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【小倉正男の経済コラム】アップル「よいモノを高く」という頑固な信念
- 2023/2/7 11:50
- 小倉正男の経済コラム
■景気後退と無縁ではなかった
アップル、マイクロソフト、メタ(旧フェイスブック)などの2022年10~12月決算は揃って純利益で減益となった。新型コロナの影響に加えてウクライナ戦争、インフレ、利上げなどが影響したとみられる。これらの米国テクノロジー有力企業も景気後退と無縁な存在ではなかったということになる。
アップルの減益は、主力商品の「iPhone」の売り上げが落ち込んだことが主因となっている。「iPhone」の大半は、台湾などの製造委託企業によってそれらの中国工場でつくられている。ティム・クックCEOは、中国のゼロコロナ政策の直撃で「iPhone」生産が遅延し、マーケットへの供給に問題が出たことを強調している。需要面の問題ではなく、供給にネックがあったというわけである。
需要に問題があるとすれば、下手をすればアップルの経営・マーケテイングの失敗ということになる。しかし、供給の問題ならば、習近平主席のゼロコロナ政策による影響であり、一時的な頓挫という話になる。
ただし、ティム・クックCEOとしても、「iPhone」の供給不足は解消するが、必ずしも先行きを楽観視しているわけではない。いまは景気後退と需要の成熟化が重なっている。しかもアップルは米中対立の激化、加えてゼロコロナによるサプライチェーン混乱もあったわけで、製品製造の中国依存に修正が迫られている。
■バージョンアップごとに並んで買わせる人気商品
ところで「iPhone」だが、ある意味というか、凄い商品である。何しろバージョンアップということで新製品が発売される度ごとにアップルショップにお客が長蛇のように並んで買っていく。しかも、新しい「iPhone」を手に入れてお客は大喜びである。そんな商品は世界になかなか見当たらない。
「iPhone」の価格は高く設定されており、10万円は軽く超えている。高級機種はパソコンと同じような価格帯にある。「iPhone」は、スマホなら何でもよい、格安スマホで問題ないという、機種の差異にこだわらない顧客層はまったく相手にしていない。
「iPhone」は、そのブランド力、機能、操作性、使いやすさ、アプリの充実などに強みがあるといわれている。「iPhone」は、お客が所有することで誇れる、あるいは威張れるという顧客層を選んでいる。ユーザーに聞くと、「iPhone」を一度使うと他には移れないというのである。ユーザーの人気、信頼は一般に高い。
いわば、「よいモノを高く」の典型的な商品が「iPhone」といえる。しかし、アップルとしても「iPhone」のブランド、人気の維持は大変な仕事になる。ブランド力、魅力を更新して、決して陳腐化させないようにしなければならない。価格が高いわけだから、商品が陳腐化するなら即、持つことが誇れるという価値は消滅する。
■「よいモノを高く」という頑固な信念は維持できるか
1985年頃、シャープの東京支社(市ヶ谷)にアップル創業者であるスティーブ・ジョブズが突然訪れたというエピソードがある。当時の佐々木正支社長(後に副社長)は、「電卓博士」といわれた技術者で、カシオとの小型パーソナル化の「電卓戦争」を指揮してきた。電卓業界では知らない人がいないという人物である。
佐々木支社長は、Tシャツ、ジーンズ姿のスティーブ・ジョブズに応対。「これからはネットワークの時代になるから、ポータブルな通信機器が求められる」と話したといわれる。これが「iPod」(2001年発売)、「iPhone」(2007年発売)につながったというのだが、あくまで“伝説”というしかない。
アップルという会社は、「世界を変える」、いわばこれまで世界になかった商品を生み出してきている。その反面、アップルは販売不振で倒産寸前になったり、スティーブ・ジョブズにしても自ら招いたジョン・スカリーに会社を追われたり、さらに再び会社に戻ったりと半端ない浮き沈みをみせてきている。
「よいモノを高く」、「よいモノは高くても喜んで買っていく」、というのがアップルの頑固な経営哲学である。だが、「iPhone」も市場の成熟化から逃れられない。ティム・クックCEOが認めたくない「需要の問題」が否定しきれなくなる日が接近している。アップルは、「iPhone」に取って代わる次の新商品を送り出さなければ、「よいモノを高く」という頑固な信念は維持できない。だが、次の成長を担う新領域商品はいまのところ何もみえない。(経済ジャーナリスト)
(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)