注目されるIR発展の背景と経緯 |
IR(インベスター・リレーションズ:投資家向け広報)活動を強化する企業が増えています。IRというのは、企業が投資家に対して事業内容、業績、経営戦略、成長シナリオなどを説明し、株式の取得や長期保有など投資を促す活動のことです。
日本では80年代後半から、企業のIR活動が徐々に普及し始めました。しかし当時は、IRという呼び方がまだ一般的ではなく、証券会社のアナリストが調査・分析するために取材を申し込んでも、担当部署がないために電話をたらい回しにされることや、そうした取材を受けた経験がないという理由で断られることも少なくありませんでした。
90年代に入ると一部の企業が、金融機関との株式持ち合い解消に伴う受け皿作りや、低迷する株価対策などを目的として、アナリスト向けに業績説明会や工場見学会などを開催し始めました。ただしこの時期には、業績内容を説明するのは経理や総務の部長・課長クラスで、経営トップが説明会に出席することは稀でした。説明内容は単体決算が中心で、使用する説明資料も決算短信だけという説明会がほとんどでした。このため質疑応答も売上や利益の増減要因など、決算に関する細かい数値を確認することが中心でした。また、証券会社の大小や幹事証券かどうかによって、情報開示方法や説明内容に差をつける企業もありました。
その後90年代後半になると、企業のIR活動を支援する専門ビジネスも登場し、会社説明会や業績説明会を開催する企業が増加してきました。それに連れて説明資料は徐々に充実し、IR専任の部署や担当者も置かれ始め、経営トップが説明会に出席するようになりました。説明会を開催して中期経営計画を発表することがブームのようになり、それだけを材料視して株価が上昇することもありました。
00年代には企業のIR活動がほぼ一般的になり、四半期決算の開示、アナリスト向け業績説明会や事業戦略説明会の定期的開催、自社のホームページでの情報開示などが当たり前のように行なわれています。説明会では経営トップが直接説明し、業績関連の詳細説明は配布資料に記載され、説明内容や質疑応答は事業戦略、成長シナリオ、リスク分析などが中心となっています。自社のホームページで説明会の様子を動画配信している企業も少なくありません。
さらに海外の投資家への個別訪問、個人投資家向けの事業説明会や工場見学会など活動の幅が広がっています。素材や機械など個人投資家に馴染みの薄い業種の企業でも、企業のイメージアップを図ることや、幅広い投資家に関心を持ってもらうことを狙ってテレビCM、新聞の一面広告、合同IR説明会などに注力し始めています。
不十分な企業の情報開示意識と情報開示制度 |
ただし、IR活動に消極的な企業も少なくありません。説明会を開催するのは新規に上場したときだけ、業績が好調なときだけ、公募増資や社債発行など資金調達を予定しているときだけで、業績が悪化すると説明会の開催をやめてしまう企業や、アナリストの取材を受け付けなくなる企業もありました。また説明会では、バラ色の中期経営計画をアピールするだけで、数値目標の前提や根拠を説明できず、都合の悪い点を質問されると不機嫌になり、曖昧な回答に終始する経営者も少なくありませんでした。特に90年代後半のIR活動というのは、低迷する株価対策として、あるいは上場維持に必要な株主数の確保を目的に、企業が一方通行で自己アピールする場、話題作りや材料提供の場のような感がありました。
また新規に株式公開する企業が、公開前に実施するアナリスト向け説明会では、説明や質問の範囲、内容が目論見書記載事項に限定されるというルールを盾にして、事業内容の詳細、業績予想の根拠や進捗状況などを質問しても、主幹事証券会社が回答させないため、何のための説明会なのかという疑問がありました。アナリストレポートの発行や内容についても制限がありました。そもそも目論見書というは、新規公開企業に関する公開前の唯一の情報源ですが、その記載内容や表現方法は、個人投資家にとって決して優しいものではありません。
問われる情報開示のあり方 |
最近では、公開直後に業績予想を下方修正する企業が少なくないため、企業の情報開示姿勢に批判が高まっています。証券取引所は対策として上場審査を厳しくしているようですが、重要なのは予想の精度ではなく、情報開示のあり方です。投資家保護や自己責任の観点からも、本来は公開前だからこそ投資家に対して、業績予想の根拠や進捗状況などに関しても十分に情報開示するべきと考えられます。
新規公開企業に限らず、業績予想に関して十分な情報開示を行なわない企業は、まだまだ多いようです。事業環境の変化は速く、業績予想の難しさに関しては企業側にも言い分がありますが、投資家の自己責任というのは、適時適切かつ十分な情報開示の上に成り立つものです。不十分な情報開示を認めているかのような現在のルールでは、投資家に対して損失の部分だけ自己責任を押し付けることになりかねません。もちろん不正会計などは論外ですが、情報開示に関して投資家は抜本的な改善を求めています。
提供 日本インタビュ新聞 Media-IR 2008.06 |特集