Q.「ROAとはなんですか。どのように投資に役立てたらよいのですか?」 |
「ROA」はリターン・オン・アセットの頭文字を採ったものです。総資産利益率という意味です。総資産とは貸借対照表の資産合計です。その企業がどれだけの資産を使って、どれだけの純利益を上げているかを見る指標です。「純利益」÷「総資産」=%で計算します。当然、「少ない資産で多くの利益を上げる」、ことが良いわけです。
しかし、鉄鋼、電力、鉄道などのように多額の資金(資産)を必要とする産業もあれば、IT関連産業のようにそれほど多くの資産を必要としない産業もあります。このため、ROAを使って比較する時は、同じ産業にある企業同士で行い、どちらの企業が効率的かを見ます。また、国家全体の観点からみる場合は、できるだけ少ない資金で多くの利益を上げることのできる産業、いわゆる「高付加価値産業」を育成することに政策の力点が置かれるのです。
ROA=純利益÷総資産で求めることができますが、次のように分解することもできます。ROA=売上高利益率×総資産回転率となります。仮に、次のような内容のA社とB社があったとします。
A社=総資産3000億円、年間売上高1500億円、純利益50億円。B社=総資産4500億円、売上高1550億円、純利益55億円。
このデータから見れば、B社の方が資産・売上・純利益とも、すべてA社が優秀と見えます。「大きいことは良いこと」という、日本独特の価値観があるからです。しかし、ROA(総資産利益率)を使ってみれば違ってきます。
A社・ROA=50億円÷3000億円=1.66%
B社・ROA=55億円÷4500億円=1.22%。
「ROA」では、逆に、A社が優秀で、B社がかなり劣っています。このことは、仮に、A社の経営者がB社へ移ったらB社の利益はもっと上がる可能性があります。つまり、B社の経営者は経営手腕が劣っていることであり、長い年月の間には大きな差となり、当然、従業員への給与、株主への配当の差となって現れます。もちろん、株価の開きとなってきます。
そこで、どこにB社の利益率の低い原因があるのか、先ほどの「分解式」を使うと原因をつかむことができます。
【A社】
売上高利益率=50億円÷1500億円=3.33%
総資産回転率=1500億円÷3000億円=0.5回
EOA=3.33%×0.5回=1.66%
【B社】
売上高利益率=55億円÷1500億円=3.66%
総資産回転率=1500億円÷4500億円=0.33回
ROA=3.66%×0.33回≒1.21%
この分解式で見ると、B社は売上高利益率ではA社を上回っています。製品力、製造面、販売面のいずれかにおいてB社が上回っていると言えます。しかし、B社は総資産回転率でA社に比べ劣っています。これは、B社の、(1)保有している資産が大き過ぎるか(資産肥大症と言います)、(2)売り上げが資産に比べ小さい、ことを意味します。
(1)の場合なら、資産の中身をチェックして収益に寄与しない資産を圧縮することが必要となります。
(2)の場合なら、今の売上高利益率を維持しながら、売上げをもっと増やすことが必要となります。
しかし、不況になると簡単には売上を増やすことは難しいのです。無理をして売上を増やそうとすれば、安売りして売上を伸ばそうとします。安売りは売上高利益率の低下につながります。
このため、不況になると多くの企業は総資産を圧縮して、総資産回転率を高めようとします。資産を圧縮すれば貸借対照表の負債を減らすことができるからです。