提言 個人投資家が知っておきたい企業IRの現状と問題点(上場企業のIR担当者も必見)
個人投資家が知っておきたい企業IRの現状と問題点

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企業価値創造のIR活動とは何か 求められる情報開示のあり方


新たな企業IRのあり方 投資家との良好な関係と新たな価値創造
IRは企業価値の評価を市場に委ねるメッセージ

 本格的なM&A時代が到来し、株主を軽視していると言われてきた日本的経営に関して「会社は誰のものか」という議論も活発に交わされました。しかし結果的には、買収防衛策の導入や発動、株式持ち合いの復活や強化が進み、企業が過度な防衛や、内向きの経営に走る傾向を強めたと指摘されています。また最近の株価下落で、持ち合い株式の評価損を計上する企業が相次いでいますから、今年の株主総会では株主に対して、株式持ち合いの説明責任が問われることになりそうです。

 株式持ち合いが行き過ぎると経営者にとっては友好的な安定株主に囲まれる状態を作ることになり、市場からの経営監視が機能せず、コーポーレート・ガバナンス(企業統治)の低下を招く懸念が指摘されています。安定株主比率が3分の2を超えていれば経営者は安泰ですが、経営者の保身と受け取られても仕方がないでしょう。株式を上場していることの意味や目的を勘違いしている経営者も少なくないようです。市場から経営をチェックされたくないという考えは論外です。経営をチェックされたくないのであれば、そもそも株式を上場している意味を問い直すことも必要でしょう。したがってIR活動の目的が、買収防衛のための安定株主作りというのは好ましい状態とは言えません。IR活動というのは本来、企業価値の評価を市場に委ねるためにメッセージを発することです。

企業IRは形式的な情報開示のみならず市場との対話に取り組むことが必要

 IR活動に消極的な企業というのは一般的に、会社の歴史は長いが成長していない企業、新規上場時には注目されたがその後の業績が低迷している企業、オーナー経営者など安定株主の保有比率が高い企業などが考えられます。IR活動に無関心のように思える企業や、そもそも上場している理由がわからない企業も少なくありません。こうした企業にはアナリストも訪問しません。

 また市場での注目度の低い企業であれば、会社説明会や業績説明会を開催しても出席者は少なく、経営者やIR担当者は注目度の低さや株価の低迷に頭を痛めることも多いでしょう。誰も注目していない小型株に妙味ありとしてアナリストやファンドマネージャーが小型株物色に走り、個人投資家の人気を得た時期もありました。しかしライブドアショック以来、業績低迷や会計不信なども影響して、新興市場の企業への投資は個人投資家からも敬遠されています。

 そしてIR活動を強化し、情報開示を充実させたからといって、必ずしも期待どおりの株価形成につながるとは限りません。IR活動を強化しても報われないことが多く、業績が好調なのに株価が割安に放置されていると嘆く経営者は多いようです。しかし、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などの指標面で、株価が割安に放置されているということは、投資家がその企業の成長力に魅力を感じていない証拠と解釈することもできます。投資家に魅力を感じてもらうためには、単に投資家を喜ばせるメッセージや形式的な情報を発信すればよいというものではなく、市場に向かい合い、市場との対話に取り組むことが求められます。

IRを積極的かつ持続的に行う企業が投資家からの信頼を勝ち取る

 企業は個人投資家に対しては長期保有の安定株主として過大な期待はできません。しかし、長期的な企業成長シナリオを説明できれば、長期保有の投資家の理解を得られるでしょう。悪材料でも素早く公表することで、そうした問題を適切に開示する企業だと評価されるはずです。そして事業戦略や株主配分方針を理解し、利益成長を継続すると評価すれば投資家は長期保有するでしょう。したがって成長シナリオに沿った業績を達成し、利益成長を持続することが何よりも重要です。

 成長を持続していれば、いずれ投資家は注目します。注目する投資家が増えれば株価は上昇し取引も活発になります。株価が上昇すればさらに注目する投資家が増えます。IR担当部署に対する問い合わせが増え、アナリストやファンドマネージャーの訪問が増え、説明会を開催すれば席が足りないほど出席者が増えます。経営者やIR担当者から、うれしい悲鳴が聞こえてきます。もちろん同時に、経営者にとっては大きなプレッシャーがかかるようになります。成長期待が裏切られれば「モノ言わぬ株主」は「モノ言う株主」に変わり、安定株主でなくなり、保有する株式を売却するでしょう。

 IR活動において重要なのは、投資家に迎合することではなく、投資家の信頼を得ることです。一時的な株価刺激材料ではなく、企業としての課題と対策を開示し、説明することが重要です。こうした意識を持った経営者であれば、投資家は経営者を信頼して株主となり、経営を任せるでしょう。結果的に、長期保有のサポーターを獲得することができるはずです。逆に投資家が不信感を持つ限り、安定株主にはなりえません。個人投資家が安定株主になり得ない背景に、市場や経営者に対する不信感があるとすれば、やはり市場のルールや経営者の意識に大きな課題があると考えられます。

アナリストサイドにも課題

 アナリストサイドにも課題がないわけではありません。証券系のアナリストは研究所に所属している人がほとんどですが、研究所の親会社は証券会社です。当然、そこには企業と証券会社間の幹事問題など、あからさまではないとしても微妙な阿吽の呼吸のような関係があります。悪くは書き難い、他社幹事企業より自社幹事企業を優先させたい、という事情がが働くであろうことも否定できません。また、金商法以降、社内の検閲的な表現規定が厳しいため読み手より社内向けのレポート内容となって投資家には分かり難い、しかもレポート発行まで時間がかかる、さらに外国人投資家好みの銘柄が中心となって小型企業や地方企業はウォッチが疎かになる、といった課題があります。

高齢化社会で「株主争奪戦」が始まる

■ 「親切」「ていねい」「分かりやすさ」がこれからのIRの方向

 団塊世代の大量定年は、退職金を手にされた方々を株主として獲得するチャンスです。しかし、半面で老後を考えると投資態度は会社勤務時代とは違って慎重です。しかも、定年ということを考えれば、男性だけで投資の決定をすることはできず、奥様の意見も重要となってきます。その場合のキーワードは、「親切」、「ていねい」、「分かりやすさ」が非常に大切です。もちろん、家族に喜ばれる「株主優待」は重要なファン作りのツールです。高齢化社会では、株主数が減って行くことを意味します。株主数が基準を満たさないと上場廃止も起こりうるのです。そのためにも、経営トップ゚自らが投資家の前で、親しみをもって、分かりやすくIRを行うことが、これからの株主作りの大切なポイントとなります。

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提供 日本インタビュ新聞 Media-IR 2008.06 |特集