2012年03月22日
イーブックイニシアティブジャパン:グラントウキョウノースタワーで決算説明会を開催
■基本的なビジネスモデルについて説明
イーブックイニシアティブジャパン<3658>(東マ)は15日、グラントウキョウノースタワーで12年1月期決算説明会を開催した。
代表取締役社長小出斉氏は、会社概要、沿革に引き続き、基本的なビジネスモデルについて語り始めた。
「まず、著者、出版社と交渉しまして、許諾を受けます。つまりライセンスを受けることになります。本単位で、第何巻まで出していいというような非常に緻密な交渉になります。これを経て当社で電子化作業を行って、販路に乗せます。販路には2つありまして、一つは電子書籍配信事業でありまして、当社名義で配信を行っています。もう一つの電子書籍提供事業は、他社名義で配信されていて、当社は電子データ、及び許諾を取ったという権利関係をご提供しているというビジネスになっています」とビジネスモデルを紹介した。
■作品数は全体で約56,000冊、そのうちマンガ約48,000冊と8割強
「当社で配信しているタイトルの一部を紹介させていただきます。男性マンガ、女性マンガ、総合図書の3つに分けていますが、全体の4分の3をマンガで紹介している通りに、当社の主力はマンガということになっています。マンガ以外ですと、小説、写真等があります。これらを販売するために、直販サイト『eBookJapan』を運営しています。サイトでは、マンガのプロモーションを中心に行っています。現在の利用状況は、作品数は全体で約56,000冊、その中で漫画は約48,000冊と8割強を占めています。登録会員数は約62万名でございます。我々の場合も無料でマンガをお読みいただける部分がございます。例えば、200ページの本であれば、最初の30ページは無料でお読みいただけます。その時は会員登録を必要としていません。しかし、残りのページを読むために、購入する場合には、会員登録していただきます。無料であっても会員登録が必要であるところでは、何千万人というサービスを誇っておられるところがございますが、当社の場合、購入された会員のみということで約62万人ですので、有料会員の比率は高いと思います。1人当たりの月間購入額は約5,000円となっていますが、62万人全部の会員の方が月間に購入した平均の金額ではなくて、その月に購入いただいた会員の方々の平均の金額ということです。ひと月当たり、大体3万人とか4万人の方がご購入されます。1冊当たり400円で販売していますので、1人当たり12、13冊お買い上げいただいていることになります。ユーザー層は30代以上の方が7割以上となっています」と販売状況について語った。
■"当社が今後も伸びる理由"を説明
引き続き、"当社が今後も伸びる理由"についての説明が行われた。
「当社が今後も伸びる理由は、大きく3点ございまして、まず電子書籍という市場自体が、これから非常に大きく伸びていくという点と、更に、その様な中で、電子書籍市場の大半を占めているマンガにおいて、競合他社を圧倒する品揃えを持っているという点、そして、サービスで付加価値を高めているという3点からなります。以下データを含めて、ご説明させていただきます。まず、市場が伸びるという1点目ですが、インプレスR&D社の電子書籍ビジネス調査報告書によりますと2010年度に650億円であった市場が、2015年度には2000億円と3倍以上に膨らんでいくと予測されています。これらは、スマートフォン・タブレット、フィーチャーフォン、パソコンと3つの市場から構成されていますが、当社の特徴として、これから右肩下がりとなっていくであろうフィーチャーフォンの市場では売上がほとんどゼロですので、我々は沈みゆくセグメントは持っていません。我々の売上は2011年度の売上で申しますと、大体半分ぐらいがパソコンで、残りの半分がスマートフォン・タブレットから成り立っています。安定的に収益を確保しつつ、大きく成長するチャンスがあると捉えています。2点目に関しては、市場をジャンル別に見ますと、2010年の650億円を超える売上の中の80%以上がマンガであります。その様に、マンガが圧倒的に強い世界において、我々がマンガのライセンスをたくさん持っている強みがあります。第4四半期の1月末でマンガは4万5000冊くらいですけれども、3月中旬で既に5万冊近くになっています。少なくとも1年間で1万冊くらい増やしたいと思っています。著者や出版社のご了解が得られれば、3万冊でも、10万冊でもやっていきたいと思っています。現状他社さんと比べますと、いわゆる小説などを含めたトータルの冊数では、5万冊前後になってきた競合他社さんも出てきていますが、ことマンガという市場の8割を占めているところで比較しますと、多い所で1万数千冊と見ていますので、我々とはいまだに3倍4倍の開きがあります」と電子書籍市場が今後急拡大する中で、大半を占めるマンガ市場で同社が優位に立っていることを詳しく説明した。
■サーバー上に専用の本棚を個人毎に用意するトランクルームサービスを提供
引き続きサービスに関して、「それから3点目のサービス面ですけれども、我々はトランクルームというサービスを提供しています。今風に言いますとクラウドサービスといってもよろしいかと思います。当社のウェブサーバー上に、お客様専用の本棚をお客様個人毎にご用意するというサービスでして、マンガを自由にお預けいただきます。こちらをご利用いただけますと3つのメリットを提供しています。まず、購入した電子書籍を安心して蔵書できます。お客様が電子書籍を使われるとき一番心配となるのが、紙の書籍と違い電子端末の中に入っているため、電子端末が壊れたり、盗まれたりしたとき、購入した書籍はどうなるのかと心配されるお客様が多数いらっしゃいます。その様なお客様のニーズに応えて、原本をこのトランクルームというところで管理していますので、たとえ端末が無くなっても、ご安心くださいと申し上げています。2点目が読みたい端末で読めるということでございます。今の時代ですので、パソコン、スマートフォン、タブレットと複数持っていらっしゃる方が多いかと思います。そのため、家ではパソコンで、出かけた際は、スマートフォンやタブレットでとTPOによって使い分けができます。3点目が、ハードディスクの空き容量が増えるということです。例えば、当社のコアのお客様ですと1,000冊以上お買い上げされていますが、1つの端末に入れて持ち歩きますと、どうしても端末の容量が重くなって、動きが鈍くなることになります。その様なことに対応して、大半の書籍はトランクルームに預け、20冊、30冊を持って歩くように推奨しています。この様なサービスを提供していることからお客様からの評価も高くなっています。ITメディアさんの利用したことのある電子書籍マーケット・プラットフォームの調査結果によりますと、当社は、全体の2位となっていますが、第1位の青空文庫というのは、著作権切れのみの書籍を扱っている無料サイトですので、いわゆる課金サイトの中では当社が第1位といえます」と今後も伸びる理由を説明した。
■モバイルの売上が急増し、前期第3四半期よりパソコンの売上を上回る
前12年1月期業績は、売上高21億76百万円(11年1月期比82.4%増)、営業利益3億9百万円(同224.7%増)、経常利益2億95百万円(同209.1%増)、純利益3億73百万円(同296.8%増)と大幅増収増益を達成した。
最終利益が経常利益を上回っていることについては、「当社では創業以来ずっと赤字経営を続けてまいりましたことから累積損失を持っておりました。2011年度のスタート時点で4億円以上持っていました。監査法人の先生から、『そろそろ安定的な収益を出せるようになったので、今期以降税金を節約できる分は2011年度に先取りして、計上しなさい』というご指導をいただきました。通常であれば経常利益の6割くらいが最終利益だとご理解しておりますけれども、当社の場合は逆に、2011年度に税金を払わなくて済んだだけでなく、更に2012年度以降の利益分を先取りして計上するようにご指導をいただいたことで、最終利益が経常利益を上回る結果となっています」と最終利益が大きく膨らんだ理由を説明した。
電子書籍配信事業の売上高は、20億20百万円(同105.1%増)と急増している。そのうち、パソコン向けは10億50百万円(同26.6%増)、モバイル(スマートフォン、タブレット)9億70百万円(同531.8%増)となっていて、モバイルの売上が急増している。第1四半期、第2四半期までは、パソコンの売上がモバイルの売上を上回っていたが、第3四半期には、パソコン2億62百万円、モバイル2億75百万円と逆転し、第4四半期も、パソコン3億2百万円、モバイル3億25百万円とその差を更に広げている。
電子書籍の販売ラインナップ数の推移を見ると、2000年12月に販売を開始し、2005年に1万冊、2009年3万冊、2011年5万冊と順調に増えている。つまり、当初は1万冊増やすのに約5年間かかったが、ペースが上がり次の4年間で2万冊増やし、更に半分の2年間で2万冊増やしているように、ラインナップ数を増やすスピードが加速している。
前期のトピックスは、この他に、マザーズ市場への株式上場、立花隆全集の刊行開始、日本航空の「SKY MANGA」サービスとして同社のリーダーの採用、白泉社・角川グループ・河出書房との新規契約等がある。
電子書籍配信事業の売上推移を見ると、06年3億71百万円、07年4億67百万円、08年6億38百万円、09年7億13百万円、10年9億88百万円と順調に伸び、11年は20億26百万円と倍増している。
総資産は13億30百万円(11年1月期6億16百万円)、純資産7億79百万円(同3億5百万円)となり、自己資本比率は58.5%、9.0ポイントアップと大幅に改善している。
■今期の重要施策6点について説明
13年1月期業績予想は、売上高29億60百万円(前期比36.0%増)、営業利益3億50百万円(同13.2%増)、経常利益3億50百万円(同18.6%増)、純利益2億5百万円(同45.0%減)と売上高、営業・経常利益は前期を上回る見込み。しかし、純利益については、先述しているように、前期は法人税の税金を払わなくて済んだだけでなく、2012年度の利益分を先取りして計上した影響から大幅減益を見込んでいる。
今期の業績予想数値を達成するための重要施策は、「重要施策は6点ございます。まず、我々の最大の強みであるコミックの品揃えを一層盤石にしていくということで、まだ契約の出来ていない、大手出版社さんがいくつかあります。筆頭であるのは集英社さんであり、徳間書店さんであり、スクウェア・エニックスさんであり、こういった会社さんと粘り強く交渉を進めていくことを予定しています。2点目が総合電子書店になるために必要となる小説を増やしていきます。これまでは画像で電子化するという方法で行ってきましたけれど、今後はそれに必ずしもこだわらず、色んな方式で許諾が増えるのであれば、それも含めて検討していこうと考えています。3番目が、新刊同時発売でございます。これまで電子書籍市場というのは、出版社さんから見ると安く出さなければいけない、安く出さないといけないと紙の売上が下がってしまうのではないかという心配があって、古いものしか出さない、そのような傾向を取られる出版社さんが多くございました。一方、講談社さんや角川さんを中心に、新刊同時に出しても、紙の売上は損なわれないどころか勢いがつくと理解される大手出版社さんが増えてまいりました。我々も新刊同時発売というものに力を入れてまいりたいと思っています。4番目がキャリア決済でございます。今までは若年層のお客様はなかなか正直に言って取り込みにくいというところがございました。やはりクレジットカードを持っていないところが大きなハードルになっていました。今後はキャリア決済によって若いお客様にもお買い上げいただけるようになると考えています。auは11年度中に済み。ドコモは対応中でございます。ソフトバンクにつきましては、現在交渉中でございます。5番目は読みやすさ改良でございます。読み始めるまでのリードタイムを縮減することを取組んでいく予定です。最後の6番目が新規購入者の獲得のためのキャンペーン、パートナーさんとして、メーカーさん、キャリアさん、出版社さんとタイアップしていろんな新しい試みをやっていきたいと考えています」と重要施策を説明した。
電子書籍出版事業の市場拡大、スマートフォン・タブレットの普及拡大に伴い、同社の業績は急拡大している。今期も業績は順調に拡大する見込みであるが、最終利益が先述の理由により、大幅減益を見込んでいることから、株価が急落した。しかし、同社の将来性を踏まえると、一時的なものであり、反発が予想される。