年1月公表)では、定量的ターゲットとして30年11月期の売上高1300億円以上、ROE13%以上を掲げている。セグメント別の30年11月期目標値は、ファインケミカル事業が売上高400億円で営業利益率9%、HBC・食品事業が売上高450億円で営業利益率3%、医薬事業が売上高228億円で営業利益率13%、化学品事業が売上高130億円で営業利益率10%としている。

 基本戦略としては、プラットフォーム戦略(CMC=医療用医薬品研究開発の国内トップレベルでの受託、ヘルスケア調達プラットフォーム=医薬品・化粧品・機能性食品製造会社の全ニーズをカバー、創薬インキュベーション=CMC提供を通じて新薬開発の成功確率を高める、CDMO=注射剤・外皮用剤・治験薬の受託製造)、ニッチトップ戦略(外皮用剤ジェネリック医薬品=国内塗り薬ジェネリック医薬品市場NO.1、ハイエンド表面処理薬品=エレクトロニクスに特化した表面処理薬品)、ソーシャルインパクト戦略(シニア・アクティベイト=化粧品・機能性食品の提供を通じてシニア総アクティブ化推進)を掲げている。

 ファインケミカル事業は、CMC・CDMO事業および調達プラットフォーム事業を2本柱として、原材料調達からCMC研究、原薬商用生産までの医薬品開発・製造の幅広いサービスを提供する。

 HBC・食品事業は、原料ビジネスのDX化による顧客の開発・調達プロセスの課題解決プラットフォームの提供、独自性を高めた商品・サービスの提供による市場価値増大を推進する。またダイレクトマーケティング領域への投資を実行して、領域特化型ネットワークを構築する。

 医薬事業は、皮膚科領域をベースとして外皮用剤品目数および生産キャパシティでトップ、グローバル要求水準に対応して高活性注射剤CDMOのトップを目指す。また外皮用剤、注射剤導入、新薬共同開発、M&A・アライアンスで事業基盤強化・拡大を目指す。

 化学品事業は、エレクトロニクス実装市場のトレンドを捉えたニッチトップ商品の継続的開発、ハイエンドパッケージ基板での地位確立、チップ部品用途の台湾・中国大手での採用、半導体パワー・センサー系薬品の差別化を推進する。またグローバル企業との共同開発も推進して成長を目指す。

 その他では既存事業との親和性、将来に亘る成長性、グループ全体への波及効果なども勘案して、SDGsの達成と社会変革の実現を目的とする売上100億円規模の新規事業を推進することを目標とする。

 また、資本効率向上に向けた拠点見直しの一環として、21年6月に名古屋オフィスおよび福岡オフィスの不動産を譲渡すると発表している。譲渡時期は未定だが、譲渡後も賃借で継続利用する。

 1月13日には23年11月期からの中期経営計画(ローリング形式)を公表し、25年11月期の目標値を売上高593億円、営業利益22億円、ROE5.6%としている。

 セグメント別の目標は、ファインケミカル事業の売上高が180.9億円(22年11月期は146.3億円)で営業利益が10.5億円(同2.4億円)、HBC・食品事業の売上高が141.4億円(同139.7億円)で営業利益が3.1億円(同1.4億円)、医薬事業の売上高が153.2億円(同117.5億円)で営業利益が1.1億円(同3.9億円)、化学品事業の売上高が114.0億円(同92.7億円)で営業利益が5.9億円(同1.5億円の赤字)としている。

■23年11月期減益予想だが中期成長期待

 22年11月期連結業績(収益認識会計基準適用のため前期比増減率は非記載、売上高が従来の方法と比較して減少しているが営業利益以下への影響は軽微)は、売上高が496億36百万円(収益認識会計基準適用前の21年11月期は723億22百万円)、営業利益が8億19百万円(同22億33百万円)、経常利益が8億87百万円(同24億20百万円)、親会社株主帰属当期純利益が5億79百万円(同17億36百万円)だった。配当は21年11月期と同額の18円(第2四半期末9円、期末9円)とした。

 原材料価格高騰なども影響して前回予想(22年7月13日付で利益を下方修正、売上高500億円、営業利益10億円、経常利益10億円、親会社株主帰属当期純利益11億円)を下回り、実質減益で着地した。特別利益には固定資産売却益6億95百万円、投資有価証券売却益2億61百万円、特別損失には投資有価証券評価損3億03百万円などを計上した。収益認識会計基準適用の影響額として、従来方法に比べて売上高が227億53百万円減少、売上原価が226億55百万円減少、営業利益、経常利益、税金等調整前当期純利益がそれぞれ28百万円減少している。

 ファインケミカル事業は売上高が146億30百万円(同229億33百万円)で営業利益(調整前)が2億48百万円(同13億86百万円)だった。売上面は旧基準ベースで増収だが、利益はセールスミックス影響などで大幅減益だった。医薬品原料分野は堅調だったが、医薬品CDMO分野が事業環境の変化などの影響で弱含みだった。

 HBC・食品事業は売上高が139億70百万円(同282億38百万円)で営業利益が1億41百万円(同3億43百万円の赤字)だった。売上面は旧基準ベースで小幅減収だが、利益面は不採算取引減少などで黒字転換した。化粧品通販分野の堅調推移、一般用医薬品を主体とする卸売分野における不採算取引の是正、韓国コスメ関連や自社ブランドのシートマスク「ピュレア」の好調、食品原料分野における大口顧客の獲得なども寄与した。

 医薬事業は売上高が117億54百万円(同124億52百万円)で営業利益が3億92百万円(同9億08百万円)だった。売上面は旧基準ベースで減収となり、利益面は契約変更影響などで減益だった。岩城製薬佐倉工場において、欧州からの輸入機器の納期が遅延し、注射設備の竣工が約2ヶ月延期となったことも影響した。国内初となる抗真菌薬ジェネリック新製品の発売に向けたマーケティング活動、キノファーマとの共同開発・商業化契約、美容医療ブランドホルダー機能移管に伴う自社新製品開発などは順調に進捗した。

 化学品事業は売上高が92億78百万円(同86億97百万円)で営業利益が1億56百万円の赤字(同3億83百万円の黒字)だった。売上面は旧基準・新基準ベースとも増収だが、利益面はセールスミックス影響や原料高騰影響などで大幅減益だった。表面処理設備分野は好調だったが、表面処理薬品分野は電子部品・半導体向けを中心に販売が低調だった。

 なお四半期別に見ると、第1四半期は売上高が122億85百万円で営業利益が6億30百万円、第2四半期は売上高が126億49百万円で営業利益が90百万円、第3四半期は売上高が119億94百万円で営業利益が2億94百万円の赤字、第4四半期は売上高が127億08百万円で営業利益が3億93百万円だった。第3四半期がボトムとなった可能性がありそうだ。

 23年11月期連結業績予想は、売上高が22年11月期比3.8%増の515億円、営業利益が12.2%減の7億20百万円、経常利益が53.8%減の4億10百万円、親会社株主帰属当期純利益が98.3%減の10百万円としている。配当予想は22年11月期と同額の18円(第2四半期末9円、期末9円)としている。

 原材料価格などの不透明感や先行投資を考慮して減益予想としている。ただし23年11月期からの中期経営計画(ローリング方式)では、25年11月期の目標値を大幅増収増益の計画(売上高593億円、営業利益22億円、ROE5.6%)としている。積極的な事業展開で中期成長を期待したい。

■株主優待制度は毎年11月末時点で1年以上保有株主対象

 株主優待制度は毎年11月末時点で100株(1単元)以上を継続して1年以上保有する株主を対象として実施している。グループ化粧品詰め合わせセットなどを贈呈(詳細は会社HP参照)する。

■株価は下値固め完了

 株価は反発力が鈍く安値圏の小幅レンジでモミ合う展開だが下値固め完了感を強めている。23年11月期減益予想に対するネガティブ反応は限定的だった。高配当利回りや低PBRも再評価して出直りを期待したい。1月30日の終値は416円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS25銭で算出)は約1664倍、今期予想配当利回り(会社予想の18円で算出)は約4.3%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS685円24銭で算出)は約0.6倍、そして時価総額は約170億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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