(1)IRで先行
名古屋証券取引所 畔柳 昇 (くろやなぎ・のぼる) 社長に聞く
IRで先行、数多くのイベントを提供
「情報発信基地」の役割りを強力に推進
裾野の広い自動車産業の好調を背景に名古屋中心に中部経済は好調だ。土地投機に無縁の風土からバブル崩壊の影響もなく、多くの富裕層を支えに株式投資への関心は非常に強い。IRではどの取引所よりも力が入っており、「名証IRエキスポ」は14年の実績を持ち07年の来場者数は6000名を突破。一方、セントレックス上場企業数は31社となり市場としての認知を得たことで早い時期に50社を目指す。活気に満ちた名古屋証券取引所の畔柳昇(くろやなぎ・のぼる)社長に聞いた。
―まず、売買の東京一極集中についてお聞きします。東京以外の取引所はどこも売買量が落ちている状況ですが、名古屋市場の売買シェアはいかがですか。
畔柳社長 取引がシステムとなって、一層の東京集中化が強まっています。売買シェアのことは、言ったところで意味のない状態です。我々が独自でシステム開発を手がけますと多額の資金が必要となりますので、今年5月に東証へ売買システムを業務委託しました。
―東京市場一つに集約されてもよいということでしょうか。
畔柳社長 それは違います。市場のことと取引所の役割とは別の話です。
―具体的にはどのような違いでしょうか。
畔柳社長 売買は東京市場で執行されても、名古屋証券取引所としての役割はむしろ高まっていますし、高まるように我々は努力をしています。全国の新興企業の株式上場を支援することや、すでに上場している企業のIR支援を行っています。また、社会は今、貯蓄から投資の時代を迎えていますが、この流れの中で名古屋地区の個人投資家の皆さんへの情報発信基地としての役割が、非常に大切だと思って取り組んでいます。
―早速、その取り組みについてお願いします。どのようなイベントメニューがありますか。まず、メニュー全体について教えてください。
畔柳社長 イベントでは、「名証IRエキスポ」、「株式投資サマーセミナー」、「株式投資ウィンターセミナー」、「企業研究セミナー」、「名証上場企業WEEK in TOKYO」などです。サービスとして、「相場情報の提供」、「メールマガジン」、「名証ホールの提供」、「セントネットの提供」、「見学・閲覧のご案内」などを提供しています。
(2)名証IRエキスポを毎年開催
「名証IRエキスポ」を毎年7月中旬に開催
―それでは順に、個々
にお聞きしますが、「名証IRエキスポ」は大変な評判と、お聞きしています。IRでは先発だそうですが。
畔柳社長 冒頭、取引所の役割を申し上げましたが、その重要なひとつが「IR」です。個人投資家の方に自己責任を求める以上は会社の内容をよく知ってもらうことが大切です。もちろん、決算などの重要情報はルールに則った開示は当然ですが、会社のファンとなって長くその会社の株主になってもらうためには会社をよく知ってもらうことです。それがIRです。この考えの基に、「名証IRエキスポ」を毎年7月中旬の2日間、市内の大規模ホールで開催しています。今年で14回目でしたが、振り返ってみますと始めた当時はPRとIRの区別が明確に受け止められていない状況でした。広告代理店等に依頼するのではなく、最初から自分たちの手で会場のブースからイベント内容にいたるまで手作りでやってきました。
―来場者も多いそうで
すが。
畔柳社長 年々、来場される投資家の方は増えていまして、昨年の出展企業131社、来場者数5000名に対し、今年は132社、6200名と大盛況でした。
―日本では最大級のIRイベントですね。
畔柳社長 そのように自負しています。
―以前に比べ、来場者に変化が見られますか。
畔柳社長 アナリスト
と個人投資家の双方に対し、ワンストップでのIRが可能で、ブース以外にも、経営者のプレゼンテーションや説明会なども用意しています。以前に比べると、ベビーカーを押した若いサラリーマンの夫婦が目立つようになり、このIRイベントが定着したことを感じます。
―やはり、名古屋地区はお金持ちが多くて株式投資に関心が高いよ
うですね。しかも、バブル崩壊の影響をほとんど受けていないため、2003年頃の不況の真っ只中に名古屋を訪問して東京と比べて活気があったことの印象があります。
畔柳社長 名古屋では、土地はしっかりと持っているもので売買するものではない、という考えが強いですから、土地投機が入り込む余地はありませんね。しかも、中部経済圏はモノ作りを基盤として、とくに自動車の好調で、裾野の広い産業ですから好調な景気が続いています。飛行機の主翼の工場もあり繁忙を呈しています。こうした経済力の強さと堅実さで名古屋には富裕層が多く、ある大手証券では名古屋の2店舗で預かり資産は全店トップと聞いています。それだけにタンス株券も多いようですが(笑)。
―サマーセミナーとウィンターセミナーはどのような内容ですか。
畔柳社長 サマーセミナーは2年前から始めて、07年冬からウィンターセミナーも加えました。夏・冬にそれぞれ6~8日間実施しています。夏・冬とも株式投資セミナーと企業説明会がセットになったイベントで平日の夕方と土曜日に開催していますので、仕事帰りや休日のお出かけの際に気軽に参加いただけます。場所は市内のホールで今年から定員を120名から300名に増やしました。参加企業は07年のサマーでは24社でした。
(3)企業研究セミナー
アナリストやファンドマネージャーを対象にした会社説明会
―IRエキスポは大々的で、参加者は少ないもののアットホームということで、なかなか、きめの細かいやり方ですね。次に、ご紹介いただく「企業研究セミナー」とは、どのあたりが違うのでしょうか。
畔柳社長 これまでご説明しましたセミナーは地元企業が中心ですが、この「企業研究セミナー」は、中部地区以外を拠点とする名証上場企業、とくに在京・在阪の企業で、主として大手の企業に対し、名古屋地区でのIRの機会をご提供するものです。平成16年に始めました。開催は6月、9月、11月、2月の年4回。1回に3社、年間で12社の参加企業です。個人投資家及び証券営業担当者別にセレクトした少人数単位の説明会を同時に開催しています。120名程度の少人数で市内のホテルで開催しており、アットホームな雰囲気での活発な質疑応答が評判となっています。毎回、非常にたくさんの応募をいただいて抽選によってご案内しています。
―ユニークな試みですね。「名証上場企業WEEK in TOKYO」も、ユニークそうな名前ですが。
畔柳社長 他にはない試みだと思います。名古屋の取引所に上場する企業のトップが東京に集結して、アナリストやファンドマネージャーを対象にした会社説明会です。平成15年から始め、毎年12月に1日3、4社づつ1週間連続で開催します。場所は日本アナリスト協会の会議室です。
―お話を伺いますと、全国の証券取引所の中で文句なく一番熱心です。
畔柳社長 申し上げましたように売買が東京に集中するのは時の流れで仕方ないと思います。今後も我々は投資家と企業を結ぶIR支援を強化していく姿勢です。
―企業の決算発表にも支援の場を提供されているそうですが。
畔柳社長 報道機関の記者の皆さんに取引所で1社20分に限定して決算のポイント発表を行える場を設けています。これも名証が情報発信の場所であるという意志の現れです。
―名古屋取引所の上場企業数と、その「うちの単独上場企業について教えてください。
畔柳社長 1部上場企業が247社、内単独上場が8社、2部企業が111社、内単独が72社、セントレックスはすべて単独で31社、総合計で上場企業389社、内単独111社です。
―07年はセントレックスへの新規上場は少なかったのでは。
畔柳社長 06年度は14社ありましたが、07年度は1社にとどまっています。
―セントレックスだけの問題ではないと思いますが、今後をどのようにご覧になっていますか。
畔柳社長 ライブドアの影響もあって(IPOは)減っていますが、「潮目」の良し悪しだと思っています。また、潮目が良くなると思います。IPO予備軍は多いのでセントレックスの上場企業を50社にすることが目標です。だからといって上場基準を緩めるということではありません。現在、30社を超えてきましたので新興市場として認知されてきたと思いますが、さらに50社となれば形ができてくると思います。
―ありがとうございました。
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