■専用ソフト搭載でDMの内製化も可能
理想科学工業<6413>(東1)は、5月8日に今10年3月期連結業績予想を発表しているが、前期に引き続き今期も売上高780億円(前期比6.9%減)、営業利益△24億1000万円、経常利益△20億4000万円、純利益△22億6000万円と減収であり、営業・経常・純利益共に赤字を見込んでいる。
同社の特長は開発力であり、同社が開発した高速デジタル印刷機のリソグラフは、1枚当たりの単価は枚数が多ければ多いほど安くなるため、国内はもとより、世界150カ国以上の公共機関、学校、企業等で使用されている。その後、インクジェット式の高速カラープリンター「オルフィス」を開発。最新のXシリーズではソフトを組合わせることにより、可変データーを高速で印刷することも可能。現在、先進国を中心に普及している。
リソグラフ、オルフィスの2本柱で売上を伸ばし、最高益更新を継続する時代もあったが、最近は世界の景気低迷の影響で、売上高1000億円達成目前で足踏み状態が続いていた。ところが昨年発生したリーマンショックにより、世界経済が一時的に麻痺状態に陥った影響で、先述しているように前期は赤字、今期も引続き赤字を見込む状況である。
しかし、前期末の現金及び現金同等物の残高は、3月に金融機関からの融資を受けることなく132億円の転換社債を償還しているにもかかわらず、232億4600万円とこれまでの好業績のお陰で潤沢。
その様な状況の中で、どのようにして、この苦境を抜け出そうとしているのかと思いながら、同社のIR担当者を訪問したが、意外にも明るい話が聞けた。
今年の2月より、オルフィスの新製品であるXシリーズの売上が予想を上回るペースで伸びているそうである。前の機種はカラープリントが毎分120枚の速さで、1枚当たりのコスト2.5円であるが、Xシリーズの最上位機種では毎分150枚、コスト2.05円。しかも、本体のサイズは3分の2とコンパクトになっている。
他社製品の場合、毎分50枚から60枚のスピードで、1枚当たりのカラーコピーのコストは20円程度。多くの企業では、経費削減のためにカラーコピーの使用を禁止しているが、オルフィスであれば、フルカラーであっても他社のモノクロコピーより安価であるため人気がある。研修用に、販売促進用に大量のコピーを使用する企業は、オルフィスを導入することで、コスト削減が可能となる。
更に、バアリアブルプリント(可変印刷)用ソフトをオルフィスのXシリーズに組合わせることで、DM(ダイレクトメール)の印刷も可能になっている。これまで、DMをアウトソーシングしていた企業は、同社の製品を導入することで、DMを内製化し、活発な販売促進が可能となる。しかもコスト削減、時間の節約、セキュリティも保てる等のメリットもある。現在、DMをアウトソーシングしている企業をターゲットに活発な営業活動を行っている。
2月から330万円、430万円の2タイプを販売しているが、5月より230万円の機種も販売を開始している。好評であることから、上期に米国、下期には欧州と順次に海外での販売を開始する予定。国内での上位2機種の販売目標台数は2000台。売上高は連結ベースで全売上の4分の1を目標としている。
リソグラフ、オルフィスの販売台数が増えると共に、インク等の消耗品、保守・メンテナンスなどの売上も伸びて、ストック型の安定的な収入となっている。更に、今後DMを内製化する企業が増えると、ソフト、後処理機(紙折り・封入機、シーラー)等の売上拡大も見込めるため、業績の早期回復も期待できる。
今期の想定為替レートは1ドル88円としている。1円の円安が進めば、売上高で1億5000万円増、営業利益5000万円増のとなる。1ドル88円より円安であれば、業績は上振れる。6月現在は1ドル96円であるので、今期業績予想は堅めの予想といえる。